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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
十九 特対課の事件はここで終わる
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オコジョさん達のお仕事

 寂れた遊園地のアトラクションの様なエレベーターに乗り込むと、そのエレベーターの床がぐらりと不安定に揺れた。


「わあ!大丈夫ですか?これ!」


「うん。今のはサービスじゃない?山口が妙にびくびくしているからね。で、ようこそ、これから地下三階に参ります。」


「え!書類は地下二階しかないですよ。違法建築ですか?」

「かもね。」


 楊は嬉しそうに答えると、エレベーターの操作盤のボタンを玄人から聞いた通りの順に押していった。

 ガタンと、操作盤の下の金属板が下に下がり、そこに地下三階を示すボタンが現れ、やはり嬉しそうに楊がそれを押した。


ビィー。


 耳障りなブザー音とともに俺達を乗せた箱はぐらりと再び揺らぎ、不思議な動きをはじめたエレベーターがゴウンと機械音を立てながら動き始めた。

 そして、俺達は、本当にあるはずのない地下三階に辿り着いたのである。


「武本が潰れないのは、こんな隠し倉庫があるからなんでしょうね。」


「お前も酷い奴だな。恋人ならさ、武本の親戚連中が才覚があるからだと考えてやれよ。」


「親戚を引き合いに出すなんて、かわさんだって当主としてのクロトの才覚は全無視じゃないですか。酷いですね。」


 エレベータードアではなく、背後の壁が開いた。

 けれど、その事にも楊は驚くことなく、当り前のようにしてエレベーターホールに降りていった。

 俺も楊の後について、その大昔の劇場みたいなホールに降りると、ガタンと後ろの壁が落ちてエレベーターが消えた。


「ちゃんとエレベーターを呼ぶボタンが壁に有るから大丈夫だよ。」


 大丈夫だと言われても、ここは微妙に現実とあの世の狭間の様な場所である。

 俺は慌てて楊の言うボタンを確認に走ったのだが、そんな俺の行動について楊が嬉しそうな笑い声を立てた。


「本当に可愛い奴って、お前を百目鬼が呼ぶ意味が分かったよ。」


 俺が楊の台詞に大きく舌打をすると、彼は笑いながら扉を親指でさした。


「さあ、行こうか。」


 すると、目の前の樫の木のような重厚な扉が、ギギギィっとゆっくりと開いた。

 俺は開いた扉の中へと一歩足を踏み入れたが、楊が動かずに俺の後ろに立ち尽くしていると気が付いて振り向いた。

 なんと、彼は顔を喜びで一杯にしているのだ。


「かわさん、どうかしたの?」


 彼はププーと噴出して笑い始めるが、その姿は本当に嬉しそうだ。


「以前ね、百目鬼と来た時はこの扉がすーと横に開いたんだよ。今日みたいな外開きじゃなくて。それで百目鬼とさ、スーパーの自動ドアみたいでつまらないねって。安っぽいアトラクションみたいだよねって言い合ったの。そしたら今日これでしょ。嬉しくって。オコジョさんたち、サイコーだよ!」


 腕を振り上げて喜ぶ楊に応える様に、青い稲妻が扉の表面をぐるっとなぞって青い円を描いた。


「さぁ入るか。さっさと忌まわしい物をこの幸せ空間から排除してあげよう。」


 楊は俺に微笑むとテクテクと中に入って行き、そしてすぐに声を上げた。


「わお!」


 俺が彼の後を追って中に入ると、そこは倉庫ではなく博物館か美術館のように財宝を展示した秘宝館であったのだ。


「素晴らしい。僕も先日一緒に来れば良かったですよ。でも、クロトはどうして来ないのでしょうね。倉庫にあるって教えてくれただけで、嫌そうな顔で、どうぞ、ですからね。」


 こんな面白い空間、彼も来たらいいのに。

 オコジョ達がぴょんぴょんあちらこちらに飛び跳ねて、宝石を磨いたり、商品を並べなおしたり、確かにアトラクションの一部のようなのだ。


「わぁ、なんてこと!」


 楊が頭を抱えて驚き声をあげたのは、彼の前に既に俺達の目的が梱包されて台車に載せられていたからだろう。

 彼らはなんて準備万端なのだ。

 しかし、台車の周りにオコジョ達が立ち上がってニヤニヤして楊を見上げており、百はいるあれを全部撫でないと楊は荷物を受け取れないらしいと分かって、俺も「うわぁ」と声が出た。


 楊の先ほどの悲鳴はこれが理由だろう。

 オコジョを撫でなければ手に入れられないらしい台車の商品は、玄人の説明によると、九十九の商品に目をつけて買い占めたとある会社が武本に持ち込んだものだという。

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