外伝 アベルの千年後
〈悪魔アベル視点〉
こんにちはアベルです。
創造神から頂いた『転生法』は上手くいったようで、俺は千年後の世界に転生しました。
なんてね、なにが「その姿のままで転生するがよいだ!」人間種じゃなくて悪魔の体じゃねーか。
などと愚痴の一つも言いたくなるよ。
まぁもう一人の俺のように、小妖精にされるよりはましなのだが
現在俺のレベルはもう一人の俺との対戦でメキメキ上がり15000になっている。
人間種の成長限界は8000じゃなかったっけと思うが。
技と魔法は全て再習得できたし、生前よりパワーアップしている後はこの体を人間種に戻すだけなんだが。
「やぁアベル、元氣かい」
そう言いつつ
俺の横に森四郎をお供にして、肩に使い魔ニャハルを乗せた白いゴブリンが並ぶ。
「あんたもアベルだろ。元氣もなにも、さっき鍛練に付き合ってもらったばかりじゃないか。
両方アベルだとややこしいから俺の事は、アップルでいいぜ、そう呼んでくれ」
「わかったぜ」と言うとアベルは無言で風を受けている。
俺達はトウ・ダーラ城のバルコニーにいるのだ。
「アベルが転生して10ヶ月で巨大な国を作り上げるんだからね。魔神と戦う目標があるとは言え大したものさ。俺にそんなポテンシャルがあったとは知らなかったぜ」
「必要だからっていうのが大きいんだけどね、アップルが言うままさ、あんたが俺の立場でも、同じ事ができたと思う」
アベルは何でもない事さと言う態度で
俺の肩をポンと叩く。
その後は「世界の全てを見るのが俺達の夢だろ? のんびり散策でもしなよ」、そう言って足早にこの場を後にする。
忙しさをおして
俺のために時間を作ってきてくれたのだ。
その気配りがうれしい。
どれ、もう一人の俺が作り上げた国と仲間達を見るとしよう。
▽
「まぁアップル様お出かけですか、でしたらお供をつけさせます」
トウ・ダーラの副王であるアンダルシアは俺の手を掴み言う。
アベルは「今のあんたは氣づかないだろうが
アンダルシアは俺が好きなんだぞ」と言っていたっけ。
色恋に気付くとは……アベルは俺と同じ存在でも経験の違いから【別人】と言っていいのかもしれない。
アンダルシアの気遣いは、嬉しく思うのだが
俺は一人で散策するのが好きなんだ、丁重にお断りして城下に出る。
立場があるとはいえ使い魔とお供を連れて歩くアベルと一人で散策が好きな俺、別人なんだよね。
「「アップルさんもうトウ・ダーラには慣れた?〈っすか?〉」」
町を歩く俺に銀髪の青年剣士とオークが、話しかけてくる。
俺とどういう関係なのかアベルから聞いているので、誰だ? とは思わない。
「やぁオウちゃんにヒト君。
それがさ俺の感覚だと転生したら、いきなり、自分が王様の国ができているだろう。エワードの王をして王家にあまりいい思い出がない俺はびっくりさ。
あのアベルは辛い過去も乗り越えて王をやっているみたいだ。
俺なら絶対にパスだけどね」
二人としばらく話し込んだ後で、別れた俺はいろいろな人から声を掛けられる。
順番待ちでもしているのかと思わなくもない。
アベルが言う
「彼女も俺が好きなんだぜ」と言うアーガシア。
彼女はずっと緊張していたがハグをしてやると顔を真っ赤にして俺の胸に顔を押し付けてくる。
ハグはガニメデさんが
「我が君の夢の一つは人間種の姿のアベル様と抱擁する事なのです。老骨たっての頼みです
アップル様どうか我が君の夢をかなえてくだされ」
などと頭を下げられたからだ。結局アーガシアは一度もしゃべらなかった
(アーガシアってあの【竜帝】だよね、てっきり俺を恨んでいると思ったんだけど)
その後、俺の元へ【アベルが好きだ】と言うケシ太郎と沢山の人達がやってくる。
アベルに言われて来ているね。多分だけど
