32話 アベルの夢
俺とオーリンジは再開のハグを交わしている。
密着したお互いの体温が温かく、日向にいるような感覚を覚える。
しかし、オージの手が俺の尻にあたってるんだけど。
こいつ、こんなやつだったかな?
俺とオージは名残惜しそうに体を離した。
オージはエワード王の子で、王が城下の娘に産ませた。
王も知らない子供だった。
母を亡くした後に一人で生きてきたオージは、自分と母に不幸しか与えなかった世界を憎むようになった。
母親から父親は王なのだと聞かされていたオージは、エワード王ではない。
新王になった俺を父と勘違いして、襲うことになる。
当然理由は母に苦労させた仇をうつためで。
人違いで襲われた俺は、オージを返り討ちにする。
誤解を解き、初めての弟子にした。
仲間からはオージのどこが気になったのか? って弟子にした理由を聞かれたけどいえるもんか。
【その時のオーリンジの目が、希望を持てない誰かさん(昔のおれ)に似てたから】なんてさ、まったく。
才能があり努力を押しまないオージは、またたく間に強くなり
ついには魔王を倒すまでになったのだ。
あの覇権戦争が終わった後
オーリンジのパーティーで世界中を回ったっけ、楽しかったなぁ。
アベルの人生であんなに楽しかったのは、そうそうなかったな。
「アップルが来たってことはアップルの仲間の中に、使者の人もいるのか? 俺は気がついたらこの体に転生しててな、俺が赤ん坊の時に使者をよこすと聞いたぞ」
「うちがその使者っす。うちの他に使者は8人いるんすが、オーリンジさんは見てないっす?」
「魔物の体をもつ人間種は広い世界に7人しかいないからね。簡単には見つからないよ。そうだよなオージ」
「うん。使者はその人が初めてだよアップルはどうだ。他の使者を見てないんだろう?」
「まだサンしか面識がないさ。それより、ややこしいからアベルでいいよ。そう呼んでくれ」
椅子に腰かけたオージは膝の上に俺を乗せながら、にこにこ話していたんだけど、
その様子を見たヒトが聞いてきた。
「なんか距離近いけどお二人は付き合ってたんですか」
そこに触れるかなぁ。
結論から言うとオージの一方的な好意で付き合うことはなかった。
俺からすると彼は子供のころから鍛えた弟のようなものだ。
つまり俺にとってのオーリンジは、身内でしかないのである。
そりゃ告白もされたし、ダンベルマンもといヴォルデウスからも、付き合うのもよいではないかと勧められたけど。
どうしても無理なんだよなぁ。
オージは笑いながら「俺の片想いですよ」っていうし、まだあきらめてなかったんだ。
「アベルの夢は叶なったかい? 俺の方が先に死んだから気になってな」
「兄貴の夢ってなに? 聞かせてよ」
「ここまで大兄貴にきいた事実は伝記と違いましたからね。伝記だと世界を平和にすることって、書いてるけど違うんでしょ?」
「ニャアもしりたいぞマスター」
「うちもー」
そうか、そういえば今のパーティーにはまだ言ってなかったっけ。
そんな大したもんでもないんだけど……。
大した夢じゃないから伝記にするときに改変されたくらいだからなぁ。
俺の夢はやめようと思えばいつでも辞められるけど、その気になれば終わりが来ないものなんだ……。
もったいぶったけど、意を決して俺は口を開く。笑うなよな~。
俺の頭にイフマイータを倒す前の、あの森の「「アベルあなたの夢はなんだ」」と聞く4人の姿が浮かんだ。
「俺の……あたしの夢は【旅をすること。旅の中で世界中を回って、見た世界のすべてをこの心に焼き付けること】それがあたしの夢だ。おわり笑うなよ」
あれれ? 静まり返ってるんだけど逆に気まずいな。
なんて考えていたら。
唐突にヒトが立ち上がり両手と首を上に向けて「おおーーーん。ア……アベルの夢がこの耳で聞けて、良かったっすーー!!!」とさけんだ。
なんなんだ。
ちょっと怖いぞ、あっそういえばヒトが酔ってるときに。
本人から俺はアベルに憧れて町を出たんすって聞いたっけ。
あれ冗談じゃなかったんだ。
俺の夢を聞いたヒトは、脚色されてないアベルの真伝記を創作すべく、ガシガシと書き込んでいた。
「結局お城に縛り付けられてて、ろくに旅ができなかったんだけどね。だから夢は叶わなかったんだよ。ごほん、なのでこの二回目の人生はきっちり夢をかなえてやるぜ。アベルの【旅をすること】とソンクウの【トウ・ダーラを世界一の国にしてみんなで幸せになる】の二つの夢をな!!」
わっと場が湧いたかと思うと、みんなが大きな拍手をしている。
視界にヒト三郎の泣き面が見えるが、気にしないようにしよう。
オージなんかヒトが気に入ったらしいね。
「君はふんいきやら、しぐさやらアベルに似ているね。コピーのホムンクルス(アベルの子供)でもアベル似じゃないのになあ」と話してた。
ほらもう天狗の鼻がのびただろう。
ヒトが「はい、アベル流の二代目は俺がとります」なんて言ってるよ。
でもヒトが言うアベル流の二代目に関しては、俺もオウも何も言わない。
なぜならヒトの、二人の兄貴は未来でアベル流を継ぐのは、ヒトだと思っているからだ。
でもそのことは本人には内緒だけどね、すぐ調子に乗るから。
オーリンジ本人だとわかった、俺たちB級冒険者チーム【ゴブリンとゆかいな仲間たち】は、明日はルルニカの森のドリアードに加担することを決めた。
戦争の相手は人間種の国だが、全然気にならない。
事情を聴けば向こうから戦争をしかけてきた侵略者だし。
種族を気にしていたら戦争はできない。
そのことはこの世界に生きる者ならだれでも知っている当たり前のことだ。
テあとアベルの夢はプロローグ2ですでに出てた冒険をすることでした、千年前の世界では自由に世界を回るなんてできませんでしたから、千年後の者からするととるに足らない夢なんですけど当時少女だったアベルには何よりもまばゆい夢だったんですッキ国の戦争では禁忌指定された兵器が登場します。それでも負けないんですけどね
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