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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
十五 此れを念(おも)えば次第(しだい)を失い
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階段途中での攻防

 玄人は、俺が世界だと告白した。

 これは俺だけのもので、俺から決して離れないものだとそこで知った。

 それならばと、自宅に戻った俺は「特別」を心行くまで楽しむ事に決めた。


「な、ななな何を考えているんですか。あなたには禁忌というものが無いのですか。僕とあなたの関係を思い出してください!」


 もちろん玄人はあからさまに拒否をした。


「禁忌やタブーというのならば、お前の男色は紀元前からのタブーだろうが。聖書で禁止されている行為だぞ。」


「あなたは仏教徒でしょうが!仏教においてはお稚児やら何やら男色は大丈夫でしょう。有名な上杉謙信は、信心の為に女犯をやめて男色に走った武将ですよ。」


「そうなんだよ。仏教においてはそれは禁忌じゃないんだよね。」


 俺は無駄な雑学ばかりの馬鹿な子供ににんまりと微笑んで、階段を一段上がる。

 彼は逃げ出すかと思ったが、珍しくキッと俺を睨みつけた上に、そこに踏みとどまったではないか。


「駄目です。」


 うわお!偉いぞ。

 そして、その気丈な顔付きは、壮絶な美しさで輝いている。

 俺が見立てて作った外見だ。

 彼の姿が俺の心を騒がせ、劣情に駆り立てるのは、彼のどこもかしこも俺好みであるのは、太陽が東から昇るのと同じぐらいに当たり前なのだ。


「駄目ですよ。僕は淳平君とでも、そ、そこまで行きたいとはまだ思ってもいないし、覚悟もないです。それなのに、裏切って先に良純さんと出来るわけないでしょう。」


 俺から階段の数段上に立つ玄人はバスローブを纏っただけの姿で、バスローブがはだけない様に自分の体を抱えるようにしている。


 自宅に戻ってすぐに俺達はシャワーを浴びた。

 まずは、俺。

 そして次に玄人だ。


 馬鹿な彼は俺の言うとおりに無防備にもシャワーを浴びて、機嫌よろしく風呂を上がった所を捕獲され、俺に二階に連れ込もうとされての今の状態だ。

 無理矢理も俺の力では出来るが、自分から、が、いいではないか。

 この抵抗ぶりも楽しいし。


 彼は下の段に俺がいるので下に逃げられず、かといって上にあがれるわけも無く、膠着してしまった状況に慌てている。


「馬鹿だなぁ。最後まではしないよ。今夜はお互いに慣れるって事ぐらいだよ。」


 大きな目をもっと大きく見開いて、玄人の顔は真っ赤に染まった。

 ついでに、怒りか羞恥によるものか、口元がプルプルと震えている。


「鬼畜です。鬼です。どうしてそんな人でなしの言葉が吐けるのですか。」


 俺は知っている。

 口で俺を非難しても、奴の心に、それくらいなら、の打算が生まれてしまっている事を。

 あいつは俺が世界だと言ったあの車の中で、俺の手管にとろけていたのだ。


「お前は俊明和尚の長椅子に横になりたくはないか?」


 そうだ、あそこに転がしてやるぞ。

 お前が望むのならば。

 誰にも触らせず座らせなかったあの長椅子に、お前が俺の特別に成るのであれば座らせてやろう。

 だが、馬鹿は俺の予想外の言葉を吐いた。


「駄目ですよ。良純さんが使っていないのに。僕が先には絶対に駄目です。」


「あれは、お前は触りたい横になりたいって身悶えするほど気に入ってただろ。」


「それはそうですけど、あれは良純さんが先です。あなたがあんなに大事にしていた物を僕が先には駄目です。良純さんが使ってからじゃないと絶対に嫌です。」


 馬鹿は当主の頑固な顔付きで、それも、わかっていない人、という見下す目つきで俺を見下ろしていた。

 ローブが肌蹴ないようにギュッと自分を抱きしめていた腕は、いまや緩やかに胸の前で偉そうに組まれ、ローブは少し胸元が空いているが、隠していた時よりも色気が無い。


 全く無い。


 一瞬前までの色気が消えてしまっている。


 畜生。

 先程までの俺の可愛い馬鹿が台無しだ。

 俺は余計な事を口にした自分の失態だと、大きく舌打をして踵を返した。

 玄人を階段に残して、仏間に入ったのだ。


 交換条件にならなかった宝物を、まず俺が堪能してやるために!

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