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だから濡れ衣だって

 百目鬼の言葉に、俺も百目鬼と同じく、なぜそんなものがそこにあるのか不思議に思った。


「根津が女房云々で来た時にね、ちびが根津の後ろを恨みの篭った黒ドレスがついて周っているって言うからさ。俺もあいつに確認させるために自宅から持って来ておいたんだよ。」


「亡くなっていたのは今野茉莉でしたが、その時は行方不明の根津の妻だと思わなかったのですか?」


 俺の台詞に楊が当たり前のように、さらっと答えた。


「あの子馬鹿だから。」


「いや、確かに馬鹿ですけどね。それと卒業アルバムはどう関係あるのですか?」


「山さんも恋人に対して酷いよね。」


 ポツリと葉山が口を挟んだ。

 五月蝿いよ、と葉山に言い返そうとした時、百目鬼が驚いている声があがった。


「もしかして、お前にも同じことを言ったのか?俺の子供を堕ろした奴がいるって言うからさ、どいつだ?って聞いたらね。わからないって。」


 楊は百目鬼を指さして、にやりと笑いながら言葉を続けた。


「同じ顔で同じようなドレス着ているから見分けが付かなかった。」

「そう、それ。」


 百目鬼も楊を指さし、二人の指先の先から光線が出て何かが繋がったのか、彼等は同時に納得したような顔をして指を降ろし、楊は部下の俺達にもわかるように卒業アルバムを持ち上げて胸に掲げた。


「君達も見ていて知っているだろうけど、彼女達は同じようなドレス着ていたけど、顔は全然似ていなかったでしょう。それで、これ。」


「それでどうしてそれ、なんですか?出席していた女性の本当の顔を見せてもクロにはかえってチンプンカンプンだと思うのですが。」


「そうなんだけどさ。もしかして、もしかしてさ、チビが見えていた別の顔がここから見つかるかなと思ってね。俺達の共通は高校の同窓ってところだろ。まぁ、アルバムも不要のまま一応事件は解決したけどさ。彼女達の動機やら百目鬼の事件も解決していないようだしね。何だよ、子供って。」


「知るかよ。俺は避妊はしていたからね。高校時代一人暮らしだったろ。時々顔を出す糞ババァがよ、親らしい事は言わないくせに、コンドームはつけろって煩くてさ。大箱を渡してな、言うんだよ。女に絶対に触らせるな。勝手に穴を開けられるぞってね。俺はなるほどと思ったよ。お前はそうやって俺を作ったんだなってさ。」


 百目鬼の昔話に、楊と葉山は口を押さえてブフっと噴出した。

 俺は笑えなくて棒立ちになっていたら、百目鬼に軽く腕をつつかれた。

 見下ろせば、俺の椅子に座っている彼が、立っている俺を見上げて微笑んでいるのだ。

 こんなに優しい眼差しで俺を見てくれたことは今までなかったという、百目鬼の素晴らしい笑顔だ。


「お前も笑いなよ。笑い話だろ。鈴木のような情けない顔をするな。」


 笑っていた楊が、ぴたりと笑いをとめて百目鬼を見返した。


「鈴木は笑わなかったのか。」


「泣いたね。自分でこの大箱はなんだと聞くからさ、教えてやったのに。ごめんってさ。鈴木が生きていたら山口とお友達になれたのにね。ウェット過ぎて周りが大変だけど。」


 俺は百目鬼の台詞にぐっと来る。

 感動じゃなくて「酷い」的な感覚のほう。

 ほら、鬼畜な葉山が良い声で笑っているじゃあないか。


「で、その鈴木さんて、性格は玄人君と似ていたのですか?」


 葉山の言葉に、俺は彼が玄人に期待をかけ過ぎている気がしたが、俺が余計な事を言うと百目鬼の癇に障って接近禁止令が再び出されるかもと黙った。


「馬鹿。鈴木を馬鹿にするな。あいつはあんなロクデナシじゃないよ。」


 俺は百目鬼に呆然とした。

 この人は玄人以上に酷過ぎる。


「え、ロクデナシなの?」


 葉山は百目鬼の返しに驚いている。

 俺も最初は玄人は良い子過ぎると思い込んでいたのだから、彼の反応はこの間までの俺みたいなものだ。


「当たり前だろ。多分クロに今の話をすると、良いお母さんですねって真面目な顔で言うぞ。避妊は大事ですものねって。あいつは馬鹿だから。」


 楊はわっはっはと大声をあげて笑い、百目鬼は戸口を見て動きが止まり声をあげた。


「あ、キジムナー。戻って来たか、ほら来い!」


 楊が机に突っ伏して笑い転げる中、玄人は涙目で妖怪っぽく戸口から俺達を覗いていた。 

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