166話 スピーリトゥス・ソード
トトニカが打ち下ろす拳を斬撃で受けとめてすぐ後に、繰り出される蹴りを技でいなす。
相手は50メートルある【魔王の鎧】を着用しているのだ、必然的に周囲から驚きの声があがる。
「信じられん50メートルの巨人と、真正面で斬り結んでいるだとぉ」
「父さんと母さんからイフマイータが倒された時の話を聞いてはいましたが、私は作り話だと思っていたんですよ。
だって一人の人間が魔神の分身を倒すなんて信じられるはずがないですからね。普通はパーティーで倒すものだと思うじゃないですか」
マルヴァは口を動かしながらそれでもトトニカへ魔力を送る援護を止めない。
こうする事でトトニカの魔力が枯渇するのを防いでいるのだ。レインは俺の行動を信じられないものを見たように話す。
一方俺の魔力は減っているので、長期戦になれば枯渇するのが目に見えている。
そのチャンスをトトニカは逃さないだろうこうして俺を削り続けているのは、近い将来に確実な勝利が来るからである。
「端からみれば巨人と正面から戦うアベルに分があるように見えるがな、さらに貴様の魔力を削らせてもらうぞ」
「くそぅっ」
右手で殴りつけながら同時に〈極雷魔法〉を放つトトニカ。
俺は遠くに距離をとるのだが「ぐわぁああああ」直撃する……なんて攻撃だい。
良かったトトニカは魔法が効いたと確信したようだね、続けて〈極闇・地・水・火・風・雷魔法〉を俺に向けて連射する。
俺に直撃した魔法は爆風で煙を産みトトニカからは見えなくなるが奴は闘気を探り
正確にアベルに魔法攻撃を当て続ける。
神越えの力をここまで引き出せるのか、素晴らしいぜ。
「グアー、オノレートトニカー。ギャーー」
「アベル殿は役者じゃの」
「最初の雷含めて全然効いていませんね。アベル殿の体って何でできているんですか?」
アーガシアとレインがボソリと言うつぶやきが聞こえる。
お願いだからばらさないで黙っていてよと思う俺。
「はぁはぁ、こ……これだけ攻撃すればアベルと言えど生きてはいまい。
やったぞ見ていてくれたか二人とも、大した奴だったぞアベル。念の為、完全なるトドメを刺してやる!」
トトニカが言いながらズシンズシンと足音を立てアベルの闘気を探り俺に近づいてくる。
宣言通り奴は拳に全闘気と魔力を集中させて
目標の俺めがけて最後の一撃を放つ。
「勝ったぞオニオ、マルヴァ、勇者アベルは我ら三人が討ち取ったーー!」
煙の中の俺は迫る奴の拳を切断し同時に鎧の腕を切り落としながら、
トトニカの首に向けて斬り上がる。
俺が生きている事に驚くトトニカは左手で慌てて俺を弾き飛ばした。驚愕の表情で俺を見ながら
「何故?」と一言つぶやく。何故生きているのか? そう問いたいのだろう。
説明しよう! 魔法で攻撃された時
俺は『アベル流奥義の四・なないろ』を使ったのだ。
奥義の四は防御に特化しており剣の刀身に魔法闘氣を纏わせる事で、〈光・闇・地・水・火・風・雷魔法〉を防いで吸収してしまうのだ。
魔法の他に闘氣技すら吸収できてしまうので使える技なんだよね。
俺はトトニカの魔法を奥義で吸収しながら奴の魔力消費を早めるのと、俺の魔力を高めるためにわざとダメージを喰らったような芝居をしていたのだ。
〈ギャラクティカドーナツを喰らった魔〇ブウの「ぎゃああ~~→うそ」〉、を思い浮かべるのがコツだ。
「何故って俺が勇者アベルであんたより強いからさ。レベルが高くてもあんたには【魔王の鎧】が着こなせないんだよ。
データ上はあんたの方がイフマよりレベルが高いよ、でもトトニカでは魔王の足元にすら及ばない。俺が倒したイフマイータはもっと強かった」
だから俺が放つ技は尊敬を込めてイフマを倒したこの技に──この体は、自然に構えをとっていた。
アベル流奥義の一エンデ・ジエンドをなないろで吸収した敵の魔力を上乗せして放つ。
トトニカは一瞬の躊躇を見せたが距離をとる。
俺がゴドーリンの戦争でしたように敵が放つ技を位相を変える事で、俺に撃ち返す算段をつけたみたいだ。いくぜ
「アベル流奥義エンデ・ジエンド」
「来てみろ撃ち返してくれる!!」
エンデ・ジエンドは闘氣の奔流で敵を倒す遠隔攻撃と直接相手に近接攻撃を叩き込む2パターンがある。トトニカのやり方なら遠隔は撃ち返せるが近接は無理だ。
だから俺は剣を鞘から抜刀し
近接でトトニカと俺の間の長距離を埋める方法をとる事にする。頼むぞ聖剣よ
「伸びろ闘氣剣! スピーリトゥス・ソード!!」
剣から伸びる闘氣は波動ではなく巨大な剣の形となり巨人の首を切断した。
【魔王の鎧】はその姿を維持できなくなり、消滅してトトニカが地面に叩きつけられる。
俺のエンデ・ジエンドのダメージが巨人だけでなく彼女にも届いていたからなのだ。
「こんな……傷、すぐに回復して」
まだ戦う気概があるらしい仲間に欲しくなっちゃうね。
だがそろそろ時間のはずだ。
魔神がトトニカとオニオのような武人を好むはずがない。
「なっ!? あっあぁなんだこれは、ああああああああ」
二人を倒した事で【神越えの力】が自由となり本来の姿に戻ろうとしている。つまりミラルカと妖六郎が再生している途中なのだが
トトニカとオニオはそのついでに取り込まれようとしているのだ。
魔神がこの事を予測できないはずがなく奴にとって二人は【神越えの力】を吸収した十英雄がどのぐらい持つのか時間を測る実験動物でしかないのだろう。俺は魔神に怒りを覚える。
「姉上ぇーーー」
異世界の魔王が二人に向かって走る。三人の絆が強いとは思っていたがこうなるとは思わなかった。
さて、助けるとするかい。
魔王の鎧は魔力を組んで編み上げる鎧です、だからなにもない所から出現できます。
スピリートゥス・ソードの闘氣は理論上どこまでも伸びます。アベルはネーミングセンスの他に演技力がないのが露呈しました。
次回はオニオとトトニカの過去とマルヴァが二人に出会う話が少し出てきます。
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