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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
一 君を幸せにするのが自分の役割
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友人は助け合うもの

 僕は囚われのお姫様?になってしまった。

 つまり、外界との連絡手段を取り上げられての外出禁止の監視対象になってしまったのだ。


 絶対的支配者である父親によって。


 それはなぜか。


 簡単なよくある話だ。

 深夜フラフラと恋人と出歩き、恋人との口づけに夢中になっていたまさにその所を見つかったのである。


 それも、公道で。


 僕を迎えに車を走らせていた父親は、沿道に座り込んでラブシーンを演じている子供を発見するや有無を言わさず車に放り込み、罰として子供に外出禁止を命じたとそういうわけだ。


 父親に外出禁止の罰を与えられた僕は二十一歳の成人男性だったXXYで、死に掛けた大怪我によりその余分なXが暴走して上半身が女性化した自分でも良くわからない生き物である。


 そんな僕の名前は百目鬼とどめき玄人くろと


 実は体だけでなく苗字も変わっている。

 以前の姓は武本。

 僕は青森を本拠地にする武本物産の御曹司にて当主でもある。


 そして、恐ろしい父親の名は百目鬼とどめき良純りょうじゅん


 債権付競売物件専門の不動産業者であり、禅宗の僧侶だ。

 先日までは自分の次に僕を第一に大事にしてくれていた人だったが、公道ラブシーン事件以来、僕は彼にとって第二か第三、否、もっともっと下に成り下がったらしい。

 つまり、僕に話しかけてもくれなくなった。

 彼が僕に与えた罰よりも、僕はその事が一番辛い。


「ねぇ、その山口さんのアドレスは覚えている?無理だったら電話番号。Cメールしてあげる。それとも掛けて見る?」


 僕は幼馴染の顔を見つめ返した。

 兄妹を失った数々の不幸と最近の幸福のために、両親と相模原市から横浜市に引っ越したばかりの早川はやかわもえは、百五十ニセンチの小柄ながら手足も長いバランスの良い体型に、とても可愛らしい顔を乗せた美人である。


 目は大きすぎないが形良くパッチリとして、その目と美しい額を際立たせるためか、前髪をポンパドールにしている。

 黒髪は肘くらいまでの長さのあるロングだが、全く重さを感じさせないどころかさらさらと流れて涼やかでもあるのだ。


 彼女は来週の十月二十七日の日曜日に結婚式を挙げる。

 僕は彼女の親友として、彼女の式を守り立てるために最後の打ち合わせをしているとそういうわけだ。


「早く決めて、クロ君。お父さんが来ちゃうわよ。」


 来るも何も、良純和尚はドアの向こうだ。

 早川がウェディングドレスを見せたいと僕をフィッティングルームに引き込んで、彼から僕を引き離してくれたのだ。

 この世にはスマートフォンがなくても手紙という連絡手段がある。


「声が聴きたいから電話したい。」


 彼女はニコッと笑って、僕に自分のスマートフォンを渡してくれた。

 あぁ、どきどきする。

 殆んど五日ぶりだと、僕は恋人の番号を押して、すぐさま耳に当てた。

 そんな僕の様子に萌は大はしゃぎだ。


「はい。どちら様?」


 低くて優しい軽い声がする。

 彼の声を耳に受けて、僕は耳元で鳥が羽ばたいている様な錯覚をした。


 僕の恋人の名は山口淳平。

 二十八歳の刑事だ。


 彼は猫の様な瞳を持つ線の細い王子様のような外見の美男子だが、元公安の習性か、その雅な外見をその他大勢に埋没させてしまう特技を持った不思議な人だ。

 彼の左手の人差し指には、僕が贈ったホピ族の太陽の意匠の指輪が鈍く輝く。

 彼からの贈り物である羽根の意匠のイヤーカーフを僕が絶対に外さないように、彼もその指輪を決して外さないのだ。


「淳平君、僕。」


「クロト!大丈夫?手紙は貰ったけど、元気?」


「元気。淳平君は?怪我はもう痛くない?」


 彼は一週間前に被疑者に殴られて、顔面を大怪我をしているのだ。


「君が――。」


 僕の手からすっとスマートフォンが消え、通話を切られ履歴を消されて持ち主の手に返された。

 その一連の動作をした男は、高い頬骨と切れ長の奥二重の目を持ち、貴族的で端整な顔立ちの一八〇を超える身長の長身痩躯の美僧である。

 百六十センチの僕を見下すその瞳は色素が薄く、今は怒りによるものか金色にキラキラと煌めいている。

 そして、左手の中指に嵌るアレキサンドライトまでも赤に緑に怪しく輝かせていた。


 その指輪は、彼への遅れた誕生日祝いとして僕が彼に贈った物だ。

 彼は三十一歳の若かりし僕の父親なのだ。

 良純和尚からスマートフォンを返された萌は、彼の威圧感にフハハハと乙女らしからぬ声を上げてから、がしっと僕の二の腕をつかんだ。


「後は式の進行の最終確認ね。サロンに戻りましょう。」


 フィッティングルームから逃げ出そうと、僕を誘導する彼女のその声も動きもロボットのようだ。

 そして誘導される僕も彼女と同じ、ヨチヨチという間抜けな動きだった筈だ。

 戸口あたりで、フフっと僕達を笑う良純和尚の声が聞こえた気もするが、彼は僕に怒っているはず?と僕は振り返った。

 だけどドアはとうに閉まっていて、僕には良純和尚の姿は見えなかった。

 笑い声を立てているという事は、本当はそんなに怒ってはいない?


「ちょっと残念だったわね。まだ機会があるから気にしないで。」


 昔から萌は機転が利いて、優柔不断な僕の代わりにバシバシと物事を決めてくれた子だ。

 女王様気質とも言うが。

 とにかく彼女は僕の親友で味方なのだ。

 そんな彼女は僕に突然両手をぱしっと打ち合わせて拝む姿になると、その姿に相応しい言葉を吐き出したのである。


「それでね、当日のクロ君の服装についてお願いがあるの。お願い。萌の一生に一度のお願いを聞いてくれる?」


 親友で味方なのだ?え?

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