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アルバム鑑賞会

 俺達を覗いて涙目になっていた妖怪を、山口は部署の奥の長椅子に腰掛けさせると、彼は親鳥のようになって玄人を慰めて甘やかし始めた。


 俺はそんな山口を見て、こいつは使える奴だよな、と認めてもいい気になっていた。

 しかし、山口がいると俺の面倒が減って楽もできるが、山口一人分の家事が増えると考え直した。


 いや、玄人の様に家事を絶対にしない男じゃないはずの彼ならば、仕込めばそれなりに使える奴になるのでは無いのだろうか。


「山口。お前の花嫁修業の進み具合はどうした?味噌汁と簡単なおかずぐらいは作れるようになっただろうな。」


 玄人用にコーヒーを淹れていた山口はピタリと動きを止め、そのコーヒーを玄人ではなく俺に持って来た。


「お前、急に何言ってんの。山口をあまり虐めるなよ。山口、俺にも。」


 楊も酷い奴だよな、と楊のコーヒーを淹れに行った山口の後姿を見ながら楊に答えた。


「だってよ、コイツが家に来たら俺の家事が増えるだろ。クロは家事なんて教えてもしない奴だからな。世話が増えるなら子供は一人でいいかなぁ、なんてね。思うだろ?」


「家事してますよ!」


「お前が持ち込んだ神棚と仏間の掃除と世話だけじゃねぇか。服くらい畳めよ。」


 ぶんむくれる玄人と反対に、山口が見るからに落ち込んで萎んでしまった。

 こいつはなんて可愛いのだろう。

 そして、山口が来たら自分も家事をしなければいけなくなる可能性を考えて打算的な計算を始めているらしき玄人の顔付きに、こいつはなんてロクデナシなんだと改めて思った。


 自分の得になることしかしないなんて、俺にそっくりじゃねぇか。


「お前が教え込めばいいじゃん。俺も忙しくてさ。」


 楊の言葉に喜ぶどころか山口は目を丸くして固まってしまい、そして、友達がいのない葉山が、そんな山口の挙動にクスクス笑いが止まらないようだ。


「お前は家事ができそうだよな。」


「出来ますよ。」


 俺の呟きに葉山は涼しい顔でニンマリと笑顔を見せ、友人の裏切りを考えて慌てたのか、山口のあげた悲鳴に近い声は半音高かった。


「今度の休みに行きますから!俺に家事を教えてください。」


「お前って、本当に可愛い奴だよな。」


 俺が思わずしみじみと言葉にしたら、山口は走って何処かに行ってしまった。

 トイレで泣いているのかもしれない、と俺は思いついて、あいつは感情をひた隠しにしてきた公安の人間兵器だったのではなかったのか?と疑問に思った。


「お前、本当に酷いよな。おい、チビ。こいつが長居すると山口が可哀相だからちょっとおいで。この卒業アルバムで、お前の知っている二次会メンバーを俺に教えてくれ。」


 結局山口からコーヒーが貰えなかった玄人は、俺達のコーヒーを羨ましそうに眺めながら側に寄ってきた。

 玄人は葉山の近くのスツールに座ると、分厚い卒業アルバムを開いて中を見ている。

 葉山も興味津々なのか玄人と一緒になって、玄人の背中側の右から頭を突き出す様にして覗いているが、左腕を玄人のスツールにおいているところから、あいつは機会を活用して玄人にくっ付いているだけだと理解した。


 男どもの劣情も知らずに子供のように玄人はぷらぷら足を揺らしながらページを捲っていたが、あるクラスのページにてぴたりとその手を止めた。


「あ、良純さんだ。まだ髪がある。」

「俺がハゲになったみたいに言うなよ。」


 玄人の額を軽く指先で突いた。

 俺を恨めしそうに見た後に、再びアルバムを捲る玄人。


「あ、かわさん若い。ラグビー部って本当だったのですね。」


「煩いよ。お前はチビにコーヒーぐらい淹れてやれよ。なぁ、お前も飲みたいよね。貰えなくて可哀想にな。」


「そうだったね。クロは何がいい?ポーションだからね、俺の個人持ちのカフェモカでも飲んでみる?」


 葉山の提案に玄人はアルバムなど忘却した顔で葉山に期待した顔を向けたので、楊は軽く葉山の肩を叩き、葉山は玄人にくすりと笑うとさっと立ち上がってコーヒーマシンに向かった。

 そして俺のろくでなしの子供は、自分のために個人持ちのポーションを使用してコーヒーを入れてくれている男ではなく、楊へ称賛の眼差しを向けているのである。


「流石かわちゃんです。この人が好きだった気持ちがわかります。」


「誰が好きだって。」


 玄人に聞き返している楊は、本気で、え?っという顔だ。

 妙に嬉しそうでもある。

 楊がよく「女子に相手にされたことがない。」と嘆くのを冗談だと思っていたが、それは本当だったようだ。

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