僕達内勤組
え?頼むよ、かわさん。
俺が不安になりながら見守る中、楊はどんどんと考え込んでいき、最後にはしゃがみ込んで両手で顔を覆っているじゃないか。
「ちょっと、かわさん。ふざけてないで。もういいですから。さっきの質問はキャンセルします。無しです。無し!」
俺は本気で慌ててしまった。
百目鬼が俺のように玄人を愛しているのならば、俺は確実にあいつによって玄人の前から完全に排除される。
将来、早い定年をした後に玄人と住むつもりで百目鬼に貢いだエアコンの代金など、金持ちの百目鬼は軽く俺に返すだろう。
倍にして返して俺の頬を札束で殴るぐらいはする男だ。
俺がどんどん不安に陥っていることなどどこ吹く風で、百目鬼と同じ人非人の楊は、気味の悪い笑い声を上げ始めていた。
壊れた?
「ひひひ。これから百目鬼を揶揄えるネタをありがとうよ。」
厭らしい目つきで俺を見て、楊はニンマリと口角を上げた。
「絶対やめて下さいよ。俺がそのせいでクロトと引き離されたら、俺はジャンプしますからね。飛び降りちゃいますから。そして、一生、かわさんに取り憑いてやる。ぜったいに不幸にしてやる。」
楊は怯えるどころかケロっと返してきた。
「俺、見えない人だもんね。」
しゃがんでいる彼の足元に、テトテトと歩いてきた三匹のオコジョが纏わりつきはじめた。
彼は律儀にそれを撫でてやっている。
オコジョは飯綱使いの玄人の使い魔だ。
楊に玄人が一時的に力を渡して以来彼はそれが見えるようになり、喜んだオコジョに日々纏わりつかれているのだ。
なぜか必ず三匹単位で現れるのが不思議だが。
「かわさん、それはオコジョの姿をした動物霊ですよ。」
しかし彼は怯えるどころかケロっとして答えた。
「元は動物霊でも今は神獣でしょ。可愛いから平気、ねー。」
オコジョたちは楊に可愛らしく愛想を振りまいてから、俺の方を見て「ばーか」という顔を一斉にしたように見えた。
消したい。
消すぞ?俺はお前らくらいなら祓える人だ。
気持ちが通じたか、オコジョ達がちょろちょろと逃げていった。
「何やってんの、かわさん。それに山口は書類を片付けたの?」
公安時代の俺の教育係で、今は楊の副官の髙悠介警部補だ。
楊と同じ身長に同じような中肉だが、風貌はまるっきり逆の一重の瞳の地味な顔立ちだ。
けれども経験値が課の誰よりも高いからか、大人の飄々とした雰囲気を纏っている格好のいい男性である。
また彼は「可哀相好き」であるそうで、その性癖を見つけた百目鬼によると、可哀相度と好感度が彼の中では比例どころか一本線なんだそうだ。
「髙が大好きなのは楊と玄人に、そして、おまえ、だ。わかりやすいだろ。」
失礼な百目鬼のセリフを思い出した。
本当にあいつは嫌な奴だ。
「いえ、すいません。」
役立たずの俺はスゴスゴと自分の椅子に座りなおした。
先週顔に大怪我をしたために、俺は完治するまで内勤なのだ。
楊の犯罪対策課はその先週の事件など放り投げて、今は大きくもないが別の変な事件の捜査中だ。
俺以外が。
違う、トップの楊も外に出して貰えない。
楊は謹慎中だ。
「俺さぁ、する事ないんだったら家に帰っていい?洗濯したい。」
副官に気だるそうに我侭をごねる上官。
平和だなぁって、癒される俺がいた。
「何言ってんの。かわさんはここから部下に指示を出していれば良いでしょ。捜査初日にあんなに大はしゃぎするから仕方ないじゃない。少しは反省してくださいよ。」
楊も髙によって外出禁止令を出されているのだ。