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外伝 アベル・ジンジャーアップル2 はじまりの勇者のはじまり

 村長から用事を頼まれて、村の衆とともに一週間程村を離れていたアベル。

 彼女が村に帰ってきた時だった。

 村の中にいつもいる人がいないことに氣が付く。


 エラリオがどこにもいないのだ。

 アベルは口を閉ざす大人達に食い下がり母の身に何が起きたのかを知る。



 エラリオは村に来た魔族が魔族同士の戦争に使う徴兵として連れ去ったと言う。

 アベルの頭に疑問が渦巻いて何が何やら意味がわからなくなる。



 なんでお母ちゃんを連れて行くんだよ? レベルが高くない彼女を連れて行くメリットがない、戦力が必要なら屈強な戦士候補なんて他にたくさんいるのに。



 そしてエラリオが戦争で亡くなったのはアベルが村を離れて2日後と聞く

 アベルの体は怒りに震えていた。



「誰も止めなかったの?」

「できるはずないだろう」


 村人からそんな声があがる。


「何が悪い! 魔族の言う通りにすれば、村は守られるんだ」

 

 幼いアベルでも理解ができる。ただし、それはアベルの母が連れて行かれていない場合なのだが。

 


 アベルの脳裏にいつの日にかエラリオに言われた言葉が思い起こされる


「アベルは環境のせいなのかな? 君は心に火が灯っているのに、無理やりに抑えこんで生きている感じがするんだよね。

 私には少しづつでいいからさ、遠慮せずに君の『本当の姿』を見せてほしい」


 もういい! アベルの胸に火が灯り、その火は猛る業火に変わる。



「今回の徴兵で連れていかれた村の者は残念じゃが魔族には逆らえぬ。仕方がない、それから被害と言えば……ああ、流れ者が一人死んだか。

 まぁ最小の被害と言えるな」

「もう一度言ってみろぉおおおーー!!!」



 あたしの体が風のように動き、ふざけたことを抜かす村長の顔に一撃が入る。

 相手が老体なので思い切り力は抜いてやるが、とにかく一撃が入った。

 周りの大人に体を羽交い絞めにされて束縛されるが構うもんか。

 あたしはひるむ事なく【死んでいるのと変わらない考え方の村人】に向けてがなり散らす

 

「最小の被害だと! 飼いならされた阿呆あほうのセリフだね。魔族にしっぽを振るのがそんなに心地いいのか? 

 ふざけるな! あたしがいないときにエラリオを連れて行かせやがって。返せ、あたしのお母ちゃんを返せ! ここへ連れてこい! それからお母ちゃんだけじゃない!

 村の人間があたし達の仲間が連れて行かれるのに、何で戦おうとしないんだ? あやまれお母ちゃんと、村の仲間に謝れ馬鹿ー」


 黙らないあたしに容赦のない暴力が振るわれる。

 黙らないなら体でしつけてやると言う訳だ。


 胸の火が、理不尽に屈するなと言わんばかりに赤く猛り炎となる。


 あたしの五体に力がみなぎり、力づくで羽交い締めを解いて反撃してやる。


 何人も殴り倒すが、最後は体の小ささと、数の不利のせいもあり、ぼこぼこにされる……。


 それでもアベルはうわごとのように繰り返す


「仲間を連れ去られて仕方がないですむか、魔族に飼われて生きる姿は人間ではない。

 あたしは戦ってやる、人類が必ず自由と幸せを当たり前に手にできる世界に、このムンドモンドを変えてやる……ぜ……」



 アベルはパーティーを組むヴォルデウスに過去を聞かれた際に酒の席で酔いの事もあり


「あの時初めて自分の意志で生きてる」

 アベルはそんな氣がしたと語る





 あたしはまた一人になるが、絶対にうつむかないぜ。

 母(あの人)のおかげであたし(アベル)の心は蘇ったのだから。


「ちくしょう、しこたま殴りやがって。

 女の顔だぞ跡が残ったらどうするのさ」


 言いながらエラリオが遺してくれた回復薬を使い、傷を治して旅支度をする。

 今の季節は冬だから家中の布を身に纏うのだ、これで凍死の心配はないだろう。

 「研いで使えるようにする」、と置かれてる錆びたエラリオの剣を身に着け、これで装備ができた。


 正直に言うと足りないものだらけな氣かするが、あたしは初心者だから仕方がない。


 あたしは十歳になった誕生日の今夜に、村を出ていく。





「おぉーー、すごいね」


 二人で雨上がりの虹を見る、特別な輪を描く綺麗な虹。

 あたしは特別な条件でしか見れない、この虹を、お母ちゃんに見せたかったのだ。


「あたしは二回目だ。おかあちゃ……エラリオと見れて嬉しい」

「んん? アベルなんて言ったの?」


「何も言ってないです」


 恥ずかしさからそっぽを向いてしまうあたし。


「にひひア〜ベ〜ル。恥ずかしがらなくて良いからお母ちゃんに言ってごらん」

「聞こえてんじゃん」


 あたしを抱きしめて離した後でエラリオは、申し訳ないような、そして、何かを願うような顔で話す。

 エラリオがたまに見せる彼女の奥にある、本心を映す顔だ。  


「アベル……もしもだよ、もし【僕】がいなくなっても君には旅を続けてほしい。

 それが今の、この、支配の世界を変えることになると思うんだ。僕には何故か確信があってさ。

【アベル――世界を見ろよ】」





 勿論だよエラリオ


 準備はできた。

 もうここには戻らない。


 あの日母から貰った言葉おくりものと決意を胸に秘めてアベル(あたし)は足を踏み出す。

 一歩、次の一歩、そうやって足の踏み込みを強くしながら、この、体は前へと進んでいく。





 神々が望んだ、投げられたサイ、この、アベルと言う少女は、もはや止まることはなく進んでいくだろう。



 その旅立ちを祝福するかのように風は強く吹き木の葉を揺らす。

 木々のざわめきは、讃美歌の音色を奏で星々の光と月光は、それと月に反射した太陽の光さえも、アベルを照らしながら。

 停滞していた『世界』は歓喜の歌を歌いこの少女の旅立ちを讃えるのだ。


 他人から見た場合はどう映るだろうか? 世間知らずの小娘が、ろくに戦い方も知らないで一人で旅をすると息巻いているのだ。

 どこかで野垂れ死ぬが、当然、と思うだろうか

 だが



 これは後の世に【はじまりの勇者】と呼ばれる事になる少女の、はじまりの話である。


 余談ではあるが、一生を村の水汲みで終えるはずだった少女アベルが世界を変える事になるのは、この旅立ち()より五年後の事だ。

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