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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
十三 死人は括り、穢れは炎で拭い去るべし
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死人狩り

 工場は修理工場と事務所と仮眠室の三区画がある建物だ。

 つまり、車を整備する大型ガレージ脇に二階建ての建物がついていて、一階が事務所に二階に従業員用の仮眠室という間取りだ。


 ガレージ内には三人の死人がいて人質はいなかった。


 マイクロバスがガレージに突っ込むや、俺達はバスのドアを明き放ち、弾けるようにして外に飛び出した。

 驚いたのは、水野達がドアではなく窓を開けて、そこからぴょんぴょん思い切りよく飛び出したばかりか、二体の死人をすぐさま叩きのめしたのだ。

 生者か死人か確かめもしないその思い切りの良過ぎる行為に、髙までも度肝を抜かれていたようだった。


「あの二人だけで大丈夫だったかね。」

「俺達は拘束に徹しましょうか?」


 俺と髙は水野達が倒した死人をそれぞれ拘束して、バスの側へと引きずった。

 楊組は水野達の脇を走り、二階の仮眠室の死人を制圧へと向かっていった。

 彼らの足音となるドタバタとした音が、彼らの存在を示すようにして階上から聞こえる。

 これは時間との勝負で、人質を考慮せずに死人を倒す事が第一目標であると髙は楊に伝えているはずだ。

 生者の理が効かない相手には攻めしかないと。

 俺達は死人の存在を近隣の住人に気取られぬ内に対処せねばならないのだ、とも伝えた事だろう。


 楊達には伝えてはいないが、多分も何も経験上、人質は全員が死んでいる。

 既に手遅れなのだ。

 俺達の実際は、死人による宴の後始末に来ただけでしかない。


「あ、そこの公安組、後ろ一体!」


 水野の叫びに、髙は前を向いたまま警棒を後ろへ払った。

 跳ね上げられて倒れた死人は、胸の辺りが見事にまでに血まみれだ。

 俺が腰縄を引き出してそれを拘束する傍らで、髙は冷たく呟いた。


「もう少し、早い決断が欲しかったね。」


「彼らが表に出て人質を取ったらお終いだと、普通は分からないから仕方ないでしょう。それよりもいいのですか?かわさん達を上の仮眠室に向かわせて。かわさんは見分けつくようになりました?」


「知っている癖に。」


 髙は歪めた俺に笑いを見せると、踵を返した。

 上には生者はいない。

 上どころかどこにも生者がいない事を、髙も俺も知っている。


 二階の死人達は宴会が終わって一休み中の奴らだ。

 人肉を喰らった奴等は生者化するまで十数分は要する。

 喰って直ぐではないのだ。

 光合成をする植物のように上を向きふらふらする。

 映画のゾンビそのままの動きだ。

 楊達が対応する死人達は正にその状態の物ばかり。


 俺達が向かう場所もそんなゾンビだろうが、ひとつだけ経験者じゃないと困る点があるからと、俺と髙だけが向かうのだ。


「さぁ、水野に佐藤。僕と山口は事務所に行くよ。君達はここにいて僕達が外に出した死人を倒して拘束して頂戴。」


「あたしらも一緒に行きますよ。」


「事務所は狭いから君達は今回はそこで死人退治だけね。こういうのはレベルを上げながら進めて行くの。君達はまだ生者と死人の区別はつかないでしょ。」


 佐藤とむくれている水野を残して、俺達は事務所に走った。

 俺は走りながら、被害者の悲鳴が入ってこないようにと、頭の中にプラスチックのような膜を貼った。

 これで霊的な感覚が遮断され、俺の感覚は普通の人間と変わらない。

 こんなことが出来るようになったのは玄人のお陰ではなく、先日俺と玄人を襲った魔人のお陰であるのが納得できないが。


 俺達はすぐに事務所に辿り着いたが、目の前の事務所の扉は閉ざされており、内鍵もかかっていた。

 この程度の鍵ならば金属の棒さえあれば簡単に開けられる。

 そこで俺は持ち歩いている二本の金属棒をシリンダーに差し込んで、サムターンをくるっと回したのである。


「どうして彼らは鍵を掛けてもバリケードまで考え付かないのでしょうね。」

「外開きドアの内側でバリケード?」

「足止めにはなるでしょう。」

「じゃあ、僕達は作ろう。外には知りたがりの新兵がいる。」


 事務所は宴会場。

 人質が拷問されて殺されて食われた、最初で最後の殺人現場そのものだ。

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