33話 超人と一般人と、ときどきタブー
広い戦場の中二つの軍が左右に展開している。
ルルニカの森のドリアード軍2,000の戦士隊が左、テッキ国6万の人間種の軍が右である。
テッキ国側は、みればジャイアントやオークといった魔物が混在していて、魔物使いの部隊が制御しているのがわかる。
魔物たちは全員意識を飛ばされて、かるいバーサーカーの様子をみせている。
もちろん、この戦争で暴れさせるためだろう。
殺し合いの中で理性ほど邪魔になるものはないからな。
昔から兵に戦時高揚のための薬を服用させて戦わせるのはよくあることで、その強化版が魔物のバーサーカーというわけだ。
まったくひどいことをする。
通常の魔物使いは魔物と心を通わせる。
指示を出したり、時には魔物に意識をのせて戦うことはあっても、あんな風に魔物の意識を奪うことは絶対にしない。
あれは魔物をただの道具と思っている外道がやることなんだ。
くそっなんだか無性に腹が立ってきたぞ。
みると俺と同じ存在のオーリンジも、怒りの表情で俺と同じ気持ちの様だった。
オージから、指揮は俺に一任すると通達があった。
まぁこの戦争の後、俺の国に来ることが決まっているからで『魔王の采配に任せる』ということらしいね。
そういうことなら俺も遠慮はいらないな。
「よしそれなら全兵士はその場で待機。犠牲にならないよう自分の身を守ってくれ。戦は俺とオウ、ヒト、サン、ニャハルの【ゴブリンとゆかいな仲間たち】。あとオージの6人で終わらせる。ニャハル例のやつをたのむ!」
「わかったぞぉ。でもほんとにいいかにゃ?」
俺のうなずきに、ニャハルは俺から吸い取ったレベルをオージに流し込む。
神でようやくできるこのレベルの受け渡しを、ニャハルは楽にやってのけた。
こうして俺たちより劣っていたオージのレベルは俺たちと同じになった。
でもこれだけじゃない、ニャハルの力でみんなより下がった俺のレベルを同じ状態に底上げしてもらうのだ。
ドーピングと同じで体に大きな負担がかかるが苦にはならない。
オージそんな顔するなよ、こうすることは昨日前もって話していただろう。
なぁに俺の下がったレベルはまた上げればいいだけのことだし。
俺の目の前にはそのための師匠がいる。
そしてかわいい弟子のオージに苦しい思いをさせるよりは、俺がたえればいいだけの事で氣分的に楽なもんさ。
準備もできたしさぁ戦争開始だ――
敵は鬨の声をあげながら、陣形をとってこちらに突進してくる。
隙間なく槍をかまえた歩兵。
俺たちを囲むつもりの騎馬隊、そして最後方には前線の兵士たちを援護する魔法部隊か。
支援のバフがかかって俺たちにむかってくる敵は、さしずめ大雪崩といった感じだね。
だが大した脅威には感じない、あくまで一般レベルを相手にした戦術というところだろう。
サンから「みんなのバフかけ終了っす」とサンのお守りについてるニャハルの「マスター、命をねらうやつに情けは無用にゃ。遠慮なくやっちゃえにゃーー!」の声が合図に。
俺たち四人の動きは、腰を落とした居合のかまえという具合にシンクロする。
せぇえーーーのっ!!!
「「合体奥義! シーラエンド! パンツァーカッロ・アルマート!!!!」」
その名の通り、力の戦車と思わせる四人がかりのエンデ・ジエンドはバゴンとあっさりしたでかい音をたてると、敵軍5万6千人をまたたくまに消滅させた。
敵がとった戦術が有効なのはあくまで一般レベルであって、俺たちのような超人と言って差し支えないレベルには意味がない。
俺いちおう魔王だしね。
今回の敵も殺しはしたけどニャハルに言って後で生き返らせてもらうし、問題はないだろう。
人間の国へ向けて、トウ・ダーラ国の脅威度も植え付けないといけないしさ。
なんせ、あるていどは力を見せとかないと、むこうから戦争を仕掛けられたり勇者が攻めてきたりと面倒になるからなぁ。
俺はそう心の中でうなずくのだった。
たった一回の攻撃で、兵の半分以上をやられて敵はその場で固まっていた。
俺たちの次の攻撃で、今度は自分がやられると思うのだからそうなるのも無理はないね。
さてこのまま一気に終わらせるとするかな。
魔物の部隊が出てきた場合、仲間たちには殺さずに無力化しろと言ってあるし。
これが普通に敵だったら無力化なんて言わないんだけど。
なにせ魔物自身の意志がない状態だからねぇ。
おっと、そうしていると向こうに動きがあった。
兵器を用意して……なるほどどうりでルルニカの森を自国の領土にしたがるわけだぜ。
テッキ王はもう一度世界大戦を引き起こすつもりか? オージも覇権戦争を経験してるから俺と同じ気持ちをもつよね。
「何あれ。人型のモンスター?」
「ゴーレムですね、術者の魔力をコアに込めることで動かせる魔導兵っすよ。なんだよあんなのが秘密兵器か? 今の俺たちなら楽勝っすよね大兄貴」
オウの疑問にヒトがこたえる。
俺もそう思うよアレが
【覇権戦争で猛威を振るった結果、禁忌指定を受けて封印された】ゴーレム兵でなければだけどね。
「マジっすか?」
まちがいない覇権戦争で見たゴーレムだ。
禁忌指定の兵器を使った国はタブーを破った罰でどの国とも交易をされなくなる。
あれはそれほどの兵器だ。
しつこいがテッキ王は本気で世界征服する氣だな。
俺はサンに念話で魔帝をここに来るように指示を出した。
というのも【世界のあり様を大きくかえる】ことを嫌う【竜帝】が動く可能性がある。
というか絶対動く。
なぜなら覇権戦争で大量の禁忌指定兵器をはかいしたのは、まだ龍帝と呼ばれる前のアーガシアだからだ。
彼女は自分と同じスタンスの魔帝が動くなら、自分は動かずに動向を見ることも広く知られている。
「禁忌指定と言ってもこのパーティーなら楽にたおせるだろう。オウ、ヒト、オージ他には目もくれるな。あのゴーレムを破壊するぞ!」
三人の「おう」の掛け声と同時に、俺たちは目標に向けて駆け出した。
アーガシアにこられるくらいならミラルカ呼んだ方がましとアベルは判断しました。
アーガシアは魔王軍の中で特別扱いされていた龍族なので魔王を倒したアベルはアーガシアに恨まれていると思ってるんですね。
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