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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
六 披露宴は過去と未来を繋げる
20/70

友人を失っていた男

「ごめん。話が飛びすぎたのかよくわからない。俺は何か聞き流した?大体、鈴木は末期ガンでホームで倒れて亡くなっただけだよ。高いホームだったから、落ちて死んだのか死んで落ちたのか未だに解らないけどね。」


 ああ、お前が言う通り、あいつが故意に落ちたのか病気で落ちたのかも解らないけどね、それは俺が原因でしかないんだよ?

 鯰江は目を大きく開いて、それから、俺に謝ってきた。


「ごめん!ああ、ごめん。辛い事を思い出させて、あの、本当にごめん。」


「いいよ。昔の事だしね。それで、それがどうして楊のせいになるんだ?」


 ようやく鯰江から聞き出してみれば、本当に馬鹿な話だ。

 鈴木の死に方に「自殺」と思い違いした根津が、自分の責任回避に「楊が男連中に鈴木を無視させたからだ。」と噂を回したのだ。


 それで誰も鈴木の通夜にも葬式にも来なかったのか。


 楊がやった仕業だから楊の仲間の自分達は行けない。

 そんな風に彼らは思ったのだそうだ。

 楊が鈴木の死を自分に責任があると悩んでいる意味が解らなかったが、ようやく合点が行った。

 周りが信じた真実らしきものを擦り付けられ、多勢がそう考えるならば自分の責任であろうと思い込んでいる馬鹿者だったという事だ。


 本当に呆れる馬鹿だ。

 鈴木の死は、全くあいつのせいじゃないだろうがよ、馬鹿が。

 いや、俺こそ全部をあいつに語ってはいないか?

 あいつを俺に縛り付けておくために。


「お前は楊を切らなかったのかよ。」


「俺は浪人しててさ、高校の奴らとは一年疎遠だったからね。ごめん。俺は鈴木君が亡くなった事もその時に知らなかったの。それで合格した夏に久々に高校の連中と集まったらその話でね。かわちゃんが誰にも連絡しなくなったし顔も出さなくなったって聞いて。俺が進路を変えないでね、浪人したけど第一目標に行けたのはかわちゃんのお陰だからさ、礼だけでもって会いに行ってね。」


 そこで鯰江は再び黙り込み、そして再び口を開いた。

 思いつめた表情という、初めて人に語る内緒話だという風に。


「かわちゃん、大怪我していただろ。」


「そうなのか?」


 鯰江はそこで息を大きく吸い、再び大きく息を吐いた。

 俺の返答に溜息を吐いたわけではなく、楊の秘密を話す覚悟を決めようとしているのだろうと俺は黙って鯰江を見つめていた。

 彼は俺が考えたとおりだったらしく、ごくんと唾を飲み込むと、再び俺を真っ直ぐに見つめて自分の中の楊の秘密を語り出した。


「俺が会いに行ったらボロボロでさ。崖下に車ごと落ちて大破したって笑っていた。それでも、誰にも言うなって。誰にも見舞いにも来て欲しくないってね。」


 それでも彼がこうして楊と切れていないのは、彼が楊を呼ばれてもいないのに押しかけ見舞い続けたからだろう事は想像に難くない。

 それは俺が俊明和尚を亡くしてから、楊が呼んでもいないのに押しかけ勝手に泊まって行ったり、自分の実家の家業の面倒を俺に押し付けたりした事があったからだ。

 いや、家業の面倒は生前からか。

 とにかく、きっと鯰江は俺が楊に受けた事と同じ事を彼にしたのだろう。


「で、根津を潰せばいいのか。」


「あの、僕の話、……聞いていました?」


 鯰江はしばし固まり、それからがっかりした様子になった。


「……ああ君は変わっていなかったんだね。」


「悪いかよ。」


「いや、あの、あのさ。かわちゃんと根津の緊張が高まらないようにしてくれればいいから。」


面倒臭くせえな。やり合わせた方が面倒ないんじゃ無いのか?」


「い、いや、あの、かわちゃんに会いたいって、純粋に願っている連中に引き合わせたいからさ。頼むよ。かわちゃんを二次会に連れて来て欲しいんだ。」


「参加者名簿にはあいつの名前があっただろ。」


「……あれ、俺が勝手に入れておいたの。」


「そうか。」


 それで、俺は鯰江に解放されたが、いまやこの状態だ。

 楊はお客様社会人スマイルを貼り付け、披露宴の友人席に座っている。

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