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百目鬼によるお仕置き!

 百目鬼が地獄耳なのか、楊がお喋りなのか。

 楊に百目鬼の愛車の秘密基地を教えた翌日に、百目鬼は早速俺へ呼び出し状を送ってきた。


「明日の午後三時半に、第一病院脇のお前の大好きな公園にて待つ。」


 好きじゃないよ、あんな気味の悪い公園。

 相模原第一病院の脇にある小さな公園は、遊具もあり花壇も整備されて新しくて綺麗なのだが、子供どころか大人までもが一切遊びに来ない所なのだ。


 当たり前だろう。

 パステルカラーの色とりどりの動物やキノコのオブジェに、なぜか黒い斑点が浮かんでいるのだ。

 動植物に黒の水玉模様が描かれると、不気味で変な病気も連想してしまうものになるとは思わなかった。

 誰も訪れないから誰も巻き込まないだろうと、俺が昔の仕事上の相手に狙われていた時に使っていただけだ。


 待つとメールに書いてあったとおり、公園には青灰色のツナギを着た百目鬼が一人で佇んでいた。

 俺を潰すにはその格好の方が良いか。

 僧衣を血で汚したくはないだろう。


「来たか。誰にも気づかれなかっただろうな。特に、あの、お前の親父にはね。」


 勿論髙には内緒だ。

 俺が彼を逆に潰す可能性だって高いだろう。

 俺はクロトには見せない顔で百目鬼に対峙して、彼に軽く頷いてみせた。

 百目鬼はとても嬉しそうな悪魔の微笑みを作り、俺の顔に口元を寄せた。


「場所を変えよう。」


 俺の耳に囁いてきた声は、これから俺を潰す目的の人間が出すには甘く、俺は背筋にぞぞっと何かが走った。

 悪寒だったら良かったと思ったように、自分の背筋を走ったものが悪寒以外の別のものだった事が悔しい。


「お前はここら辺で、俺とお前が入っても怪しまれず、人の口に上らない宿か何かを知っているか?」


 え?


「早くしろよ。クロを松野の所に置いてきぼりだ。知っているのか?お前の行動如何で、次のお前の休みに半日クロを好きにさせてやるぞ。」


 え?


 俺は人目につかない宿で彼にいたぶられる可能性が高いと思いながらも、玄人を好きにできる半日のために自分を売る事にした。

 生きて帰れますように、と望みながら、背骨を響かせて腰の辺りをジンジンさせる凶悪ないい声で笑う悪魔を、俺は内緒の宿に案内してしまったのである。


 馬鹿なだけの俺だが、一応手は打ってある。

 俺は一人で参上はしたが、敢えて署のパトロールカーに乗せてもらってこの公園近くまで来たのだ。

 彼に殺されても公園までの俺の足取りを髙が追えば、あの公園を百目鬼と使う事が大好きな髙が、きっと何か気づくに違いない。


 白のオンボロトラックが公園前から移動する様は目立っただろう、多分。


「すげぇな。普通の古い下宿屋かと思ったら連れ込み宿だったのか。クロにお前が教えたあの一見学生寮風マンションも驚いたが、本当にこんな所を簡単に案内できるとはな。お前、本気でどすけべぇだな。」


 人を脅して無理矢理案内させた男に、「どすけべぇ」と楽しそうに罵られる自分てなんだろう。


「外観と違って中は新しいんだな。」


 昔は下宿屋として使われたような外観で、実は新しい建物だ。

 経営が苦しくて宿泊所にしているのではなくて、最初から宿泊所が目的だ。

 アパートとして申請ならば、宿泊所に必要な営業許可証などなしで荒稼ぎができる。

 モチロン、営業は完全に違法なので本来ならば見つければお縄だ。


「仕事柄ですよ。見つけても重篤な犯罪行為が行われていなければ大体の事には目を瞑ります。潰しても次から次へとこういう店は開かれますから、監視しやすい優良な所は見逃していた方が管理し易いですからね。」


「お前も使えるしな。」

「礼代わりの裏の情報を貰えるからですよ!」


 安っぽいベッドや狭い部屋ながらシャワー室も完備してあり、昭和風味の室内装飾に百目鬼は子供のように喜んでいる。

 まさか自分も経営しようと考えている?

 一応これは違法行為だから!

 百目鬼が抱いたらしい違法商売の夢を消すためにはどうするべきか、と考えていたら、百目鬼はプチンとテレビをつけた。


「小銭入れてアダルトビデオなんて、今時残っていたんだ。」


 凄く、嬉しそうだ。

 まるで秘密基地に招待された小学生だ。

 テレビからはアンアンと悩ましい嬌声が流れ、案内した俺はどんどんいたたまれなくなっている。

 そうか。

 これは百目鬼の仕返し、罰だ。

 俺が玄人の唇を貪っていたことへの百目鬼流の嫌がらせなのだ。


 百目鬼に暴力を受けるどころか、あるいは俺が一番恐れている一生玄人への接近を禁止を言い渡される事もなさそうなこの事態に、俺は気が緩んだ。

 ホッとしたのだ、このくらいならと。


 受けよう。

 このくらいの嫌がらせなら粛々と受け続けよう。


 プツンとテレビが消された。

 室内は無音となった。

 たった数秒間の無音に耐えられずに視線を動かすと、百目鬼がベッドに座って俺を見つめていたのである。

 じっと、あの美しい瞳を煌めかせて。


 じんっと俺の何処かが百目鬼の視線によって震えた感覚を覚えた。

 俺を脅えさせたのが、百目鬼なのか、自分自身によるものなのか。

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