117話 建国のジン
戦いの後、俺はアシババ王と会い国交樹立した。
トーマ達の演技とはいえ、十英雄が国を襲ったデモンストレーションのおかげと言える。
とはいえやり方が強引でよくないよね、だから三人には、何らかの罰を与える事にする。
▽
俺と仲間たちの前で、今回の戦勝記念と国交ができたこの二つを祝う、祝賀会を彩る踊り子が舞っている。
口元を隠して、薄く肌が透けて見えるヒラヒラの衣装は、変な言い方だがエキゾチックで女の俺から見ても魅力的に映るのだ。
中でも目を引くのは長い黒髪を、ポニーテールでまとめている踊り子は、腰が細く括れていて華奢な印象と、はかなげな仕草が見るものを虜にする。
俺の仲間たちもほうと溜息したり、「姉ちゃんかぁっこいいー僕も踊りたいよー」
なんて【魔帝】を、ハイテンションにするのはさすがの一言だね。
姉ちゃんじゃなくて兄ちゃんだけど
ロンメルだ。
踊り子は女性だけでなく男もいる。
彼らはみんな薄い服を着て、へそを出したまま剣舞を、巧みな動きで見せてくれる。
特に一人、動きのいいのがいるが彼の身のこなしを見て、仲間たちが反応するんだけど十英雄として正体がバレることはないと思う。
と言うのも〈幻影〉の発展系魔法である〈認識疎外〉をかけているからなのだが。
トーマ達を保護した時に「それでも気付くアベルはおかしいだろ」などと失礼な事を言われてしまった。
まったく遺憾ではある、あ、話を戻すけど
あいつトーマだよ。
バウバッドは料理も美味い。
魚介のスープもいいけど一番は、やっぱり焼いたエビに香辛料をたっぷりかけた料理かなぁ。
アリスも同じように踊ってる。
以上、俺が彼らに課した禊はこれでおしまいだ。
トーマは自分たちが神々のスパイなのは話しても、どの神の下までは話さなかった。
軽々しく触れてはならない存在なのかもしれないな、そう、例えば創造神に次ぐ十二神の誰かとかね。
まぁいずれ知る事だし、無理に聞く氣もないさ。
今はトーマ達が味方とわかっただけで、十分なのだ。
「ソンクウ様も踊りませんか?」
そう俺に話すのはアンダルシアだ。
国交を結ぶ理由で、バウバッドに転移して来てもらった。
「おお、魔王タイセイ殿が我が国の衣装で踊るのは光栄と言うものです。ぜひ見たいものですな」
いやいや普通に嫌ですよ。
子供のいか体形が衣装だけきちんとして踊っても、見る者はどうしても違和感を覚えるだろう。
ハジメ達は別として【永夜の夜明け】は絶対に「お遊戯会」と茶化すのが見えるからね。
そんな時に
「あらでは、みんなで踊ればアベルを茶化す者がいなくなりますね」
俺を後ろから抱きしめながら、ルーが言った。
声は優しいが目の奥は欲望に濁っており、息が少し荒い。
時折ペロと上唇を舐めるしぐさは、俺に前世で感じなかった【危険】、を察知させた。
命の危険はないのだが、代わりに身の危険を感じる。
どう表現したらいいのか……今の俺では思いつかないが、とにかくヤバイと自身の勘が告げている。
そういうわけで隙を見て抜け出した。
後ろからルーが「あらさすがと言うか、嫌だったようですね。残念です」などと零すのが聞こえる。
離れた後で改めて観察すると、俺の仲間達は全員が踊り子の衣装に早着替えしていた。
いやいやさすがは俺の仲間だよ。
そう思いながらエビのスープを飲む俺。
スープを飲み干したらルーの元へ帰るとしよう。
この後俺が踊り子の衣装を纏い仲間たちと踊ったのかはご想像にお任せします。
異世界で変な表現ではあるが
【アラビアン・ナイト】はこうして終幕した。
▽
次の日、壊れた町を復興する現場を見せてもらう。
異国の優れた技術があれば記憶してトウ・ダーラで使わせてもらおう。
そんな事を考えて
ついてきたアンダルシアそれからニャハルと一緒に修復魔法部隊の手際を見せてもらおうと待っているのだが。
どうもアクシデントが起こったらしく、ひそひそと何やら相談を始めている。
同盟を結んだばかりで【ななつのくに盟主】に、自国の有用性を見せたいアシババ王は怒り心頭で「タイセイ殿が見ているから緊張しているのか? しっかりやらないか」と大きな声で注意した。
別にいいのに
「マジック・アイテムに不具合が出ているみたいだね、見せてくれないかい。直してあげるよ」
「ソンクウ様のお優しい心遣い、アンダルシアは心服いたしました」
「マスターはさすがにゃー」
「おお! すまないタイセイ殿」
インテリの魔法使いが直せない物を、剣士の俺がどうにかできるか、と疑問に思うだろう?