シャッテンの情報収集部門のエージェントを使って知ったのだろうが、アベルのやつは妙に氣を使いすぎなんだよ。
アベルは俺なんかより、凄く経験を積んで成長しているよ。
俺は自分の事とは言え、あんたを誇らしく思うぜ。
……ありがとう。
▽
俺が転生してエワードでジレオンを倒した直後。俺は機会を設けてトウ・ダーラで天人のサンと話をした。
今の自分が、置かれている状況の話だ。
「バルケスティ様の言っていた『大きな戦』は魔神討伐の最終決戦か。サンはバルケスティ様の代行のような存在なんだな
そして俺、つまりアベルが同じ時代に二人いるのは魔神の妨害で魂を別けられたからかい?」
ショートボブの髪型をした丸眼鏡の天人は強く頷く。
「そうか、アベルのやつはすごいね、聞けば小妖精の体なのに【神越え】の一人になったらしいじゃない。サン殿ひとつ聞いていいかい?」
サンは呼び捨てでかまわないと言ったうえで俺の疑問を聞く。
すごく申し訳ない顔をしている、魔神の妨害で魂が別けられたのだから彼女のせいではないだろうに。
「魔神を滅ぼせるのは【人間の魂に魔物の体を持つ】事が条件なのはわかった。
なら俺がアベルを吸収して魔神を倒す事は可能かい」
魂が分割された側の俺より強い事はわかるし、俺とアベルのどちらかが消える事が理解できた、しかしだ。
俺だって【人間の魂に魔物の体を持つ】のだから、資格は十分に満たしている。
とは言え悪あがきにすぎない事もわかる。
サンは顔を伏せる。まるで俺の目を見ないようにしているようだ。
彼女は絞り出すように言葉を吐く。
「慰めにならないから、はっきり言うっす……言います。それは無理です。あなたはバルケスティが転生させた本体から強引に分けられた存在にすぎません。
川の流れで言えば小妖精が本流で、あなたは支流です。
例えばの話ですが……あなたのレベルが本体のアベルより上でも、本体以上に魂を多く持っている状態だとしても小妖精の方に別けられた存在が吸収されます」
「そうかい。
俺もアベルなのにな、残念だぜ」
後ろを向く俺の背にドンと衝撃が走る。何だろう?
理由はすぐにわかった、サンは震えつつ涙を流して俺を抱きしめている。
まるで、母が怯える子を安心させるように。
「ごめんなさい、こうなる事が予測できなかった。もっと上手い転生の仕方があったはずなんです。
世界を守るためだからと! だからこれは仕方がない事なんだと自分に言い聞かせた! 人間の意識を魔物の体に植え付けた!
そうされた者の苦しみは簡単に想像できたはずのに!!
でも、でもっバルケスティではイブナスには勝てないんです、貴女にすがるしかない。」
俺から見るとサンは急に抱きついて早口で俺に謝る女なので、情緒不安定に見えてしまう。ちょっと怖い。
そう思いつつ
「サンのせいじゃないだろ。
俺に転生法を授けたのは創造神様だし、魂を分割したのは魔神だぜ。
創造神様を責めないでくれよ。アベルのやつも俺が吸収される側だとわかっていたんだな
俺に千年後の世界を見る猶予をくれたわけだ。」
本来ならエワードの鳥かごで人生を終えた俺。
それがバルケスティ様のおかげで少しだけど続きが見れる。
俺にはその事実の方がうれしいのだ。
それにしてもサンは泣きすぎじゃないか、温度差を感じるなぁ。
泣き虫の天人を泣き止ませたら、もうちょっとだけ、続きを楽しもう
同じ人間でも経験で未来が異なる。
SFだとバックトゥザ・フューチャーのビフがわかりやすいと思います。スポーツ年鑑で大金持ちになりました。
シミュレーションゲームの主人公は選択肢次第で、ハッピーエンドを迎えたり、逆にバッドエンドになったりします。
この事から悪魔アベルははっきり、俺と小妖精アベルは別人と考えたようです
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