112話 バウバッド夜の戦い③もう一人のアベル
なんだろうこの感覚は? いま俺の前にいる男から、モヤが出ており正体をつかめなくなっている。
エルドラウフで会った時から、十英雄の三人に既視感を感じたものだが、俺の目でもはっきり見えなくされているのだ。
バウバッド全体を何者かの手の平で包まれている違和感は、【神越え】 (50000)レベルでないと氣づく事ができないだろうね。
アーガシアは、ピリピリした状態で「わしと敵対する気かあやつめ、後でアベル殿に手を出した言い訳を聞かせてくれるんじゃろうなぁ」とお冠なのだ。正直恐ろしい。
その言い方からして十英雄に手を貸している謎の存在は、アーガシアがよく知る人物であるらしく
俺に一筋縄ではいかないのだと思わせた。
単独犯じゃないな組織ぐるみの、おそらくは複数の協力者が、術者の他に存在しているはずだぜ。
そうでないと【神越え】である俺達が本気を出せない、今の状況が説明できないのだ。
▽▲
天界にある宮殿の一つに天手下殿がある。
万象の神々でも、大神のみ入ることを許されたこの宮殿には役割があり、神の力を増幅させて下界に「天の手」となって力を及ぼす事ができるのだ。
そこに、自らの使いを援護するために、聖なる踊りで力を高める天人がいた。
【神越え】達は力を封じ込められて、本氣を出すことができなくなっている。
しかし、その気になれば破られてしまうために、気休めでしかないのだけど。
それでも無いよりはましだとサン・ンゾ・シーホの姿で舞う、創造神は思った。
アベルが連れている仲間達言い換えるならトウ・ダーラ国の幹部連中は、アベルの鍛練により全員が大神(12000)レベルになっている。
それは魔神と戦うのには頼もしいのだが、今回は自分の部下が戦わねばならないため嫌な要素でしかない。
だからバルケスティはこうして、【戦場にいるトーマの仲間だけにバフをかけて、アベル達へはデバフをかけている】のである。
『マーニ・パウン・ドン・メェーーエ』
バルケスティは踊りながら、足のステップで作る陣の中央に体を移動させた後で、手を合わせて呪文を唱える。
その周りを12の神達が。
天界でも創造神に次ぐ地位の神々が、呪文の完成のために手と力を合わせながら、バルケスティの言葉を後追いする。
『『オォォーーーーン!!!』』
…
……
………やれるだけのことはやった。
アーガシアは「バルケスティどういうつもりじゃ」などと、後で乗り込んでくるかもしれないけどバルケスティとしても、大切な部下を失うわけにはいかないし。
アベルのレベルをあげる方法も、魂を取り戻させる以外に見つかるかもしれないから間違ってるとは思わない。
力を大きく落とした状態でアベルのさらなる成長を願うバルケスティ、いやサンは下界のアベルを見た後で「誰かアーガシアへの言い訳は、思いつきませんか?」
困った顔で12神を見るのだった。
▽
まずいなと思う俺、どこか知らないが力がバウバッド全体に注がれた後で、状況は大きく変わった。
なんと俺たちのレベルは、一時的ではあるが英雄級 (8000)にまで下がり、ワンとアルとドライの十英雄はレベルが大きく上がってしまったのだ。
俺の目で見たところレベル13000というところか、青ざめるジョフレと怒りのアーガシアへ顔を向ければ、俺と同意見のようでコクコクと頷いた。
ずるいぞ龍皇様お助けをぉーー、て叫んでベナレ〇に助けてもらうガ〇ガかよぅ。
「ずるいと思うか? 勇者アベル」
十英雄のリーダー格のワンが俺にそんなことを聞く。
なんだい律儀な男だな。
「試合ならね、ズルとかそう思うけど今は状況が違うだろ(正直ずるいと思ったけどさ)。自分と相手の生き残りをかけた生存競争が、俺の思う【戦闘】だからさ、多人数、武器、罠なんでもありが当たり前だよ。この状況だって【戦いと進歩の神】バルトエードは、よくやったと言って微笑みながら見てるんじゃないかな」
ワンは「さすがだな」、と言うと何がおかしいのかうつむいて、くっくっくと喉を鳴らす。
それでも馬鹿にした様子は感じられない。
その時だった
「サポート種のゴブリンごときが、大物ぶった口をきくなぁ!! 誰のせいで俺がこんな惨めな思いをしていると思ってるんだ。貴様が全部悪いんっ」
ワンは自分の下で怒鳴る竜を、足で踏みつけ黙らせた後激情を見せる。
怒りなんて生ぬるいものでなくて、殺意がありありとわかる、隠す氣がないようだぜ。
「誰が貴様に発言しろと言った? 今度あのゴブリンを侮辱して見ろ。お前の上あごと下あごを上下に引っ張って口を裂いてやる。俺の敵を侮辱する事は許さんぞ!!」
「ひぃいいいいい」
敵を侮辱と言ったワンは嘘をついている、俺があの瞬間に感じたのは【大切な存在】を汚された怒りなのだ。この男一体?
まぁそれよりも、ワンが制裁しなければ後ろで魔法弾を掌で構えているアーガシアが殺していたんだろうね―、なんて思う俺なのだ。
アーガシアの可愛さに反して、こういうところは王として流石だよね。
▽▲
なんなんだ? いくら人外とはいえ異常だろ。
オウ次郎を相手にするアルとドライは、戦闘が始まってからしばらくして、この思いを抱くようになった。
ヒトを回復させるミラルカが動かないのは正直ありがたいが、オウ次郎が自分達を一人で相手すると言った時は腹が立ったが、今は相手の発言が正しかったと認めてしまう。
ワンの仕込みでバルケスティはアベル達のレベルを下げて、自分たちはそれと逆に強くなっている、なっているはずである。
だというのに、たかがオーク一匹に苦戦させられている。
レベルは自分達が大きく勝るが、このオークは正面からぶつからずに力を上手く逸らしているのだ。
おかしい、そんなはずはないと幻影魔法を疑ったが、そういう魔法はバルケスティがかき消してくれているのだ。
つまりオークに十英雄二人がかりで苦戦しているのは、現実と言う事になる。
「そんな事あってたまるものですか!!」
アルが振るう渾身の鞭は左右の手の両方とも「もう慣れたよ」そう言われてオウ次郎につかまれてしまい、グンとオウ次郎に力づくで引き寄せられる。
そのまま羽交い絞めにされ、締め上げられるアル。
ドライの事もオウ次郎は忘れておらず、絞めるアルを盾のように向けて、人質としている。
この敵に向けた容赦のなさと、あらゆる手段を用いる戦闘方法は覚えがある。
アルが魔導列車で初めてアベルと接触する前に、バルケスティに見せられた【アベルの戦い方】と全く同じなのだ。
見るとドライは自分に遠慮して、オウ次郎を攻めあぐねている。
オウ次郎が攻撃しづらい位置にアルを動かしているのだろう。
ドライはやり居づらさを感じているはずで……アルはこのオーク一体何者だ? 薄れる意識の中でそんな事を思った。
ヒトは十英雄二人を相手に突破口が見つからず苦戦しました。
オウ次郎は自分のレベルが劣っているため、それに合った戦い方で二人を攻略しております。
オウ次郎はただのオークではなく、天界の種族で天人と同じように、神々の戦いで功績を上げた事により、天界に住むことを許されたハイオークが本当の種族になります。
生まれが普通ではないので父と母はいません、ただし魂で繋がる父親は、作中にもう登場しています
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