俺の頭でネ〇フの指令は「そのための神越えの力です」と言い切るのだ。
戦闘では神越えの力を使わないように心がけてはいるけれど、こういう時は別である。
もともと持っている力だから、使って何が悪い。
これっぽっちも悪い事じゃないぜ、と開き直る俺。
どれどれ見せてもらおうかな? おや? 懐かしさに固まってしまった。
そうかバウバッドは大事に使ってくれていたんだねぇ。
▽
バウバッド建国に尽力した魔導衆の一人【開拓者アベル・ヨシュア】は、強力な魔法使いである。
自身が強い魔法使いであると同時に、彼は強力な魔道器を持っていた。
呪文を唱える事で、魔導器から呼び出した仲間はヨシュアに『ジン』と呼ばれていて、凄まじい剣術と魔法でヨシュアを何度も助けたと歴史に残っている。
巨大なオアシスをつくる案も、そのジンが出した。
バウバッドができた時にヨシュアは、ランプの魔導器をバウバッドの初代国王であるアルジンに奉じたという。
以来ランプはジンを呼び出す事はなくなったが、中にある膨大な魔力で制限付きだけどアルジンの願いを叶えてきたのだ。
▽
修復部隊はランプの中の魔力を使って国の被害を元に戻そうとしているが、ランプが故障しているというわけだ。
まぁこの程度なら訳なく直せるさ。
中の魔力の循環経路が古くなっているだけだからね。
俺は神越えの力を使うまでもなく、直したランプを修復部隊に手渡す。
「さすが神越えの一人ですね。神越えの力で一瞬で直してしまうとは、正直言うとタイセイ殿が他国の王でなければスカウトしたいですよ」
「あはははは」
俺は神越えの力を使わずに直せた、なにしろランプを造ったのは俺なのだから。
昔バレンシアと新婚旅行で見つけた浮浪児を、彼女は【アベル・ヨシュア】と名付けて二人で鍛える事にした。
彼が自立するときに、俺がランプを造り「改良した転移を混ぜ込んである。ヨシュアが危険なときは、俺を呼びなよ」と授けたのだ。
つまりヨシュアがランプで呼ぶ『ジン』は、アベル・『ジン』ジャーアップルなのである。
わざわざ話す必要もないし
俺はあの時建国した。アルジンとヨシュアのバウバッドを見て、この秘密は砂に埋めておこうと思った。
【ななつのくに】
加盟国ー1グォウライ
2魔法学院
3剣士の里
4ゴドーリン
5悪党窟
6アルカイン
7ヒノヤマト
8ヒノヤマトコウ
9エルドラウフ
10バウバッド
ヨシュアはアベルをお師匠と呼んでいました。自立するヨシュアにアベルが送ったランプは親心ならぬ師匠心です。
ランプの作成は、アイデアを話してルーに
教わりながら、アベルが組み立てています。
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