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外伝 キルレイン・オーゼルユイヴァス

ストレスフリーではありませんのでご注意ください。男主人公のお話です

 勇者アベルの弟の一人であるヒト三郎は、本名をキルレインと言う。

 キルレインが子供の時に憧れたヒーローが勇者アベルだ。


 エワードが発行した伝記によると、アベルは少年の様な体ながら神託に従い、選ばれし戦士達を仲間に集めて長い旅のはてに魔王を討ったとされている。


 アベルの伝記を大兄貴に読んでもらう「すごい脚色されてるね」と言われる。


 「それとやっぱりアベルは男として伝わってるんだね。性別は男性で書くと言ってたしね」と零す。



 そんなキルレインは今、大兄貴から父母を殺された王女の依頼をどうするという問いに、耳を傾けていた。


 むろん貸すのはたやすい、しかし、失敗すれば当人だけの責任にはとどまらない。


 親兄弟どころか村丸ごと責任を取らされ処刑されるだろう。


 ジクリコウの精神は王というよりクソガキそのものなのだ。



 大兄貴はジクリコウの性格を思えば容易に想像できると説明して、二人に問うているのだ。


 断られたら一人でやるつもりだろう。

(みくびらないでくださいよ)

 話を聞きながらそう思った。


 アベルの生まれ変わりであるソンクウを師に、流派の修業を積んでキルレインはあの時よりも強くなっているその自負がある!

 俺の実力は大兄貴にはおよばないが、何かの力になれるはずだ。



 窓から見える空を見る。まぶしい日差しと透き通った深い青空、子供の時に見た旅の出発の色。


 キルレインは己の原点を思い返していた。





 キルレインは子供のころ没落した貴族の家に生まれた。没落自体、三代前の子供なので彼は平民とかわらずに育つ。


 子供のキルレインが魔王を倒した多くの勇者の中で強く憧れたのが『はじまりの勇者』と呼ばれる()だ。


 父に貧しい稼ぎの中で買ってもらったアベルの伝記を彼は擦り切れるまで読み漁る。


 キルレインは近所の子供とした勇者ごっこの中では棒を振りまわし、勇者アベルになり切った。いや彼はアベルだったのだ。



 年がたち、体格も大きくなる頃、仲間の一人が剣術を習い始める。

 キルレインはバカではないが飛び抜けて賢くもない。そんなキルレインが今の貧しさから抜け出すには強くなって出世するしかないだろう。



「オレは自分に嘘はつけない」

 そうだ。


 憧れたアベルが剣一本で魔王を倒し勇者と呼ばれる様になったのだ、自分も憧れ(あの人)に追いつきたい。


 そう思うと行動は早かった、一年町程で旅費をためるとキルレインはアベルの流派を伝えるエワード王国へ向けて出発する。


「アベルは十歳で旅に出たって伝記に書いてあった。俺は今十一歳だから急がないと、憧れの人に置いて行かれちゃう」



 旅立つときにキルレインは故郷の空を見上げる、まぶしい日差しとどこまでも澄み切った青空。


 それはまるで旅立つ少年の心を映してるかのようだった。

 (いい天気だなぁ、神様が俺を祝福してるみたいだ) 



