134話 グォウライ事変④最悪の事態と最悪手
俺達は城の中をグングン進んでいく。
初めて来る城だが魔王センセキは何度も通った庭の様な物なので、どこに何があるかを把握しているのだ。
出てくる敵といえば兵士が遠巻きにこちらを攻撃するだけで、俺達には通用しない。
はっきり言えばそよ風だ。
それだけに妙なんだよな。
普通は侵入者を足止めする罠や相手の体力を削ぐ敵を大勢配置するものなんだが、状況がこちらに有利に進みすぎている感じがする。
敵の魔法使いの切り札であるドッペルは〈分体〉とは言え、【神越えの力】が使えるのだから通路を迷路にするとか致死性の罠だらけにするなど、と妨害があってもよさそうな物なんだが。
どうも引っかかるね。
「自信があるんだろうな、おいら達三人を相手にしても勝つ余裕を感じるぜ。
そうでなければおいら達に事が上手く進みすぎてるよ」
母さんも俺と同意見のようだ。
ニャハルは顔つきが戦闘の時と同じになっていた。
圧倒的な力で敵を屠る【獣帝】の顔つきで
「マスター、ニャアの分体の波動を感じるにゃ。
城の中はドッペルの気配がありすぎて感じられなかったけれど、近くに来たから、はっきりわかるにゃ。
ニャアのドッペルは玉座の間にいるにゃ」
そうなのだ。
この城に入った瞬間から〈ミ〇ノフスキー粒子が濃すぎてレーダーが効かなく〉されたように、敵の居場所を探れなくされていた。
しかし本体であるニャハルは僅かだが自分が作ったドッペルの存在が感知できていたのだ。
俺達は母さんを先頭にニャハルをナビにして進んでいた。
そして
「玉座の間ならハジメがくれた『転移えれべーたー』で飛べる。二人とも、おいらについてきなよ」
▽
グォウライ城の隠し部屋に置いてある『転移えれべーたー』に魔力を流して俺達は一氣に玉座に飛んだ。
ちなみに『転移えれべーたー』には特定の言葉を言って、魔力を流さないと起動しないロックが掛けられているが、母さんは覚えていたようだ
「グォウライのカロット、カラットのセンセキ二人は超最高ー」
「「……」」
母さんは少し引く俺達にゴホと咳払いしてから、「ニャハルいいかい? 後でキーワード変えてね」そう言った。
▽
パシュンと音が鳴り光が広がる。
その光の中心部にいた俺は玉座の間に転移する。
もちろん他の二人も一緒だ。
玉座に暗示で目が濁ったニャハルのドッペルが座り、横にはノルトが宰相のように立っている。
だが俺の頭に浮かぶイメージは〈『二人の掟』に従う〇スの暗黒卿だ。
どっちがマスターで、パダワン〉なのかはあえて言うまい。
ドッペルの目は【魔法の暗示】を掛けられている様子が、はっきりわかる。ドッペルは催眠術の様にノルトの言いなりになっていて、〈暗示〉を解かない限り元には戻らない。
ただし、それは人間に限った場合でドッペルの様に【魔法の複製物】は魔法解除してしまえば、効果もなくなるのだ。
ノルトはその事を知らないのだろうか?
勝ち誇った笑みをニヤニヤと浮かべている。
氣持ちの悪い男だな。
「にゃあー、四天王を倒してよくここまで来たにゃ。だがお前らでは【牙獣征王帝】のニャハル様は、倒せないのにゃ。
それで、どいつが相手にゃ?
なんなら三人まとめてでもかまわにゃいぞ」
「ばかーお前はそれでもニャアのドッペルにゃ?
ニャアにマスターの前で恥をかかせてもう許さにゃいぞ。魔法解除してやるにゃー」
ニャハルは右手を上げて【魔法解除】をしようとするが、妙に胸騒ぎがする、なんと言うかドス黒い靄の中にいれられたような感覚だ。
俺の勘がなにより『危険』だ、とそう告げている。
「ニャハル、魔法解除は待て、先に魔法使いを叩く」
しかし遅かった。ノルトは印を結び術の強化に入っている。
「魔王タイセイはその辺にいる凡百の魔王達とは器が違うと噂で聞いていたが、納得だな。
遅れれば失敗していた、こちらの策がギリギリの成功になるとは」
ノルトの言葉を最後にニャハルは俺の使い魔ではなくなった。
魔法解除されたドッペルは霧散せずに本体のニャハルに還元されて吸い込まれたのだ。
洗脳されたドッペルの状態を頭に上書きされたニャハルは、俺をマスターではなくノルトをマスターと思ってしまっている。
敵になったニャハルはそのまま跳躍すると、ノルトの横に立つ。
「そういう訳だよタイセイ、君の自慢の飼い猫は私がもらった。
後は君達を始末すれば、私の野望を知る者はいなくなると言う訳さ。
この国を拠点にして、君が築いた王国は私が戴くとしよう。君の有能な部下は、おっと君には仲間だったかな?
どちらでもいい。私が【魔法の暗示】をかけて私のために働く奴隷に変えてやる」
言いながらノルトの手はニャハルの尻に伸びて無遠慮に、いかがわしい事をしている。
普段のニャハルが見れば八つ裂きにされているところだろう。
悔しいだろうなニャハル。
少しだけ我慢してくれよ。
「お前のマスターがすぐにノルトをぶっ飛ばしてお前を助けてやるからね」
「神越え達の本氣の勝負かい。ソンクウおいらはカロット達を助けに行く。
此処に居ても足手まといになるだけだろうからさ。頑張って」
俺は母さんへ、残りの転移召喚の指輪を渡してコクリと頷いた。
指輪を渡した理由は母さんに、もしもがあってはいけないので戦力を預けたのと、もう一つある。
邪魔者を入らせずに俺が思い切り暴れたいからだ。
ノルトすぐに貴様がした行いは〈最悪手〉だとわからせてやる!!!
「覚悟はいいな下郎! 貴様の相手は魔王タイセイだ!」
センセキはカロット達の救出という形でソンクウから離れますが、理由の一つに邪魔にならないようにがあります。
現在のソンクウは突出した実力を持つので、NARUTOで言うところの「邪魔にならないようにするのが、アイツにしてやれるチームワーク」、とセンセキ判断したようです
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