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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
十九 特対課の事件はここで終わる
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九十九と九十九が生み出したものの行方

 遠野可穂子の遺体は、俺達の捜査の結果、と言っていいのか、頭蓋骨と分解されているが、捨てられた内臓と流れた血液以外の殆んどを取り戻す事が出来た。

 遠野の頭蓋骨は、九十九の自宅にトロフィーとして飾られていたのである。


 九十九の自宅に入った鑑識官全員が、楊の特定犯罪対策課をこの世の敵という目で睨んでいたのは仕方が無いだろう。

 俺の纏っていたプラスチックのガードなどあっさりと打ち破り、結果として俺が近所の公衆トイレで吐いて動けなくなるような家だったのだ。


 そんな九十九の自宅は、肉屋だった店舗と自宅が合体している一戸建てであったが、三階建ての自宅の二階のリビングの棚には模型のようにして頭蓋骨がずらっと並べられていた。

 等間隔に置かれた頭蓋骨の間には、理科室の標本棚にあるようなホルマリン漬けの内臓や小動物の死体が飾られているという悪趣味さだ。


 そして、九十九いさ子が名乗っていた乃亜という名前は、戸籍上は生存していた彼女の実の娘のものだった。

 本物の乃亜は、廃業した肉屋の店舗の方で、ブタの燻製にしか見えない姿で干からびてぶら下がっていたのである。


 また、そこには乃亜の他に三体の遺体も吊るされており、解剖の結果、近隣では蒸発したと思われていたいさ子の夫と、有料老人ホームで亡くなったと思われていた夫の両親であった。

 根津に遠野の肉で作ったミートボールを食べさせるような魔女だ。

 夫の両親が認知の症状が出たからと殺し、夫が煩いからと殺し、反抗期の娘が面倒だからと殺したりと、自分にとって邪魔になった家族は簡単に処分できたのだろう。


 だろうとしか言えないのは、家族殺しの実行犯であり今回の事件の首謀者である九十九いさ子が何も語れない状況となってしまったからである。

 九十九いさ子は玄人と加瀬によって魔力を全て剥ぎ取られて無害となったその身であるが、そのために彼女の肉体は崩壊寸前の枯れ木のような有様だ。

 根津への聴取のあと、九十九は警察病院の方へと搬送される事になり、しかし、搬送途中で彼女は自殺をしたのである。


 そういう事にされた。

 遺体となった彼女の喉には、そこにあるはずのない遠野の肉片、根津が割った瓶の中に詰められていた物が捩じりこまれていたのである。


 九十九が死亡した事で日比野達は意識の呪縛を失った。

 しかしながら、彼女達が行った殺人行為は消すことはできない。

 日比野以下三名の今後は、人間として、遠野と今野への集団暴行による殺人の罪を裁かれていくことになるであろう。


「かわさんたら、結局玄人にお伺いで解決しちゃうのですものね。」


「しょうがないじゃん。九十九が自殺しちゃうしさ、あんな危険な化粧品は一日でも早く回収するべきでしょう。」


 玄人は楊に唆されるそのまま、物凄く嫌々とその化粧品の流れを霊視し、彼にしては小汚い罵倒を上げながら特対課の床に跪いた。


「ちくしょおおおお!なんてことだあああ!」


 九十九美容化粧品の殆んどと言わず現存するすべてが、武本物産の倉庫に在ったのである。

 肉片入りオイルも、骨粉末コラーゲンも、人毛エクステまでも。

 俺は九十九事件と可哀想な武本物産当主の事を思い出しながら、目の前に現れた美しいようで奇妙で不思議な建て物を見上げた。


「凄いですね。武本物産の事務所ビルがこんな風だったなんて俺は知りませんでしたよ。」


「お前公安だろ。武本の事を調べなかったのか?」


「書類上は知っていますけど、これは凄い魔法要塞じゃないですか。」


 地下二階地上十一階建ての不思議な程装飾に凝ったビルに俺が感嘆していると、横で運転していた楊はそんな俺を鼻で笑い飛ばしながらビルの地下駐車場へと車を操車していった。


「お前には魔法要塞って判るんだ。」


「オコジョ達が飛び回ってキラキラしていますよ。かわさんは気づきませんでしたか?」


「あれはオコジョなんだ。なんで今日は平日のくせに電飾しているのかと思ったよ。まぁ、武本だから?って気にしていなかったけどね。」


 楊は自然に受け入れて流している。だからこそ、玄人に一時的に与えられた力が消えた今でも、未だにオコジョ達が見えるのだろう。

 楊は車を降りると以前に来たことがあるからか、地下駐車場内の最新式エレベーターホールではなく、向かって右方向の暗がりへと迷うことなくさくさくと向かっていった。


 俺は足の速い彼に慌て、急いで彼を追いかけて暗がりに入ると、消火栓の赤いぼんやりしたライトに照らされた古めかしいオカルトな雰囲気の大型エレベーターが俺達を待っていたのである。

 躊躇する俺の目の前で、楊は平気そうに手動の柵を開けて中に入り込み、俺も怖々であるがそのレトロ不気味なエレベーターに乗り込んだ。

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