164話 括りの中にいる異物
〈千年前~魔王イフマイータ戦~〉
「チクショウーーここまできて、魔王に勝てないのかよぅ」
「魔力が枯渇しています。打つ手なし……ですか」
セーナが折れた剣を握りしめて悔しそうな顔で叫ぶ。
杖を地面について、弱音を吐くルー。
マナを吸収し始めているとはいえ魔力が尽きた状態は辛いはずだ。
普段なら絶対に言わないあきらめのセリフを、吐いたのがその証拠だろう。
「イフマイータを倒す機会はわがはい達がやられたら二度とこないであろうな」
「撤退か、しかしイフマが見逃すとは思えぬでござる。
誰かが残り、死兵となって皆を逃がすしかないでござるな、この身は拾われた命。
役目は拙者がしかと努めるでござる」
ヴォルフが状況を整理し、レントが結論を言う。
俺もヴォルフに同意見だ、この機会を逃すと人類が自由を得る機会はない。
レントのやつは、つまらん恩義から俺達四人を逃がし再起させるために命を散らす覚悟らしい。
そうはさせるもんかい、ヴォルフとレントも体がろくに動かないダメージを喰らってるんだ。
それに俺は五人の中で、誰かがいなくなるのが嫌なのだ。
胸が痛いほど脈打つ鼓動が加速していく。
うるさいと思うぐらいの心臓の音と、胸の炎が大きくなっていく。俺は仲間に振り返り
「みんなは休んでいなよ。あんた達が次に起きた時は、俺がイフマイータをやっつけているからさ」
俺は聖剣を構えると、イフマイータ目掛け駆け出していく。
▽
〈現在〜十英雄オニオ・トトニカ、魔王マルヴァピーヨ戦〜〉
「この戦いは俺一人に任せてくれないかい。
その方が動きやすいし、場所のせいかな? 闘志が抑えられないぜ!!」
「なっ!? アベル殿数の不利となりますよ。
それに十英雄のトトニカとオニオは神越えを吸収して、あなたに近いレベルを持つのです」
俺も『目』で見て確かめたから言われずとも知っているって、しかしレインの言い分はもっともだし、彼は俺の事を純粋に心配してくれているのがわかる。
どう説明しようかしら
「ぬし様にお任せしますのじゃ、心行くまで戦い遊ばされよ。
付け加えるなら邪魔はせぬが最低限のサポートはさせていただくのじゃ」
俺にサムズアップとウインクを同時にするアーガシア、なんていい女なんだろう。
レインがしつこく「アーガシア殿まで何を言われます」、と言うが彼女はレインを抑えてくれている。
俺は聖剣を構え、待ち受ける十英雄目掛けて駆け出す。
攻撃目標はマルヴァピーヨだ。ニャハルの記憶を読むと、どうやら攪乱する役目を持つようだ。
こいつが神越えの動きを止めてトトニカとオニオが吸収する。
手が触れさえすれば奴らの勝ちになるわけだ
マルヴァが多くの攻撃魔法をつかい、弾幕系統で攻撃するのをかわす。同時に腕から魔力を伸ばしてマルヴァにくっつけて、自分に引き寄せる俺。
マルヴァと交差する瞬間に、やつを胴から十時に切り裂いてやる。
その結果死亡するマルヴァに〈蘇生〉をかける俺。
「動くな! 温情で生き返らせたが戦いに加わるなら今度こそ本当の死をくれてやる」
「なんだと!? くっ、くそ」
強めに脅しをかけた事もありマルヴァがたじろぐが、一瞬だけで動きそうになる。
オニオとトトニカが心配なのだろう。
邪悪さを感じないので殺したくはないのだが、忠告が聞けないなら仕方がない。
魔王に向き直り剣を奴に振り下ろそうとすると
「マルヴァ動くなー!! こんなつまらない戦いで死ぬ事はないー!」
「お前はそこで休んでいろ2対1なのだ、勇者アベルは我とオニオで倒す」
「姉上すみません、お言葉に従います」
マルヴァは地面に座り込み深く頭を下げる。
俺は魔神の最大の敵なのに、俺を排除するための戦いをつまらないとはっきり言う二人。
やはりオニオとトトニカは魔神側の十英雄という立場だが、性質はトーマ達に近いみたいだ、悪党じゃないんだね。
敵として倒すにしても味方につけるにしても、まずはこの戦いを終わらせなければならない。
「すごい……すごいですっ! 異世界最強の魔王を無力化するだなんて、それも赤子の手をひねる様にですよ」
「アベル殿なら当然じゃろ……。のぅ、神であるレインなら七勇者の素性を知っていると思うのじゃが、聞いてよいかの?
ぬしを含む他の勇者が、アベル・ジンジャーアップルの【同格】とぬしは思えるかい?」
「アーガシア殿の言いたい事はわかります。バルケスティ様ははっきり魔神と唯一戦えるのは万象の神々ではなくアベル殿と言いましたからね。質問に答えましょう
『アベル・ジンジャーアップルは味方の中で一人だけ突出している怪物であり、言い換えるなら異物です』。私は彼女を自分と同格などと言うおこがましい考えは、持てません」
アーガシアがコクリと頷く。
「わしも同じ意見じゃ。【神越えの七帝】は本来ならアベル殿だけ括りに入れない【一世六帝】となるのじゃがなぁ、アベル殿がのぅ」
「アーガシアーさーん、俺だけ仲間外れは嫌だぜー!」
俺はオニオを追い込みながらも、遠くで話す二人の会話に割って入る。アーガシアとレインは笑みと手の振りを返してくれる。
それにしても俺の事を怪物だの異物だの、人を物騒な名前で呼ばないでほしいぜ
マルヴァを殺した時トトニカとオニオはアベルのプレッシャーにより、前に出れませんでした。
それでも弟分が二度目の死を与えられそうになる時は、プレッシャーをはねのけて口出ししています。
アベルはイフマ戦の時、永夜の夜明けメンバーのように追い込まれていましたが、同時に不思議な昂りを感じています。
魔王を倒せると確信した彼女は単身イフマに挑み真っ向からねじ伏せました。
実は神越えの素養が眠っていて、死にかけた事で力が表に出てきそうになっています。
アベルはこれを感じていました、〈悟飯ちゃ○の怒りでメチャメチャな戦いをする〉みたいな状態です
……倒された魔王はアベルが見間違いしたかと、二度見するぐらい満足そうな死に顔でした
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