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僕は頑張りました!

「僕は、朝ご飯に小さなお握りだけで、今日一日何も食べれなかった。そんなに頑張ったのに、それなのに、それなのに苛められた。」


 二次会終了時に、玄人は完全に壊れた。


 それにはこんな経緯がある。


 親友のために披露宴会場を駆け巡り、非常識親父達の相手をして、非常識親父がカラオケ会場にした場までも何とか修正してお色直しから戻った親友を主役のお姫様に盛りたて、二次会では受付嬢をさせられてから裏方仕事もさせられた。


「下準備は私達がしたのだから、後の仕事はお願いね。」


 二次会会場では、高校時代の根津の仲間の女性達が、嫌がらせのような仕事の振り分けを玄人にしたのだ。

 だが玄人は親友のためににこやかに対応し、そして、そのために二次会でも何も食べられない身の上だった。


 玄人目当てに二次会に参加していた葉山と山口が見かねて時々差し入れを玄人に渡そうとするが、それが凄い勢いで女性陣に横から奪い取られる場面を見て、俺はこれが確実に虐めなのだと理解した。

 そしてそんな俺に気づいたか、俺が玄人に近付くその度に、俺から遠ざけるように次々と玄人の場所を移動させられるのである。


「何ですか。俺、こんな性格悪い女だらけの合コン初めてですよ。」


 合コンじゃなくて結婚式の二次会だ、葉山。

 だが彼の言うとおりだと、玄人の幼気な姿を目で追った。


「どうして良純さんがあんな状態を放っておいているのですか?」


 山口は俺に怒りを向けた。

 本当にどうしてだろうな。

 玄人が虐めの中でも笑って頑張っているからだろうか。

 親友のために。

 俺はそんな玄人の姿を珍しく賞賛さえもしているのだ。


「どうしようかね。」


 俺の呟きに答えるようにして口を挟んだのは、俺の友人では無い鯰江だった。


「たぶん百目鬼君に振られた腹いせだよ。おまけに男性陣が皆して玄人君に夢中でしょ。お陰で萌が苛められなくて良かったけど、萌が玄人君の身の上に怒っちゃってさ。クロ君と今すぐ帰るって、宥めるのが大変だよ。」


 葉山と山口が俺を呆れた目で注目してきた。

 だが、俺には全くの覚えがない。


「勘違いじゃないか?俺は確かに高校時代は同期を色々喰ったけどよ、ここにいる奴らは一人も覚えがないんだよ。」


 鯰江は「酷い」と俺を非難し、葉山は「色々喰ったんだ」と呟いた。

 山口は俺に失望したのか何も呟かなかったが、玄人の姿を目にした為の脊髄反射行動を起こしていた。

 再び紙皿に食べ物を乗せて玄人の方へ走っていってしまったのだ。

 しかしながら、今回も鉄壁の意地悪ガードによって玉砕していた。


「お前が彼女達に鼻もかけなかったから、今チビが苛められてんじゃん。」


 楊がいた。

 彼は旧友に囲まれて、作り笑いをしていたはずだった。

 ここに来ていいのか?


「えぇ、日比野も小林も、馬場も、全員百目鬼と付き合っていたって言ってたよ。」


 楊の台詞に鯰江は驚きながら抗議すると、楊ははすっぱな物言いで言い返した。


「こいつは来る者手当たり次第でハデだったからよ、こいつに相手されてないって事自体がランク下の奴扱いになったらしいよ。それでの嘘でしょ。こいつにやり捨てられたと思われていたほうが良いって、女って良くわからないね。」


 鯰江が自分の大事な新婦が苛められないように新郎新婦席に戻った後も、俺達はああだこうだと女達の行動の理由を討論していた。

 主に俺が責められていただけだが。


 だが鯰江夫婦を会場から送り出して会がお開きになると、その理由が玄人によってもたらされたのである。


「仲良くなったから頼られただけですよ。」


 楊はヘロヘロになっている玄人の両腕を支える様に掴み、哀れみの目で見ながらも聞き直した。


「お前は頼られていたの?」

「仲良かったの?あれ。」


 サークルの王者だったらしき葉山は、俺には全部わかっているんだよ、という風にして、ずいっと玄人の前に出て問いかけた。

 すると、玄人は天真爛漫な顔でてへっと笑った。


「二次会始まる前に準備しながら色々お喋りしたんですよ。気さくな方達で。」


 それはこんな会話だったという。


「佐藤君、今は百目鬼さんか。彼のあの凄い指輪はあなたが贈ったのですってね。彼からはあなたへ何が贈られたの?」


「このダイヤですね。」


 質問してきた黒ドレス2に玄人は答えた。

 女性陣が皆黒ドレスなのはなぜだろうかと、玄人は不思議に思っていた。

 仲良しだからお揃い?

 そんな玄人に黒ドレス軍団は一斉に首のネックレスを覗き込んで、各々がそのダイヤについて称賛の声を上げてきた。


「凄い。」

「でかい。」


 は、何度も連発して興奮していたらしい。

 ハハハ、一カラットあるもんな、それは!


 そして、興奮が納まるや、黒ドレス1が少し皮肉そうな声を出した。


「逆玉になったのなら、このくらいはねぇ。」


「普通に良純さんは実業家ですよ。物凄いお金持ちです。やり手です。」


 玄人は百目鬼おれが「ヒモ」と思われるのは本意じゃないと訂正すると、黒ドレス3も4も5も「確かに彼はやり手だったわよね」と納得してくれた。


 だが、彼女達は少しどころかかなり寂しそうで、なぜ?と玄人が首を傾げたほどだという。

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