142話 ジロウという神
「敗れて生き恥をさらせと言うのか。俺を殺せーーー!!」
「アベルいいのかよ、フェンの言う内容はもっともだぜ」
「あれほどの忠義心を持つ魔族です、私達の仲間になりはしないでしょう。ならばここで『終わらせて』あげるのが筋ではないですか」
「いいんだ。俺はあの男を殺す氣はない。たとえ誰を敵に回す事になってもだ」
ジロウから見る【永夜の夜明け】の実力は本物だ。
魔王は魔王将達に『新時代に生き残れ』と言って、
魔族と言う種族を生かす様にする。
魔王はそのくらい勇者アベルのパーティーを脅威に感じており、全種族を支配した自分を勇者パーティーへの最期の試練に使うつもりなのである。
ただ二人だけ「自分を重用してくれた恩義を帰す」、と言うジロウと「魔王将筆頭の責務を果たす」と一切譲らないフェンだけは、イフマイータの共を許された。
ジロウはある程度戦うと逃走する。
これはフェンとイフマの二人から魔族が新時代に生き残れるように、力を尽くしてくれと頼まれていたからで、義理は十分に果たしたと判断したためである。
だが親友のフェンを置いていけずに影から勇者とフェンの戦いを見ており、危ないときはフェンを何とか連れて逃げる算段をつけていたのだ。
だが
アベルはなんの氣まぐれか、フェンを殺さずに見逃すようだ。
ジロウはアベルを見て奴の戦闘力ならレベルの差を覆して、イフマイータに勝利するだろうと感じる。
アベルのレベルはまだ未完成だがポテンシャルが凄まじいとそんな風に思ったのだ。
自分がここでできることはもうない。
「フェン行こう、イフマイータ様が負けた後も魔族は世界に残っていくのだ。
そのために僕たちは力を合わせなければいけない」
「武人の終わらせ方を捻じ曲げて生き恥をかかせた勇者アベルよ覚えておけ! この怒りなくすまいぞ。
貴様に理由を問いただすその日まで、フェン・ダリュンは生き延びてやる。
たとえ幾年たとえ百年、いや千年かかろうともだ!!」
あ、これは長く尾を引くなとジロウはフェンを見て思うのだが、今はそんな事より魔族を連れて逃げるのが先だ。
魔族の損害は兵士が多少やられたものの「人間の勇者などに何ができる」、そう言って話を聞かずについてきたホーンだけなのだから軽微と言っていいだろう。
城から転移でジロウが作った隠れ里の【チキュウ】へ飛ぶ頃、玉座の間では勇者と魔王の最後の戦いが始まっていた。
▽
【隠れ里チキュウ】で魔族はルクトォを新たな魔王に掲げて、再興を果たそうとしていた。
武力による支配ではない共存の道を探そうとしていたのだ。
だが魔族は支配者側だったので、他種族といくらでも衝突が出来る事は目に見えている。
だから優しい王に種族を導いてほしいとルクトォ・ナイヴィスに支持が集まったのだが
「世間では魔族を根絶やしにしろと怒鳴なり続けておるではないか。人類なぞは所詮勇者頼みの奴らだぞ。
もう一度支配してしまえばいい」
タカ派はゲールプグナを王に戴き
ここでジロウ達ハト派とは完全に、袂がわかれてしまう。
ゲールプグナとタカ派はチキュウからイフマナスに戻ると各種族に戦争を仕掛けて支配していった。
途中までは上手く行ったようだ。
だがその動きを予見していたアベルは次世代となる弟子を鍛えていて、その弟子のオーリンジがゲールプグナを倒した、と風の噂で聞くジロウ。
タカ派の生き残りは数えるほどに減っていたが、ジロウはチキュウで彼らを温かく迎える。
この時のジロウは寿命を克服するために創造神の試練を乗り越えて精霊になっており、そして更なる修行を重ねた功績を当時の【十二神】に認められて神となる。
ジロウは神となった時に名をヨルゼンと変える。
【博愛と憎悪を司る】ヨルゼン神はたびたびジロウの姿になると、その出自から魔族達が異種族と共存できるように力を貸し続けたと言う。
▽
~現在~
ドラグーンとバルトエードに留守を任せたジロウは、人帝の野望を食い止めるために行動を開始する。
ジロウの脳裏に過去の恩人の言葉が思い起こされる。
「魔神が望んだ一種族による世界の統治は間違っている。支配の先に発展はないのだ。
私は長年異種族を支配してきた張本人だ。新時代には行けないだろう、ジロウお前が言う共存の話は興味深かったよ、ああこんな道もあったのかと。
私は思った」
魔神の分身は本体の願いなど間違いだと言い切った。
「私は新時代へ行けないが魔族はまだ間に合うはずだ。ジロウあなたに魔族が新時代で暮らせるように頼みたい。
他でもない【人間の魂に魔族の体を持つ】あなたなら、無理な願いではなくきっと叶えられるはずだ」
任せてほしい
二度とムンドモンドに【支配の時代】など来させはしない。
イフマイータ僕は必ず人帝を倒し奴が望む人間種による【支配の時代】は来させないと君に約束しよう。
空中都市エルドラウフに張られる結界をすり抜けてジロウは神妖樹に、自らを封じた妖帝を眠りから起こす。
「オン・パド・メー・フーム・マーキリキリ・ハッタバサラオンウン」
封印解除の印と呪文を唱えると眠そうに切れ長の目をこする長身で全裸の女性が出てくるのだ。
黒とピンクが混じる髪色に妖精種とは思えないグラマーな体は魔族の血が半分流れているせいだろう。
「私を起こすのはお師様か、何の用だ?」
「奴の野望を阻止する機会がようやくきたんですよ。感じるでしょう?
世帝の元に世界中から戦力が集まるのが
ようやく戦える。人帝ペリル・フォン・ジェパディーメナスを倒しに行きましょう」
その前に世帝のアベルに会いに行かなくてはと、二人はアベルがいるカラットへ転移する
魔神と魔族の関係は博士とロボットのような感じです。
博士はロボットにすべての種族を支配して、お前がその上に君臨しろと言いましたが、ロボットは違和感を感じています。
ジロウが共存でいいんじゃないの? と言ってくれたことで
ロボットはそうかも知れない、と思うようになります。
千年後の魔族が他種族と共存しているのは、その結果なのです
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