楊と旧友という名のその他大勢達
足立晃平、本名佐藤晃平は都市伝説の少年だった。
それを教えてくれたのが楊の旧友達だった。
本人達は友人だったと自称していたが、当初は楊の様子を見るにつけ彼らが楊の「敵」としか思えなかった。
「かわちゃん、せっかくだからさ、三次会でもしようよ。」
百目鬼達と別れて俺達も楊の車の所に移動した時に、五人の男性達が現れた。
彼らは高校時代のラグビー部の仲間だと自己紹介した。
だが、楊は俺達を彼らに紹介しなかった。
「悪いね。俺達は明日も早いからさ。」
楊は車のキーを解除して、俺達に乗るように合図した。
そこに少々苛立った声がかかった。
「俺達だって明日普通に仕事だって。悪かったよ、誤解していて。だからさ、久しぶりにかわちゃんと遊べたらなってね。」
その声に続いて、別の男性も声をあげた。
「誤解していても裏切ってないだろ。かわちゃんが無視しろって鈴木をハブっていたのは事実だろ。俺達も同じ後悔背負っていたんだからさ、頼むよ。やっぱりかわちゃんがいないと何も盛り上がらなくてさ。」
楊は静に微笑んで、車のドアを開けながら彼らに謝った。
職場でも良く聞く、挨拶程度のごめん、だ。
「本当にごめん。また、こんどな。」
楊が京都人の台詞だと大嫌いなのによく使う言葉だ。
また、も、今度、も決して来やしない。
「かわちゃんなんかほっとけよ。こいつはさ、佐藤みたいな奴と友達になったから、俺達凡人とは付き合えないって事なんだからさ。」
二次会で司会をしていた奴が近づいてきた。
玄人があっちにこっちにとビンゴ商品を手渡している最中に、妙に玄人の体に触ったりしていた奴だ。
楊は彼の出現に一瞬表情が悲しそうに変化したが、そのまま無言で車に乗り込みエンジンをふかした。
だが、アクセルは踏めない。
その男が車の前に飛び出して叫んだからだ。
「俺達はさ、かわちゃんと親友になりたかったんだよ。でもさ、お前はみんなと仲良くてみんな同じくらいに疎遠だったよな。嫌いだったらさ、嫌いだって言ってくれよ。」
楊は大きく溜息をついてエンジンを切った。
そして窓を開けて男達に声をあげた。
「悪いって。俺さぁ公務員て言っても刑事さんなのよ。そんで、明日の朝から右足の無いバイク少年の身元を捜さないとなの。そんな話、おめでたい席で出来ないでしょ。じゃあ、帰るからさ、そこどいて。根津、本当にどいてくれ。」
車の前に立つ根津への声は、いつもの楊の声音ではなかった。
楊が再びエンジンをかけようとすると、団体の一人から声がかかった。
「わかったよ。そんな嘘をついてまで俺達と切れたいんだろ。いいよ、もう。ほら、根津!どいてやれよ。お偉い刑事さんに都市伝説ライダーの捜査に当たらせてやれよ。」
楊は完全にエンジンを切って、車外に飛び出た。
「ちょっと、今林!その都市伝説教えて!マジ捜査が行き詰っているからさ。都市伝説に見立てた殺しってのもあるだろ?」
男達はざわめき楊の方に寄って来た。
「本気で捜査してたの?」
「ごめん。俺達の事完全に切る為の嘘だと思った。」
三十代の男達と思えない情けなさだ。
けれども、相模原東署から楊が移動することになったら、署の連中は同じようになるかもしれない。
楊を責め立ててしまうだろう。
今までの彼はみんなを同じように大事にするが、彼にとっての特別を絶対に作らなかったのだ。
だからこそ、本当は好いてくれてはいなかったのだろうと、好いた分だけ彼を憎むのかもしれない。
彼は本当にみんなが同じだけ好きなだけなのに。
しかし、こうして彼の車に乗せられ一緒に住んでいる俺達は、彼にとっては特別かと、頬が自然に緩んだ。
「佐藤佐藤ってあの人達騒いでいるけどさ、百目鬼さんのことだよね。確か、父親が参議院議員の佐藤弘毅って言ってたよね。実家からこっちに出された時に養子にされたんじゃなかったの?」
隣に座る葉山が俺に確認してきた。
個人情報であろうが、ちょっと調べれば判る事なので葉山に教えることにした。
彼が公安に目を付けられていた時代、俺も自分なりに彼を調べていたのである。




