34話 テッキ王の目論見
俺に向けて振り下ろされるゴーレムの腕を、オウ次郎が斬撃で受けとめる。
その動きが止まった一瞬で、ヒトとオージがゴーレムの胴体に技を二つ三つと叩きこんだ。
いけるな。
一般人目線なら驚異の超兵器なんだろうけど、俺たちからすればただかたいだけのでくの坊だ。
「兄貴よけて」
もう何度目かになるゴーレムの目から出るビームに注意するよう、オウの声が飛ぶ。
俺めがけて飛んできたビームを軽々かわすと。
やつのはるか上空からゴーレムのあたまにめがけて一撃を叩き込み、そのままゴーレムを真っ二つに切り裂いた。
「アベル流攻の番『剛刀大切断』」
ガウと戦った時に見せた力の技だ。
このゴーレム程度の装甲ならとうふの様に切り裂ける。
【レベルが上がり神々からの祝福を授けます ちからまもりすばやさが999上昇 体力魔法力が999上昇しました。】
ゴーレ厶と敵兵6万人以上の経験値はすごいな。
これならオージに注いだ分のレベルに戻すのもそう遠くはないぜ。
俺はそんなことを思いながら、ニャハルをちらっと見る。
俺の考えてることが分かったのか寂しそうだ。
わかってるって、前に言ってたように二人で修行するって。
ガシャガシャと遠くで音がする。
その方向に目を向けると、たったいま俺たちが倒したゴーレムが千体。
そして別の禁忌指定兵器が何千と用意されて、こちらに向けられていた。
「カノンか」俺はそうつぶやく。
魔法使いが弟子に持たせる小型銃の形をした、マジックガンという道具がある。
護身用なので、敵を倒す能力はなくせいぜい敵をマヒにして動かなくさせる程度の道具だ。
カノンは異世界人がマジックガンをもとに発展させた、大量殺戮兵器である。
大型の大砲が覇権戦争の初期に用いられ大きな戦果を挙げた。
戦争後期には小型の携行用カノンが生み出され猛威を振るったのだ。
「あれってそんなにまずいの?」
オウ次郎は俺の顔を覗き込むように聞いてきた。
「まずいが過ぎるね。ただの一般人でも強兵へと変える悪魔の兵器だ、なにしろこの理由が決め手になって、戦争に不干渉だったあのアーガシアを動かすことになったんだからな」
「弱点は、使い手の魔力を強く吸い取るために短時間しか使用できない……でしたよね」
補足を言ったオージの顔に汗が流れてる。
俺と同じ考えが浮かんでいるからだろう。
カノンの弱点はなくなっていて、長期運用できる改良が施されている。
そうでなければ、戦争の場に周りの国から支援を受けられなくなるあんな禁忌指定の兵器を持ち出さないはずだ。
「ここで食い止めないと。犠牲者は拡大するぞ、テッキ王は世界を征服するつもりだろうからな」
そのとき、こちらに向けて大きな声がひびいた。
「その通りだ白いゴブリンよ!!」
白髭白髪の壮年が、でかい馬に乗って叫んでいる。
間違いなくあいつが敵の総大将……テッキ王だなぁ。
やつは勝ちを確信したのかベラベラ怒鳴り散らしていた。
つばを飛ばし、表情が醜くゆがむその様には、とても王の風格なんてものはない。
「ああいう人間にはなりたくないな」と言ったのは俺をふくむ四人全員である。
テッキ王は口上を続ける。
「余がテッキ国王、ヒトノテキ・テッキ四世なり! 余は邪悪なる魔物をマナの肥沃な土地より追い払い、これからの余が起こす聖戦に役立てるものなり。邪悪な魔物はその醜悪な生き様を恥じて自ら自害せよ。そして余に土地を明け渡せ。おお、それとそこの強力なゴブリンとドリアードは余の奴隷コレクションに加えてやろう、オークと人間種の小僧は奴隷市場にでも流してやるか。ワハハ」
なんのこっちゃ。
魔物側の生態も知らずに何が邪悪だ。
勝手なことをベラベラといいやがって。
でもこれで奴の狙いもわかった、その内容は俺が事前に想像した通りだったぜ。
「間違いなくテッキ王は禁忌指定兵器を改良している。術者からではなく土地からのマナで動かせるようにね、だからオージたちのルルニカの森をねらってきたんだろう。その証拠に、マナの肥沃な土地を明け渡せといま自分で言ってたからさ」
とりあえずやつの狙いもはっきりしたし、ここで俺たちが負けたら禁忌指定兵器で大勢の犠牲者が出てしまう。
どこまでやれるか、しらんが戦うしかないだろうな。
俺たち四人は顔を見合せる。怯えは微塵もなく、みんなの顔には吹っ切れた笑顔がはりついている。
思いは俺たちの後ろにいるドリアードたち全員が同じだった。
さて向こうの口上も終わったし行くとしようか――
「そんなこと僕がさせると思う?」
戦場に重く声が響く。
声の方にふりむくと、愛するものを奴隷に堕とすといわれて怒りに染まった。
魔帝が俺の後ろに腕を組んで立っていた。
テッキ王もタブーの設計図さえなければ、野望を持つこともなかったでしょう。次回は魔族の少女ではない魔王のミラルカがみれますよ、ひかないでくださいね。
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