150話 世界の頂点トウ・ダーラの戦争④
〈モーブ視点〉
「アベル私達をエワードを、見捨てないでください」
「見捨てないでください! 勇者様どうか我々を、見捨てないでください」
モーブです。
エワードの貴族が言う秘策があれとは思いたくないのですが
開戦直後に貴族は僕達に「私の言う言葉を復唱しろ」、と言いアベルへ向けて先ほどの言葉を吐いたのです。
エワードの王であったアベルは旅をしたいと言いながらも、家臣達の「王が亡くなられればエワードの戦力が低下します我々を見捨てないでください」の言葉を、仕方なく聞いてあげていた話。
エワードの民は全員昔話で聞いた事があるのです。
そうするとタイセイをアベル本人と認めている証拠になるのですが。
と言うか僕がタイセイなら氣にせずに攻撃しますよ。
言い終わった貴族の顔はこれ以上ないくらいに、上手くいった感が出ていますが、果たしてそうでしょうか?
魔王の〈空間移動〉で【永夜の夜明け】が前線に出てきます。
「俺の性格がよくわかってるじゃないか、効果は大だよ。
ただし、俺の味方がいう場合に限るけどね」
「アベルは困った人を見捨てられぬとは言え、敵を困った人に入れるのはいささか無理と言うものであろうが」
タイセイとヴォルデウス様がそんな内容を口にします。
「でもよアベルが動かなくてもアレなら、私達でどうにかできる人数だぜ」
「戦は何でもありでござる。しかし相手を調べずに篭絡しようとは片腹痛いでござるな」
「アベルは許すと言うでしょうけど、私は彼らを許しはしませんよ」
馬鹿貴族の秘策の効果はタイセイはともかくとして、他の四人を怒らせておしまいの様です。
その後タイセイは大声で戦争の理由を僕達に話します。
『聖剣の返還』の話なんて、僕達がカンミ様に見せられたタイセイのメッセージと全然違うじゃないか。
奴隷なんて一言も出てこないぞ!
「おい、どうする?」
「相手の軍をよく見てみろ俺は死にたくないよ」
ざわめきは大きくなり兵士たちは武器を捨て投降しました。
魔王は様子を見ると
「自分で賢明な判断をよくしてくれた、感謝するよ」
優しそうな、他人を惹きつける笑顔で言葉を紡ぐ。
僕もエリート兵の責務がなければ投降したいですよ。
貴族は
「貴様ら~。ぶ、武器を捨てるなぁあ~~」
口から唾を飛ばして叫びますが、僕の目にはこれ以上ないくらい醜く無様に映ります
▽
【永夜の夜明け】はレベルの差などと言う言葉ではくくれない、大きな力の差を見せつけると、軍の最後尾に戻ります。
僕に同じ人間なのかと思わせる強さはエワード軍に精神的ダメージも与えました。
貴族が出す奥の手はトウ・ダーラの飛行船の砲撃で消滅するし、ひどい悪夢を見せられている気分です。
タイセイはと言えば彼女は威容を示すかの如く、大きな化け猫の背に設置した玉座に腰かけています。
その横には長身の黒とピンクの長髪の女が立ち、それから周りを大きな黄金竜と鎧のゴーレム? 巨人が固めていてエワード軍に勝ち目がある様にはとても思えません。
魔王の笑みは妙な色気があり、吸い込まれるような妖しさを感じます。
僕達の聖剣兵器を上回る聖剣兵器を使うトウ・ダーラの兵士達は、聖剣に振り回されるウチの兵士と違い武器を上手に使いこなしています。
「トウ・ダーラなぞ世界を知らぬ井の中の蛙よガッハッハ」
と言っていた兵士さんは今どんな氣分ですか? 泣いていますね、僕も同じ氣分ですよ。
トウ・ダーラの兵士は奥義だけでなく肉弾戦が強いなんて、こんなの反則でしょう!
向こうではメカドラゴンがデビルゴーレムを蹴散らして、あぁゴーレムの頭部が完全に破壊されて動かなくなってしまいました。
指揮をしていた貴族達は、ゴーレムにやられて討ち死にした模様です。
僕も自分の身を守るのに精一杯です。
戦場の混乱の中で師範がトウ・ダーラ軍の穴を発見します。
僕に相手の弱点を攻める指示が来ます。
僕の一撃は力が弱く動きすら遅い兵士の頭へ、吸い込まれるように振り下ろされて
銀髪の男に防がれます。
気づけなかった。いつの間に現れたんだ。
男だけでなく六人の男女に僕達エリート兵は囲まれていました。
そして僕はタイセイの〈七兄弟〉と戦い、一撃でやられてしまいます。
僕の意識はそこで途切れて――
▽
――
…
……
…………!?
氣が付くと戦争は終わっていました。
僕の体は〈蘇生〉を掛けられたようです。
傷はなくそれどころか体力までフル回復しています。
僕に「立てるか?」と言って僕の腕を引き起こす女、ニンフェディーネさんは僕が死んだ後の事を説明してくれます。
・戦争はエワード軍が全滅して、トウ・ダーラの勝利で終わる
・僕が生き返れたのはタイセイの〈蘇生〉によるが全員ではなく
僕はタイセイが用意した条件を、満たしていたからだそうです
・生き返った者はトウ・ダーラ預かりになるが強制ではない。
世界の命運をかけた最後の戦いをともに戦う覚悟がある者は、その意思を改めてタイセイに伝えてほしい
ニンフェディーネさんの説明を聞いて驚く僕。
タイセイは本物のアベル様だった事、そして転生したアベル様は魔神と戦う戦力をかき集めておられる事。
「僕でもアベル様のお役に立てるでしょうか」
ニンフェディーネさんは肯定するように微笑みます。
そうとも生き返らせて頂いた以上僕は世界を守る戦いに参加したい。
あの方はたった一人で魔神に勝つべく行動されていたのだ。
アベル様のお役に立ちたい、そう、強く願う僕。
「もちろんだよ。俺は君の力を頼りにしているぜ、ありがとうね、少年」
肩を叩かれて、振り向けば魔王タイセイが、いや、アベル様が僕に微笑んでくれる。
うわー顔が近いよ、綺麗な顔しているんだな、と変な想像する僕。
「さぁ戦争も終わったし、俺の剣を取りに行こうぜ! アルマ、アーファル、シャウとメーレ、それから【ふるさと】は俺に同行してくれ」
「「はっ!!」」
「わかったのだー」
アベル様は供を率いてエワードへ凱旋する
この戦争で、設けた条件に該当しなかった者〈貴族連中と腐った騎士〉は死亡し、モーブを含むエワードの門下生は生き返っております。
戦争編は終わり次回から聖剣奪還編になります。
それが済めばエワード編は終わりなのです
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