113話 アーファル・ジンジャーアップル=オウ次郎
アベルには三人の子供がいた。
正確に言うとアベルのコピーであるホムンクルスなのだが、エワード王は子供ができないバレンシアを諦めて魔法技術により、二人の子供をつくる事で、アベルを王家に入れて縛り付けようと目論んだ。
計画はうまくいき子供ができた事によって、アベルはエワード王国を見捨てる選択肢をなくして、生涯この国を守護し続けるのだがそれは別の話である。
アベルとバレンシアの遺伝情報をもとに作られた三人のホムンクルスは、それぞれ性格が異なっており、長男シードルはエワード王によく似ていて、剣の腕も凡庸でその性格から家臣の評判もあまり良くなかった。
末娘の長女メーラは母によく似ていて氣立てもよく、剣術もそれなりの腕があり、父のアベルからは魔法の才能を強く受け継いでいた。
次男のアーファル・ジンジャーアップルは性格は優しい母に、抑えられない好奇心の強さは父から受け継いでいて
剣術、闘氣の扱い方、魔法の戦闘に必要な三大要素を子供の時から、高い才能として持っていた。
三歳の頃には上級騎士から一本取るほどで、四歳になるとはじまりの勇者が自ら鍛えるようになる程の才能を見せる。
アベルは噓偽りがない真剣さで「この子は、もう一人の俺だ」そう言ったのだ。
アーファルはアベルが認めるようにアベルが持つ、すべての才能を受け継いでいたのである。
しかし、長男シードルを支持する貴族達の手によって、アーファルは六歳の若さで毒殺されてしまうのだ。
この事件の黒幕はエワード王であり、血の繋がりはなくても魂で繋がる我が子を殺された事で、アベルの王国への不信が高まる事になった。
結局メーラにも謀殺の手が伸びたために、アベルはメーラをヴォルデウスの養子に出すことで彼女を守ることにする。
アベルとエワード王国の隠れた対立は、この時から始まるのだ。
▽▲
「わずか六つの若さで命を終えるとは不憫な事このうえない。もう一人のアベルよアベルの息子よ、貴方がもしも、続きを望むなら頷きなさい。私がわずかに使える【大権】の力であなたを転生させてあげます。そこであなたは懐かしい存在に会うでしょう。その者……アベルを頼り、ともに来る大戦に備えなさい……」
「お父さんに会えるんですか? わかりました」
僕は大きな女の人に言われて今、暗い流れに乗っている。
前の僕はお父さんとお母さんの下で幸せに暮らしていた。
でもお爺ちゃんは、お兄ちゃんより出来のいい弟などいらないと怖い顔で僕を睨む。
正直に言うとお爺ちゃんが僕を憎む理由が、僕にはわからないけれど、一度だけ「計画が」と漏らしているのを聞いた、意味がわからない。
ある時お父さんとお母さんが留守にしている日に、僕だけジュースを飲ませてくれた。
ジュースをくれた男の人は「アーファル様の、お爺様からの贈り物でございます」って言ってたっけ。
それを飲んでから僕の体が動かなくなって……。
次に目が覚めた時、体が熱い事、とお父さんが怒っていた事だけ覚えている。
「捜査は打ち切りだと、そんなふざけた話があるか。俺が直接言ってエワード王に問いただしてやる」
▽▲
その次に目を覚ました時は、お父さんとお母さんはすごくつらそうな顔だった。
遠くでお医者さんの「もう手の施しようが」、とおぼろげに言うのが聞こえる。
お父さんが僕の手を握りながら「痛くないか、苦しくないかい」と何度も話しかける。
見ればお父さんの友達のルーヴァンさんとヴォルデウスさんが、僕に回復魔法をかけて痛みを和らげてくれていた。
氣持ちいいやこのまま眠れそうだ……。
▽▲
氣が付くと僕は広い荒野にいた。
周りには何もなくて、おなかが空いたから、ここから移動して食べ物を探そうとしたんだ。
しばらく歩いたと思う。魔物や動物が襲ってきたけど、僕は覚えた剣術で簡単にやっつける。
僕の記憶はここに来て日が経つごとに薄れていく、僕がアーファルなのも忘れそうだ。
その後で、男に魔法を使われて体が言う事を聞かなくなる。その銀髪の人は
「恨みはないが、俺も捨てきれない夢があるんでね。悪く思うなよ」
そう言いながらどこか寂しそうな眼をしている。
僕の体は独りでに動いて、コボルトの村に行くと、すぐに捕らえられて。
檻に入れられて……そうだ、あの人に会ったんだ。僕と同じ剣術を使うのに僕よりはるかに練度が高くて強い人、小妖精の体なのにサポート種の概念が当てはまらない、規格外と思える強さの人だ。
初めて見るゴブリンなのに、何故か懐かしいと思う僕。負けてしまった。
「名前がないのか、そうかならお前はアーファ……『オウ次郎』だ。俺の事は兄貴だと思え。お前が辛いときは俺が支えになってやる、いいな」
大きな女の人が頼りなさいと言った人はこの人だ。
思い出せないけど僕はこのゴブリンを知っている。そんな氣がする。
兄貴はいつも僕に優しくしてくれるから、僕は兄貴が大好きなんだ。だから兄貴が行く道が僕の行く道だ。
▽
「ドライさん……僕にかまわず……オークを攻撃してください」
アルの言葉に申し訳ない顔をしたドライは、頷いた後で奥の手を見せる事にした。
中途半端に魔物の力を使わずに姿を完全な魔物に変えるのだ、これにより知性をなくすことなく、作戦を立てながら攻撃できる脅威が完成する。
本能に支配されてフィジカルを生かし、暴れるだけの通常の魔物とレベルが違う事は、冒険者なら誰でもわかる事なのだ。
「アルが死んでも、ドライとワンがすぐにアルを生き返らせるから」
オウ次郎は人質が通じないとわかりアルを解放する、ただし勝負に邪魔が入らないよう、魔法で拘束しての開放だ。
植物の魔物を半解放したアルの姿はエルフのように薄着になっていて、オウの魔法が光の拘束なのだが赤い糸のようであるため、まるで縛り付けられた小女の様相を呈するアル。
拘束を解いてドライに加勢しようともがくアルは「ぐぅ、んっ、あぅっ」と声を漏らしながら蠢く。
その度に、光の糸が体に食い込み余計にアルを苦しめる。
「なんかアレっすね」
そういうヒトは少し前かがみになるのだ。
回復に努めるミラルカは、そんなヒトに密着しながら「キル君には僕がいるでしょー」とむくれている。なんともかわいい魔帝なのだった。
さて変身が済んだドライを見て、ミラルカはドライに合成された魔物を言い当てる。
「フェンリルか、強い魔物を魔神は選んだんだね。嫌らしいやり口だよ」
オウ次郎達の前にバウバッドの宮殿をはるかに超えた大きい狼が三人を見下ろしている。
エワード王はアベルの詰問に苦肉の策として偽の犯人を仕立てました、アーファルにジュースを飲ませた男です。
当然そんな誤魔化しなんかは通じないアベルは、王国と対立してゆきます。
ただしアベルの困った人を見捨てられない人の良さを知る王国は、外伝にあるように泣き落としをし続けました
面白かった次も読みたいと思われた読者さま
下の
☆☆☆☆☆を押して
★★★★★に変えてください
彦馬がよろこびます