126話 アベルの思案
飛行船が格納されているドックに自分の足でガシャガシャ歩いて入るメカドラゴン。
多くの休眠状態のゴーレム達と同じく、休眠状態に入る。
ちなみに音声に反応すると自動で目覚めて、主の下に駆け付ける凝った仕掛けを施している。
メカドラゴンの名前は【ドライグ】で、アーサー王の伝説やウェールズの伝承に出てくる『ア・ドライグ・ゴッホ』と呼ばれる赤竜が由来だ。
「こういう時は、はったりと言うか威厳ある名前をつけるのじゃ」とは名付け親のココナの言葉だ。
今後戦争でメカドラゴンが活躍した時に名前がダサいと、倒した敵国の恐怖も薄れるだろうからそういうものなのだろう。
だから俺が考えた【ハイパー・メカニカルハイスピード・ドラゴン・プラスGOファイア】が選ばれなくてもしょうがないのだ。
慰めか知らないけどアーガシアとニャハルそれとアンダルシアは、「いい名前」って言ってくれたけどさ。
それよりさっき言った音声で呼ぶのは、実は2パターンあるのだ。
「出ろぉおおおおおードライグゥ-!」(指パッチン)と
「ドライグカムヒアー」だ。
俺は断然、日輪の輝きを感じるカムヒアーが好みだ。
とは言え心が明鏡止水に至れそうな、出ろぉおおーの方も嫌いではない。
音声登録をするのはトウ・ダーラの幹部連中と【ななつのくに】の同盟国の王だけで、安全が確認されれば兵士達にも使えるようにしよう。
なにせ今は試験段階だからね。
ゴーレムは全てマナを使った永久動力で動いているので、先行試験で町の警備や労働にも使っているが細かい命令までは聞かないので、課題としてココナと小人連中が嬉しそうに研究している。
ニマ~~と笑みを浮かべて「ああでもないこうでもない」、と研究する姿は正しくマッドサイエンティストだなと思う俺。
さてドックはかなり広く作っており、中の面積はルーが空間拡張しているおかげで、飛行船とゴーレムの置き場がないと言う事はない。
どうしてこうなったのかを説明しよう。
トウ・ダーラは現在、飛行船の数が7隻に増えている。
魔神イブナスとの最後の戦いで、イブナスが空中にいた場合の足場として七勇者のために用意した。
俺の【ミコット号】以外の飛行船は、箱舟の名前で統一されている。
オージの【アーク号】ブーニカの【アルシュ号】、他は【アルヒェ号】【アルカ号】【キーボートス号】である。
ココナが改造してオートパイロットも可能になった。
難しくはなく種明かしをすると、飛行船をゴーレムにしたのだ。
普段は操舵手が操縦するが俺の判断で【ゴーレムシップのオートパイロット】へ移行ができる。
魔神に操舵手が眠らされたりした時を考えての改造だが、ココナには「大した発想じゃ、なるほど一代で巨大な王国を築くはずじゃあ」と褒められる。
素直に嬉しいけれど俺はアイデアを出すだけだから、大したことはしてないけどね。
どんなアイデアだって実現できる技術がなければ、空想の絵空事で終わってしまうわけだからさ。
▽
俺は今はトウ・ダーラの国力を高めているが、目的は大きく分けて二つある。
一つ魔神を滅ぼす力を蓄える事
二つ世界のどこかにいる【七勇者】の、残りの仲間を呼び寄せる事
だ。サンに聞くと魔神は【大権】を使い七勇者の情報にジャミングを掛けているとの事。
俺がギルドで出した『珍しい色の魔物の情報を求む』の依頼は文字化けして読めなくされていた。
だから人の耳に届く噂なら平氣ではないかとそう思い、トウ・ダーラの国力を上げると同時にトウ・ダーラに出入りする商人と冒険者に、ある情報を言い広めるようにお願いしている。
その噂とは〈魔王タイセイは白いゴブリンを寵愛し手元に置いてある〉で、七勇者であるなら色違いの魔物の噂を聞けばトウ・ダーラに来る。
そう考えた。
しかしなかなか思う通りにはいかずオージとブーニカ以外の【七勇者】の行方は掴めいない。
それならと【情報収集部門】を創り、諜報員を各国それこそ世界中へ散らばらせ探しているが、やはり見つからないようだ。
見つけるにはなにか条件があるとかだろうか? たとえば同じ七勇者が近くに来た時だけ存在を認識できるようになるとかね。
しかしサンから返ってくるのは
「七勇者を探すのに条件はないっす。誰でも見れば認識できますし……」
なんとも歯切れが悪いそんな返事。
サンは認識できるの後の言葉を、あえて言わなかった。
俺と同じ考えを持つのが俺にはわかった。
つまり【七勇者の残り4人はすでに敵の手に落ちている】
おそらく間違いではないと思う。
そうであれば世界中探しても見つからない理由で通る。
創造神は【大権】のわずかな力を使えるから、七勇者の守護はしているはず、七勇者が殺されている事はないだろう。
▽
城にある自室でそんな事を考えていると、俺の後ろにヌボーと影が立つ。
殺氣はないし敵ではない。
もっとも昔は敵として登場したけどね。
便宜上、【シャッテン/影】の名前をつけてあげた情報部門の副長が俺に調査報告に来たのだ。
「タイセイ様、現在各国にひそませた諜報員からですが、残りの七勇者は発見できずとの事です」
「そうかい、ご苦労様。あぁ忘れていたけど奴隷都市とか危険な場所は諜報員じゃなく、お前の分け身を行かせてよ」
「了解しました。かならずや我が君の望む成果を手にしてみせます」
いちいち言う事がおおげさなんだよね。
バンと俺の部屋の扉が勢い良く開けられて、トーマが入ってくる。
この男はサンがいないと、まず俺のところにいないか確認しに来るのだ。「はあ」とため息が出る俺。
それはこの後面倒になるのが、わかっているからだった。
「入る前にノックをしたらどうです。神々の使いと言えども、ここは我が君の支配する魔王の領地です。
タイセイ様へ無配慮は許しませんよトーマ・フルツ」
「はいはい、お前俺に首を斬られた事をまだ根に持ってるんだな。
アリスとロンメルとは仲良くできるのに、俺への態度は前と変わらないのはどうなのよ。ヘンリー・リーク」
ふんと鼻を鳴らして、くるりと背を向けるシャッテン。
「その名前は捨てました。今の俺はタイセイ様に拾われ、生き返らせていただいた恩義で動くシャッテンです」
ヘンリーが言う通り俺は彼を生き返らせた後で彼を部下にした。
行くところがないと言われれば放ってはおけないし、あの魔神が選んだ戦力なのだ味方につけない手はない。
これが生き返らせた理由だ。
俺のあははと笑う顔を見て薄く微笑むシャッテン。
トーマに「これからは仲良くやろうぜ」と肩を抱かれたそんなシャッテンは、この世のものとは思えない嫌そうな顔をする
アベルは名前の候補として【ゴッドダイターン・バーニングスリー】も考えていましたがココナにやめなされと却下されます
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