138話 カラット国の今までとこれから
「大兄貴見てください、人間種の冒険者がいます」
「あのねあのね。カラットは先代魔王のセンセキの時分から、鎖国で人間種は排除されていたんだよー。
例えばマジックアイテムに使う宝石類。
今まで欲しくても手にいれられなかった宝石を使った道具が
格安で手に入るから、みんな危険を冒してでもカラットに来るんだよ。
もちろん【ななつのくに】の盟主が掲げる、人魔共存国家群と言う文句に泥を塗らないようにアメシスは人間種の安全を守るように、部下に厳命しているよぅ」
俺と合流したヒトの発言にミラルカはヒトと組む腕に顔を寄せながら話す。
今ミラルカが言ったようにカラット国はセンセキが魔王の頃から、人間種を入れない鎖国の状態だった。
理由は簡単だ、人間種に国を荒らさせないためである。
▽
魔王センセキの正体はサポート種の小妖精なので、人間が知れば侮る事は目に見えているし
カラットが保有する宝石を人間は、必要以上に採取するのが言うまでもなくわかるからだ。
トウ・ダーラが所有している【鉱石の泉】の亜種である【魔宝石の泉】を、大量に保有しているカラットだが一日の採取量は決められており、その量以上に獲ると魔石と宝石のポップが止んでしまい最悪の場合は、泉が枯渇してしまうのだ。
これはカラットを建国した時にセンセキが魔宝石の泉を一つ使い潰して確認した事実である。
泉の枯渇と引き換えにセンセキは【魔宝石の泉】の〈限界量〉と、それから〈一日に獲れるギリギリの数〉を調べ尽くしたのだ。
「今でも、もったいなかったなぁ。そう思うけどなー」
トウ・ダーラが持つ【鉱石の泉】の採取できる限界量を調べる時にセンセキは残念そうに、そう言っていた。
そのおかげで俺は俺が持つ【鉱石の泉】を、枯渇させずにすんだ。
いやいや持つべきものは仲間だよね。
そんなカラットも二代目の魔王になり、新魔王が【ななつのくに】に加わると、新時代を迎えるようになった。
二代目の魔王アメシスは自らを『魔王タイセイの忠実な部下』、と位置付けていて
極力タイセイの方針に従うと決める。
▽
これによりカラットは開国されて今の状態となる。
今まで入国を禁止されていた人間種の冒険者は、人間種を殺すために開国したという嘘の罠かもしれないという疑いを抱きながらカラットへやって来る、と言う訳なのだ。
まぁ危険を冒した分、他国で宝石と魔石を買う金額がカラットでは十分の一の値段で買えるので、利益はでかいと言える。
「アメシスのやつは冒険していたぜー、家臣だけじゃなく九魔王将の中からも開国反対の意見が出ていたくらいだからな。
それでも『姫様が掲げる人魔共存の題目に、我々が反対してどうする!』と言い切るのは頂点の、魔王の生き方として正解だよ。
言い換えるとアメシスは盟主兼魔王のタイセイ様にそれだけ、入れ込んでいると言うわけだけどな」
夫婦水入らずで過ごせばいいのに、この人は。
「母さんはタイセイ様なんて言わなくていいからさ。ここではソンクウだし、あなたは俺の母親だろう?
公の場じゃないんだから普通にして欲しいぜ」
「そうだないや、ごめんよ。
小さくておとなしいあの子のさ。アベルの記憶が戻る前のソンクウのイメージが強いからかな、ソンクウが幾つになっても親のおいらは我が子を心配しちまうんだ」
母さんに言われながら正面から抱きしめられて、赤面する俺。
正直に言うとサポート種の体なので他人が見ると、親子より姉妹に見えるだろうけどさ。
でもこの人にそう言ってもらえたのが嬉しい。
だから俺の横でハンカチを嚙みながら、「アンダルシア様から我が子が魔王〈それと勇者〉になったと言われて心配していたけど、ソンクウが立派になってくれて父さんは嬉しいぞぉ――!!」と泣くおっさんは気にせずに放置でいいだろう。
ここは、他人のふりをしておくと誓う俺。
「うんうんいい話だよー」
と頷くミラルカ、ヒトはと言えば
「ん? 大兄貴誰か来ますよ」そう言う。
俺と母さんの数歩手前に魔族それも初老の男が立っている。
殺氣は微塵もないから敵ではない、一体何の用なんだ。
「おお! おおっ!! もしや貴女様は【ななつのくに】の魔王タイセイ様であらせられますか?」
言うが早いか男は地面に膝をついて頭を下に下げたかと思えば手を祈りの形で頭上に掲げる。
そしてこう続けた
「私はアメシス様の庇護を求めてカラットへ来た魔王ジャグと申します。ここであなた様に会えたのは天のお導きに他なりません。どうか我が国を魔王タイセイ様の御力でお守りください。」
続けて聞く内容によるとジャグはレベルの低い魔王であるため勇者を目指す冒険者に絶えず狙われているとの事だった。
今の魔王は千年前のイフマイータと違い〈支配地を持つ魔族の王〉だからレベルの強弱が激しく、こんな事態が起きるらしい。さて急に言われてもねぇ
どうしようか?
「ジャグよ。さ、立ちなさいそして涙を拭きなさい。お前の判断は永劫に続く安心と安全を手にしたのです」
地に伏すジャグの手を取るアメシスは彼を起こしながら変な言葉を吐いている。
俺からすれば何言ってるの? である
「ソンクーに任せておきなよー、彼女は何でもできるし、みんなを幸せにするからね-」
「大兄貴を見て、助けを求めた魔族さんの目に狂いはないっす。
後はこの人に任せておけば全て解決っすよ」
いやいや、まだどうするか判断がだね。
確かに俺は困った人を見捨てないよ。
でも相手が嘘ついている可能性だって、あるんだしさ。
「おいらの愛娘を頼った以上はあんたとあんたの国は、何が起きようが安泰だぜ」
あ、母さんに言われたら俺はもう断らないな。
俺はジャグの手を両手で包むと
「俺に任せておきなよ」そう言いながら、にこやかに力強く言う。
こうしてトウ・ダーラに加盟国が一つ増える。
ちなみにディメンションドアの設置をしに別の場所にいるルーが「あら? アベルが動揺するのは珍しいですね」
と、この状況を把握していたかどうかは定かではない
トウ・ダーラは攻撃して来る国は倒して傘下におさめるし、庇護を求めてくる国はアンダルシアが判断して傘下にします。
今回はアベルが判断する変則になりました。
以上のやり方でトウ・ダーラは、その国力を増していきます。
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