▽ 



「俺を入門させて下さい、お願いします!!」

「だめだ。勇者様が伝える秘技は、貴様のような野良犬が学べるものではない!」


 エワード王国にある王家流道場の門前で少年の夢は無情にも打ち砕かれる。


 もともとは王が勇者に頼み込み、王国民に伝えたのがエワード流の始まりである。

 魔王を討った後も平和になったとはいいがたく王の頼みに勇者も嫌とは言わなかった。


 しかし安定して平和の世界になると状況は変わり、アベル存命時には決して起こらぬ事なのだが。


 アベルが死ぬと勇者が遺した流派は金もうけの道具にされる。

 貴族の子弟が金にあかせて免許皆伝の認可をもらい、金のない貧しい者たちは、才能があっても学ぶことは許されない。


 キルレインだけでなくアベルの死後に才能が開花してエワード流に名を残したはずの者は、腐った金の亡者のせいで流派を学べなかったのである。



「俺はあんなのよりもっと強くなる。一度でいいから俺の剣技を見てくれよ!」


 キルレインは泣きながら声が大きくなる。キルレインが指さした相手は貴族の子供だ、やる気はみじんも感じられない。


 何故なら彼は剣を振る軌道がよれよれで二回も降ると腰をついて休んでしまう、師範は注意もしない。ふざけてるとしか思えなかった。

 なんであんな奴がアベルの流派を学べて俺がだめなんだ。


「わからんやつだなぁ〜、小僧お前は金をいくら出せる?」


 耳打ちされる、そんな言葉。


 ここに来るまでの旅費しかないキルレインが目の前の男が望む賄賂を出せるわけがなく、

 キルレインはそのまま異郷の地に放り出される事になる。


 空を見た。黒に近い灰色の空。

 故郷とはまるで違う今日の天気は、今のキルレインの心を映してるかのようだった。



「ああ、腐ってるし、濁っている」



 その後ヤケとなった少年は身をドブの中に浸していく。

 行く当てのないキルレインを野盗の首領がひろい数年後には彼の跡を継いだ。


 こうしてキルレインは勇刃隊の頭になったのだ。





「しっかしうまい計画(こと)を考えましたねキルレインの兄貴」

「当然よ、世の冒険者達が頭を使わずに苦労してるのをこの稀代の英雄キルレイン様は知恵を使い楽して名声を手に入れるのよ! 」



 キルレインは一計を考じる。


 それは何も知らないオークを洗脳して村々を襲わせ自分が退治するという茶番で、これを繰り返して手っ取り早く名声を手に入れる計画である。


 これは本人も氣づかぬ事だが英雄と呼ばれるようになればエワード流を学べるかもしれないというキルレインの無自覚な期待がある。


 

 だがしかし、計画は最初の村でつぶされる。


 珍しい白色のゴブリンとオークの二人組に邪魔されて、敗北したキルレインは魔物の弟分にされるのだ。


 そうゴブリンが持っている剣術を学ぶ事と引き換えに……。



「ヒトどうしたの? 急に笑い出して、変だぜ」

「悩みがあるのなら、僕か兄貴に相談するんだよヒト」


「俺は笑ってますか? 悩みじゃないんです、嬉しいんですよぅ」



 王家流を学ぶ夢はかなった。

 心の曇りが晴れたキルレインの笑顔に邪悪さはなく、あの日の少年の様だった。


~~~~



 〈現在〉


 キルレインは長兄の問いに快諾する。憧れたアベルといる事でどんな人生になるのかは当然わからない。


 ただ後悔だけはしないだろう、そんな実感がある。





〈ゴブリン村襲撃時点のキルレイン〉


 どいつもこいつもクソだ英雄なんて嘘っぱちだ。


 エワード流の奴らがそうだった。

 貧しいというだけで、この俺を野良犬呼ばわりしやがった。


 英雄なんていないんだ、アベルだってそうさ。

 伝記にされる中で美化されたんだぜ、実物はどんな悪党だったのか、わかったもんじゃない。


 自分は夢破れて悪党に拾われて、野良犬には似合いの人生と思って心を捨てて、ずっと、そうやって生きてきたのさ。


 英雄はいない! 弱きを助け強きをくじく勇者なんてお話の中だけなんだ。全部が嘘っぱちだ!!


〈俺はそうさ、そう思っていたんだよ〉



「覚悟はいいな悪党、お前の相手はこの俺だ!」


 この人に出会うまでは。

村でソンクウと対決するヒト三郎は、この時点だとソンクウがアベルとは氣づいておりません。

でも小さな小妖精の姿が弱きを助け強きを挫く勇者に、見えていました。それでこの人に出会うまではと思ったみたいです

ヒトがソンクウ=アベル/憧れの勇者、とわかるのはアベルが「俺がそのアベル」と説明してからになります。


  面白かった次も読みたいと思われた読者さま


          下の



      ☆☆☆☆☆を押して


      ★★★★★に変えてください



      彦馬がよろこびます

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