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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
十九 特対課の事件はここで終わる
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これで完了

 あの日、九十九の商品を楊に霊視させられた玄人は、すぐに床に跪いて叫んだ。

 その後は俺達に何の説明もせずに、確認することがあるだけと言って、百目鬼と世田谷に戻って行ったのである。

 彼はそこから武本物産の書類倉庫へと走り、過去の決算書類を見直したりしていたらしい。

 見直しは殆ど百目鬼がやったらしいが。


 特対課が全容を知ることとなったのは、その数日後である。


「え、お前の所に在ったの?それで、お前のところは売らなかったの?」


 玄人は嫌そうな面倒そうな顔で楊に答えた。


「商品が行方不明になったのですよ。うちの商品管理のアラート発令で、荷物が隠されました。それで、うちで隠しちゃった荷物でしょ。武本は仕入金をその会社に払っての、二八〇万円もの赤字です。あのアラート機能共め。」


 呪いに敏感な武本家はオコジョに商品管理をさせているそうで、呪いや異物が紛れていると彼らに隠されてしまうそうだ。

 当主が把握していれば良い事なのだが、当時の玄人は記憶喪失な上に、母親によってオコジョの存在も知らなかったのだから仕方が無い。


「それじゃあ、商品を渡してくれる?」


 楊に玄人はすんなりと「いいよ」を言うと思ったが、彼は当主だった。


「全くの善意の被害者の武本に、倉庫代と商品代金を払ってください。」


 着物のような柄と形の赤紫のチュニックを着て、頭に鼈甲飴のようなガラスピンをいくつも飾りつけた玄人は、つんと鼻を上げ、楊に挑むように腕を組んでの仁王立ちだ。


「お前には人の心が無いのか?」


「僕には三六五人の従業員の生活を守る義務があります。」


 偉そうに、フンっと楊に言い放った玄人は、とても可愛らしかったが馬鹿そうだった。


「何だその年中無休の従業員数は。ふざけていると強制執行するぞ!こら!」


 楊の一喝で玄人はぶんむくれて、自分に怒鳴った楊への復讐なのか、当時の取引相手の情報を楊に売った。

 俺の持つ帆布バッグとお揃いと言い張る帆布バッグから、A4サイズの茶封筒を取り出して楊に渡したのだ。


 俺の鞄はちゃんと京都の奴だよ、と、彼に伝えるべきか実は俺はとても悩んでいる。


 そんな玄人から渡された書類を読んだ楊はにやっと顔を歪めた。


「仕事を増やしやがって。このど阿呆が。」


 思い出しながら目の前でしゃがんでいる楊を見れば、楊の背中はオコジョを一匹ずつ撫でる作業に疲れが見えてきたようである。


「クロトが渡した会社の情報って何でした?僕達に教えてくれませんでしたね。」


 俺から後ろ向きでしゃがんでいる楊が、俺のセリフにハハハといい声で笑った。


「普通の会社だよ。普通の詐欺会社。勝手に商品を大手の会社の倉庫に送ってね、収納されるや仕入代金払えって、奴。大手は揉めるよりも小金ならば追い払いたいから払うだろ。二年前の武本もそれでの商品だってさ。俺達は普通の詐欺会社を検挙できるんだ。」


「いいですね、それ。検挙するには捜査をしないといけないし。刑事っぽい仕事でいいですね。おかしな地下でオコジョをひたすら撫でる仕事もいいですけどね。」


 ハハハと笑い声を上げる楊の隣に座って、俺もオコジョを撫でる仕事をする事にした。

 彼らは美しく、我侭で適当で意地悪な時もある、玄人そのままの神獣だ。

 尻尾の先だけ黒い所も、ちょっと悪どい玄人を現しているようでもある。


「お前も手伝ってくれるのは嬉しいけど、お前はいいのか?お前も好きなの一個だけ持ち帰っていいと玄人に言われていなかったか?」


「俺はクロトさえ貰えれば何もいりませんよ。」


 楊は大声で笑った。


「お前は謙虚なようで一番強欲じゃねぇか。総取かよ。」

「あ。」


 気づいて俺も大声で笑う。

 笑っている俺の足元をツンツンと突かれて、何かと思い見下ろしたら、オコジョが不思議な石のついたピンバッジのようなものを咥えていた。

 燻されて黒に近いゴールドの丸みのある四角の枠に嵌められた石は透明で、石の中には金色の糸か針金が縦横無尽に奔って輝いている。


「なにこれ。綺麗な石だね。ガラスなのかな。」


 俺がバッジに興味を持つと、楊がそれに気づいて声をあげた。


「あ、その石はルチルクォーツだね。金属が入った水晶。面白いじゃないか。」


 僕を虫塗れにしたオコジョ達からの仲直りの贈り物だろうかと、俺はそれを手に取った。

 石の中にある金属繊維が、光を受けるとさらにキラキラ煌いていて美しい。

 まるで百目鬼の目の輝きのようだ。


「え?」

「どうした?」


「いえ、何でもないです。それじゃあ、せっかく持って来てくれたコレを俺は貰って行こうかな。」


 手のひらで輝くバッジを煌めかせていると、ぽとりともう一つ同じものが落ちてきた。


「あれ、もう一個?」


「そうだろう。だってそれカフスだよ。ほら、空いた手を出せ。」


 楊の言うままに手を差し出すと、彼は一つ摘んで俺のシャツのボタンに石のバッジ被せてパチンと嵌めた。


「昔はそれが男のオシャレだったんだよ。袖口からチラッと見えるカフスボタン。百目鬼の俗っぽさを逆に行く感じでいいんじゃないか。」


「酷いですね。俗っぽいって。」


「俺が言ったんじゃないよ。チビだってさ。チビがあのアレキサンドライトを選んだ百目鬼に、傲慢で俗物な百目鬼にお似合いだって言い切ったそうだ。」


「クロトったら酷い!」


 俺達は大笑いしながらオコジョを撫でる仕事を再開した。

 オコジョ達から遠野可穂子の遺体を引き取れば、これで、遠野可穂子殺人及び死体遺棄事件は完了する。

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