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ことの次第

 黒ドレスの琴子達が玄人には全員同じ顔に見えたのは、考えるまでも無いおぞましい理由が彼女達にあったからだ。

 彼女達は今野茉莉だけでなく、二年前に遠野可穂子を殺していたのである。


 オイルに入っていた人肉は遠野のものであり、彼女達はそのオイルを使う事で遠野のように美しくなれると思い込んでいた。

 彼女達がそこまで遠野に拘ったのが、遠野の顔が四人とは比べ物にならない程に整っていた事実からではなく、四人には逆立ちをしても手に入らない経験を遠野がしていたからだ。


 つまり、遠野がかって佐藤良純の恋人だったという記憶だ。


 遠野のエキスが入ったオイルは、そんな遠野の記憶や思考までも琴子達四人の人格に沁み込んで、彼女達の精神にかなりの影響を与えていた。


 しかし、今回の被害者である今野茉莉は、遠野の殺害には参加していない。

 彼女は久々の友人達の集まりに嬉々として参加して、二次会の準備中に琴子達からオイルを分けてもらっただけである。


「ねぇ、琴子。あのオイルは本当に安全なものなの?私はあれを使ってから、なんだか頭がクラクラするのよ。」


 二次会が終わって三次会へと彼女達と向かう最中に、今野は体の不調に耐え切れずに友人達に声をあげた。

 二次会ではさらに強烈な記憶のフラッシュバックが今野の頭の中で瞬き、今野の頭の中はその騒々しさで目の中までチカチカするようなのである。


 今野の頭の中では、彼女が付き合った事も無い「佐藤君」が、大きなベッドに裸で横になっていたり、彼女に優しい微笑みを浮かべながら手を差し伸べたり、という映像が、何度も何度も壊れた映写機がするようにして映し出されているのである。


 今野はそのせいで、久しぶりに誰かを憎んだ。

 高校時代に遠野に対して抱いた嫉妬が再び燃え上がり、佐藤の妻に対してその時の気持ちを全てぶつけるようにして虐めてしまったのだ。


 いや、虐められなかったから、今野は憎い女の汚れた面を人に囁いたのだ。

 会場準備中に琴子に聞いたのだから、これは真実でしかない、と信じながら。


「ねえ、知っている?あの子、橋場建設の会長の愛人をしていたんですって。」


 今野は何度も佐藤の妻に差し入れをしようとしていた青年に囁いたが、彼は今野を冷たい視線で見下すだけだった。

 どうして!あの時は上手くいったのに!


「ああ、お前か。お前が憎い。」


 今野の足が止まった。

 たった今、自分が無意識に呟いた言葉は、自分の憎しみでは無い、と。


「ご、ごめん。先に帰っていい?本当に辛くて。なんか、おかしくて。」


 四人の旧友達は足を同時に止めると、同じ動作で今野に一斉に振り向いた。

 キャアと今野は思わず叫んだ。

 旧友達の顔は、自分達が羨み嫉妬した、遠野可穂子の顔だったのだ。


 それも四人とも。


「ごめんなさい。遠野ごめん。だって憎かったのよ。あたし達は全然佐藤君に相手にされていないのに、毎日のように自慢するから。だから嘘ついたの。あなたが援交しているって噂をばら撒いて悪かったわよ。だから、許して。」


「遠野の記憶がある四人は、今野のその告白によって今野を殺害したのです。」


 これは、九十九乃亜の記憶を読んだ加瀬による説明だ。

 彼の中には、九十九のものだけでなく、九十九を通して九十九が支配していた四人の意識と、被害者の遠野の意識までもが流れてきたのだという。

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