僕は頑張りました、のせいだろ?
「そのドレスはどうしたの?素敵よね。」
リーダーの黒ドレス1が雰囲気を変えようと別の質問をしてくれた。
「良純さんが用意してくれました!このドレスのためにダイエットもしたのですよ。でも、今夜は頑張ったご褒美を沢山用意してあるそうなんです。頑張った甲斐です!」
玄人は、ほら、こんなに仲良しだよと自慢そうに胸を張ったが、楊が玄人にかけた声はがっかりというものでは無かった。
「そんなこと言ったんだ。」
玄人の回想に楊はガッカリと頭を垂れている。
そりゃ、妬まれて苛められるね。
俺は釣る時に餌もやらなければ釣った後に餌をやるわけは無い男だったからだ。
「駄目じゃん。」
「どうしてですか!」
大きく溜息をつく楊に本気で意味がわからないようで、玄人は目を丸くして楊の腕を掴んで、ねぇねぇ、と楊に教えを乞うている。
口を割らない楊に玄人はむくれて、珍しくえらそうに断言した。
「説明できないなら、やはり僕は駄目じゃなかったです。」
「本当にそう思う?」
聞き返したのは葉山だ。
玄人を否定しないはずの葉山の台詞に、玄人は不安が押し寄せたかようやく眉根を寄せた顔つきとなった。
そして、絶対否定しない「淳平君」へ視線を動かして、山口が見るからに残念そうな顔をしている事に気づいて、物凄く不安そうに慄いたのである。
「だって、言った後に高校時代の良純さんの秘密をって、彼女達がにこやかに僕に教えてくれましたよ。」
おどおどと玄人は言い出した。
「秘密って何?」
玄人にガッカリしていた楊が、ひょいと顔を上げて期待に目を輝かした。
なんだ?
「あのですね!」
玄人が「ご褒美」を語ると、五人の中でちょっと意地悪だった黒ドレス3が玄人に対してにっこりと大きな笑みを見せ、そして、彼女は高校時代の内緒を語り出したのである。
「あなたは知らないでしょうけど、佐藤君、百目鬼さんはね、高校時代には六ダース分位の数の女子と付き合っていたの。だから、女性を喜ばすことに関してはどんな男性よりも詳しいのかもね。」
女性達はクスクスと哄笑し始め、黒ドレス3に黒ドレス5が相槌と情報の追加を入れた。
「そうそう。二人一時に相手したとか、二股三股は当たり前とか。彼は凄くモテていたからでしょうけど、ちょっと信じられないわよねぇ。」
葉山は玄人の言葉を聞いて、「二人一時って3P?」と呟き、「二股三股は当たり前?え?」と楊は呆然とした顔で俺を見返して来た。
玄人の語った女達の台詞に、どうして葉山と楊はこんなにも大いなる反応をしてしまうのであろう。
「馬鹿が。ただヤってただけなんだから付き合ってたわけじゃないだろ。恋人でもないのだから、二股になる前提条件がまず無いだろうが。盛ってただけだよ。お互いにね。」
「お前、否定どころかもっと最低な言い分を語るなよ。同期の彼女達に、なんか申し訳ないとかないのかよ。相手はお前に恋心ありありかもしれなかっただろ。」
楊は小五月蠅く怒り出し、葉山に振り返った。
「お前も何かこいつに言ってやれよ。」
「二人一時って、どうやって誘ったのですか?」
葉山が楊に頭を叩かれた。
「この馬鹿!――で、どうやったんだよ。」
楊は凄く目がらんらんと輝いていた。
今日一日で楊は今が一番生き生きているのではないだろうか。
「説明するほどの事じゃないよ。クラスの女二人と鈴木の四人で遊んでいたらさ、ホテル前で鈴木が帰っちゃってね。残された子がポツンとしてたからさ、一緒にする?って。普通だろ。可哀相だろ、彼女一人置いてきぼりって。」
「普通じゃねぇよ。帰れよ、お前。そういう時は鈴木と一緒に帰れよ。」
「俺はどうして百目鬼さんと一緒の高校じゃなかったんだ。先輩って慕いたかったよ。」
楊に再び叩かれた葉山が高校違いを嘆いているが、あまり嬉しくはない。
「ほら、もういいだろ。俺はそろそろ帰りたいんだがね。」
部下とじゃれている楊に告げると、楊は指を一本立てた。
「後一つ。確認。」
「なんだ?確認って。」
「ちび。お前は百目鬼の馬鹿話を彼女達から聞いてなんて答えた?」
玄人は、普通ですよ、とサラッと答えた。
「だから苛めじゃないですって。」
「だからさ、何て?」
玄人は面倒臭いなぁ、という顔付きで、きっとその時と同じように答えた。
「だから良純さんはキスが上手なんですねって。俺がすると皆がへろへろになるって言っていたことがありましたって。」
すかさず楊と葉山に玄人は頭を叩かれた。
それで「ひどいです!」と叫んで玄人は壊れたのだ。
山口か?山口は不安そうな顔付きで遠巻きに見ているだけだ。
何せ、最愛の玄人に尋ねられては困るからな。
「キスのお上手な淳平君は、一体何人くらいの男の人とやったの?」
ハハ、お笑いだぜ。今度玄人の目の前で俺が聞いてやろう。




