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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
十三 死人は括り、穢れは炎で拭い去るべし
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宴の後始末

 事務所内には四人の死人。


「かわさんたちは何人の死人と遊べたかね。二体はさっちゃん達にプレゼントしてあげようか。」

「全部あげましょうよ。俺達はこの現場を処理するので手一杯ですよ。」


 近くの死人を引っ張り、部屋の外へと追い出した。

 その俺の背中に向かってくる者と、自分に襲い掛かってきた者を、髙は同時にバシっと叩いた。

 一振りのような大きな軌道を髙の警棒が描く。

 倒れたモノを俺が引っ張りあげては外に出し、最後の奴は面倒臭いから確実に自分で叩いて拘束までして室外へ放り出した。


「じゃ、バリケード。」

「かしこまりました。教官!」


 縛った死人を室外に放り出し、鍵を閉め、それから事務机などで他のメンバーが入ってこられないように戸口を塞いだ。


 仲間だが、仲間だからこそ、この現場はまだ見せられないだろう。

 被害者の血で天井まで染め上げられた部屋は、人間の臓器の生臭いにおいで満ちている。

 生きながら引き裂かれた被害者達は、いつものように細切れにバラバラにされてあちらこちらに落ちていた。


 俺は両手にゴム手袋を嵌め、やはりいつものように遺体を拾い始めた。

 被害者に何もしてやれない俺はせめてと、遺体に出来るだけ元の体をとりもどせるようにと、それぞれの部位を間違えないように慎重に並べ続けたのである。


「こんなことばかりしていたら、僕達もいつか縛り上げられますね。」


 髙は情けない表情をみせてフッと笑うと、ライターオイルの小缶を俺に放る。

 受け取った俺は死体の損壊部分に、特に念入りにオイルを注いだ。

 死人の食人の証拠を残してはいけないからだ。

 被害者は殺されて丸焦げになったが真相になる。


「久々に酷い現場だから、全て燃やし尽くしたいね。」


 髙は部屋に固形燃料を設置していくが、燃え残ったらと考えて躊躇しているのか、四つ目を置くかどうか珍しく迷っていた。


「燃え残っても、後は消防が何とかしてくれますよ。」

「そうだったね。」


 救護が目的の消防隊員の方が警察官よりも死人の存在に詳しい者が多く、警察の事件の後処理を担当してくれるのは皮肉に感じる。

 人質は三人。

 自動車工場の事務員に雇われたばかりの、中年女性と彼女の小学生の子供達。


「雇い入れて殺すって、計画的な殺しですよね。このシングルマザーを子供ごと殺して死体を隠して何事も無いフリをするつもりだったのでしょうか。」


「子供をシングルマザーごとだよ。死人は子供を狙っていた。」


 髙は部屋の隅に落ちていた小さなマスコットを拾うと、俺が纏めた遺体の子供の手のひらにそれを乗せた。

 肘から先は骨になっている二の腕までのもの。


「嫌なルールです。他人の寿命を貰う事で生者に戻れるって。それも寿命が長い人間の方が効力が高いなんてね。あいつらはここに普通の顔して住んで、数年毎にこんな事を繰り返していたのですね。」


 俺は食道を上ってきた胃液の臭気に、生唾を飲み込んで吐き気をこらえた。

 被害者の苦悶の叫びをシャットアウトしていても、幼い子供達が生きたまま引き裂かれているという、こんなに酷い現場は久しぶりなのだ。


「今回は離婚が偽装だった事を知らなかった死人の失敗だね。」


 帰りが遅いと離婚したはずの夫が妻の仕事場所まで見にいくと、妻と子供の叫び声に驚き脅えて警察に走ったのだ。

 駆けつけた警官は対応に出て来た一人を目にして、室内を見ることもなく「死人メール」を上司に送って署に戻った。


 その巡査が死人事件の経験者であった事が幸運だった。

 彼女と相棒が室内に入っていれば、彼らはそのまま宴会の皿におまけで乗せられたことだろう。

 そして生者の姿に戻った死人達は、アジトを放棄して姿を消す。

 警察に走った目撃者でもある夫は、死人たち独自の繋がりにより、そのうちにこの世から姿を消される事になる。

 そんな筋書きになるはずだった。


「出るよ。」

「はい。」


 俺達は部屋を出ようとバリケードを動かし順番に出て、それからドアを開けたままバリケードを戻し、ドアを閉めて鍵をかけた。

 閉める前には火種を放って。

 ドアの向こうからボっと点火した音が聞こえた。


 俺達が連れ立ってガレージに戻ると、メンバー全員が俺達を待っていた。

 彼らの足元には総勢十二人の括られた死人と、涙を流さずに静かに泣いている子供である。


「お前教えとけよ。二階に五人もいたぞ。おまけに生きている子供まで。この子だけは無事で良かったよ。」


 楊が髙に憤慨しているが、気づいた俺は楊に伝えられずに髙に振り返った。

 髙は大きく溜息をついてバスの中での台詞を繰り返した。


「ねぇ、かわさん。今から玄人君を呼べない?」


 その子供は死人で人食いを経験している奴であるのだ。

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