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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
九 こうして鬼は里に下りて来た
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楊と旧友という名のその他大勢達

 足立晃平、本名佐藤晃平は都市伝説の少年だった。

 それを教えてくれたのが楊の旧友達だった。

 本人達は友人だったと自称していたが、当初は楊の様子を見るにつけ彼らが楊の「敵」としか思えなかった。


「かわちゃん、せっかくだからさ、三次会でもしようよ。」


 百目鬼達と別れて俺達も楊の車の所に移動した時に、五人の男性達が現れた。

 彼らは高校時代のラグビー部の仲間だと自己紹介した。

 だが、楊は俺達を彼らに紹介しなかった。


「悪いね。俺達は明日も早いからさ。」


 楊は車のキーを解除して、俺達に乗るように合図した。

 そこに少々苛立った声がかかった。


「俺達だって明日普通に仕事だって。悪かったよ、誤解していて。だからさ、久しぶりにかわちゃんと遊べたらなってね。」


 その声に続いて、別の男性も声をあげた。


「誤解していても裏切ってないだろ。かわちゃんが無視しろって鈴木をハブっていたのは事実だろ。俺達も同じ後悔背負っていたんだからさ、頼むよ。やっぱりかわちゃんがいないと何も盛り上がらなくてさ。」


 楊は静に微笑んで、車のドアを開けながら彼らに謝った。

 職場でも良く聞く、挨拶程度のごめん、だ。


「本当にごめん。また、こんどな。」


 楊が京都人の台詞だと大嫌いなのによく使う言葉だ。

 また、も、今度、も決して来やしない。


「かわちゃんなんかほっとけよ。こいつはさ、佐藤みたいな奴と友達になったから、俺達凡人とは付き合えないって事なんだからさ。」


 二次会で司会をしていた奴が近づいてきた。

 玄人があっちにこっちにとビンゴ商品を手渡している最中に、妙に玄人の体に触ったりしていた奴だ。

 楊は彼の出現に一瞬表情が悲しそうに変化したが、そのまま無言で車に乗り込みエンジンをふかした。

 だが、アクセルは踏めない。

 その男が車の前に飛び出して叫んだからだ。


「俺達はさ、かわちゃんと親友になりたかったんだよ。でもさ、お前はみんなと仲良くてみんな同じくらいに疎遠だったよな。嫌いだったらさ、嫌いだって言ってくれよ。」


 楊は大きく溜息をついてエンジンを切った。

 そして窓を開けて男達に声をあげた。


「悪いって。俺さぁ公務員て言っても刑事さんなのよ。そんで、明日の朝から右足の無いバイク少年の身元を捜さないとなの。そんな話、おめでたい席で出来ないでしょ。じゃあ、帰るからさ、そこどいて。根津、本当にどいてくれ。」


 車の前に立つ根津への声は、いつもの楊の声音ではなかった。

 楊が再びエンジンをかけようとすると、団体の一人から声がかかった。


「わかったよ。そんな嘘をついてまで俺達と切れたいんだろ。いいよ、もう。ほら、根津!どいてやれよ。お偉い刑事さんに都市伝説ライダーの捜査に当たらせてやれよ。」


 楊は完全にエンジンを切って、車外に飛び出た。


「ちょっと、今林!その都市伝説教えて!マジ捜査が行き詰っているからさ。都市伝説に見立てた殺しってのもあるだろ?」


 男達はざわめき楊の方に寄って来た。


「本気で捜査してたの?」

「ごめん。俺達の事完全に切る為の嘘だと思った。」


 三十代の男達と思えない情けなさだ。

 けれども、相模原東署から楊が移動することになったら、署の連中は同じようになるかもしれない。

 楊を責め立ててしまうだろう。


 今までの彼はみんなを同じように大事にするが、彼にとっての特別を絶対に作らなかったのだ。

 だからこそ、本当は好いてくれてはいなかったのだろうと、好いた分だけ彼を憎むのかもしれない。

 彼は本当にみんなが同じだけ好きなだけなのに。

 しかし、こうして彼の車に乗せられ一緒に住んでいる俺達は、彼にとっては特別かと、頬が自然に緩んだ。


「佐藤佐藤ってあの人達騒いでいるけどさ、百目鬼さんのことだよね。確か、父親が参議院議員の佐藤弘毅って言ってたよね。実家からこっちに出された時に養子にされたんじゃなかったの?」


 隣に座る葉山が俺に確認してきた。

 個人情報であろうが、ちょっと調べれば判る事なので葉山に教えることにした。

 彼が公安に目を付けられていた時代、俺も自分なりに彼を調べていたのである。

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