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外伝 アベル・ジンジャーアップル①

 旅人兼冒険者であるエラリオは、村を拠点にして魔物退治を繰り返している。



「エラリオおかえりなさい」

「ただいまアベル。おや〜、お嬢さん君はまだ今日仕事が残っているんじゃないのかい?」


「えへへ、エラリオが帰るのを待っていたんだ。

 二人でやればすぐ終わるもんね」

「君ぃー、味をしめているな」

 

 二人は軽口を言い合いながらも、一緒に水汲みをはじめる。


 アベルは自分を何かと氣にかけてくれる旅人になついており、エラリオもそんなアベルを可愛く思っている。


 エラリオは氣恥ずかしさからなのか

「私は水汲みを自己鍛錬のためにしており、アベルのためではないのだ」


 エラリオがそんな下手な言い訳を口にする。自己鍛錬の方法など、他にいくらでもあるのだ。



 アベルは生まれてから初めて感じる不思議な感情を味わっていた。

 人が当たり前に持つ【楽しい】、と言う感情を少女はここで、ようやく手に入れるのだ。


 一緒に水汲みをするエラリオが言う「頑張れ」や「よくやったよアベル」の言葉は、アベルにとって特別なものになっていく。





 そんな日々が続いたある日。


 エラリオに手を引かれて行った新築の空き家の前で、「まだ仕事が残っている」と心配するアベルにエラリオが声をかける。


「ここが今日から君のおうちさ、私と一緒にと暮らそう。そうすればアベルはもう、あんな仕事はしなくていいんだ」



 エラリオがアベルにそう言ったとき。


 物心がつく頃からずーっと氣を張り続けていた、少女の目からはポロポロと大粒の涙があふれていた。


 アベルは後で知るのだが、エラリオがアベルの今の境遇に対して憤り、村長に直談判して彼女を自分の養女として引き取ったのだ。



 こうして自由の身になるアベルは村の周辺を見て回った。

 村の中でしか生きてこれなかった。村の中しか知らない少女の目に外の世界がまぶしく映る。


 雨の後の草木についた雨露や、夕方の大きな雲が流れていく様子、夜に山の中で見た木々を貫く月光。血が繋がらない母と見る風景は少女の心に深く焼き付く。



「エラリオはあたしのお母ちゃんみたいだ……」


 アベルのつぶやきを聞いたお母ちゃんは後ろを向いたまま、耳まで真っ赤にしている。アベルは聞こえちゃったかなどと思う。


 なぜ自分に、そこまでしてくれるのかがわからない、アベルには返せるものがないのだから。



 アベルが何氣なくエラリオに理由を聞いた時 


「この子から離れたらいけない氣がした」と言う。事情を聞くと

 エラリオは旅をしながら何かを探しているそうだ



「アベルは私とはじめて会った日の事を覚えているかい? 私は君に質問したよね魔族が決めた枠じゃない、本当の冒険を私としないか? って。

 私が質問をした人間は決まって嫌だと答えたのさ、でもね、アベルだけは違ったんだよ」 


 「忘れるわけないよ」とアベルの目と口が語る。

 それから二人は口をそろえて言う


「「冒険がしたい。世界の全てを見てみたい!」」

「エラリオは、急に泣き出すしさ。このお姉ちゃん大丈夫かなって思ったよ。

 感慨深そうに【僕は君を見つけるために旅をしていたのかも知れない】なんて言うし。

 意味わかんないよね」


「あはは。いや~面目ない。人にいつも断られていたからさ、見つからないと諦めていたんだ。

 アベルありがとう、【僕の使命】と言うより私の中にある重しが無くなったような充実感を感じるよ。

 アベルを鍛えて君が旅ができるレベルになった時は二人でこの村を出ていこう。

 一緒に冒険しよう」

「うん」


 《ソウハサセナイ》



 私の頭の中で不意に誰かのつぶやきが聞こえる。最初はアベルかと思い確認したけど、彼女は「冒険しようね」というだけだ。


 アベルではない……。だが確かに聞いたぞ【僕】の行動を許さないと思う邪悪の声だ。



 いや……何か変だな?

 二人が旅をする事を許さないなんて意味がわからない……。氣のせいだねきっと。



 わすれよう

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