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これからの俺達の仕事

 どうしてそんな事になったのか、四人は分からず呆然としていた。

 足元には遠野の死体。

 仲間の内ではずば抜けて美しく、手にするものは何でも成功させる、仲間の自慢だった人。

 そんな彼女が、今や見る影もないのである。


 頭にはいくつか陥没した箇所が見受けられ、顔はところどころ皮が剥げ、血塗れどころか両の目玉までも飛び出ている。

 遠野を見下ろす自分達の手は生暖かく塗れていて、遠野が友人達に配った小さなシャンパンの小瓶が血まみれで割れていた。


「なんで。」

「いったいどうして。」

「あたしらを馬鹿にしかしない女だったじゃないの。根津君が可哀想で、可哀想じゃ無いの!」

「琴子!」


「私に任せれば全部上手くいくわよ。」


 知らない声に四人は一斉に固まり、恐る恐る振り向くと、中年の女性がにこやかな顔を彼女達に向けて立っていた。

 その女性の顔が、彼女達が見守るうちに徐々に若さを取り戻していき、今や二十代の若い女性の顔となっていた。


「凄いでしょう。これが貴方達の儀式の結果なの。あなた達も若く美しくなれるわよ。」


「彼女達は簡単に九十九の手駒になりました。殺人を目撃された上に、目の前で若返りまでも見せ付けられたら従いますよね。それで、彼女達は、遠野の遺体を九十九の指示した場所に運んで、九十九が命令するままに遺体を解体して燻製して。」


 話しながら加瀬は涙をボロボロと流し、声まで擦れてきて、髙はそんな加瀬の肩をそっと抱き、「もういいよ」と言った。


「山口。加瀬のパソコンの「お気に入り」で「オイル」を画面に出して。」


 俺は言われるまま加瀬のパソコンから、「オイル」と名前変更して登録された画面を呼び出した。

 それは九十九が主宰したらしい、美容オイルの販売ホームページだった。


「偉いね。加瀬は。辛い記憶を貰っても、刑事として裏取をしていたんだ。これは薬事法で引っ張れますかね。」


 俺の台詞に髙は首を振った。


「もう二年前に所轄がそれで引っ張って、その発端の自殺した被害者一人で事件が終了しているんだ。当時の九十九は委託販売を主張して、提出した書類もオイル購入先をそれらしい海外のダミー会社にしていたからね。捜査はそれ以上進まず終了。このホームページはインターネット上に残っているだけのものだよ。加瀬がオイルの情報を持って来た時に一緒に洗い直ししたらね、商品は二年前に発売して直ぐに売り切って終了している。つまり、購入者の書類が無くて被害者の数が分からないんだよ。」


 そこで髙はいったん口を閉じ、やるせなさそうにふーと溜息を吐いた。

 右手で軽く頭を掻き、兵隊が上手く動かない時の不機嫌な顔さえも見せている。


「あの、髙さん?」


「僕達はこれから所轄が二年前にし残した九十九の美容グッズによる被害者探しなの。遠野の遺体を全部材料にしての美容グッズだからね。内臓は使えないから生ゴミとして捨てたらしいけど、骨はコラーゲンとして粉末状にって徹底的だよ。一人の人体からできる化粧品の量なんて、想像できるかい。」


 俺達は全員がそこで、ああ、と溜息交じりの嫌な声をあげるしかなかった。

 団地での髙の思いつめた顔付きはそれか、とようやく合点がいったのだ。

 俺達はこれから九十九が製造した化粧品を探して被害者を探して、つまり、ばらばらにされた遠野可穂子の遺体を捜さなければならないのだ。


「あ、メールだ。」


 楊の間抜けな声に、暗く頭を下げていた俺達は一斉に彼を見返した。

 メールを読んでいる楊は、ふふっと顔を綻ばせた。


「何かいい情報ですか?」


「水野と佐藤の爛れは痕が残らないってさ。あの子達は機転が利くからね。とにかく水で流し続けたのが良かったみたいだね。藤枝から評判のいい皮膚科も教えてもらったらしいから彼女達は大丈夫だね。本当に良かったよ。」


 暗く嫌な気持ちになっていた俺達は、その情報に全員の気持ちが軽くなっていくのを感じていた。

 楊は部下達のそんな様子に気楽な笑顔を浮かべたが、彼の双眸の真っ黒な瞳は闇のように暗かった。

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