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愛すればこそ、愛する者の死肉だって喰らえるはずだ(馬12)  作者: 蔵前
六 披露宴は過去と未来を繋げる
19/70

鯰江からのお願い

 鯰江の二次会を計画したのは、高校時代のラグビー部の副主将であった根津ねづ(いさお)夫妻だった。

 妻の根津琴子ねづことこは俺と付き合っていた事があるという。

 彼女は旧姓が日比野だそうだ。

 俺は全く覚えていないが、鯰江は俺が全く覚えていないことに呆れ顔だ。


 はて?

 俺が覚えていないのは、身に覚えがない、の方なのだが、それを言ったところさらに鯰江に呆れられたとは、本当に意味が分からない。

 まぁそれはいいのだが、そんなことよりも不可解な頼み事を、知人であっても俺の旧友でもない人間が言ってきたのである。


「俺に騒ぎを起こすなと釘を刺すのならば解るけれど、俺が楊と根津がやり合わないように気をつけろってどういうことだ?あいつら仲良しだったんじゃないのかよ。主将と副将だっただろ?」


 式前の控え室でのひと時。

 玄人が早川の控え室で乙女話に花を咲かせている間に、鯰江が俺を彼の控え室に引き込んで、頼みがある、と言い出しての俺の返答だ。

 俺と同じくらいの身長に俺よりもある横幅ながらも猫背で大きく見えない男は、俺に促されるとぼそぼそと俺には秘密だったらしき事を語り出した。


「かわちゃんはさ、一度俺達と切れたんだよ。」

「そうなのか?」


 あのいつも友人達に囲まれていた楊が、友人達を切って切られたと?

 誰も切り捨てる事が出来ないあの楊が、あの高校時代の友人を切った?

 俺が信じられないという顔をしているのに気づいたからだろう。

 鯰江は言い難そうに理由を話し始めた。


「君の親友のさ、鈴木君を根津が中心で揶揄っていただろ。かわちゃんはそれを止めさせる為に放っておけって彼らに言っていたのだけどね、奴ら聞かなかったでしょ。」


 俺と鈴木の友情のきっかけは、苛められていた鈴木を見つけた俺が、馬鹿が潰せる、と近づいて暴れたことによる。

 鈴木はそんな俺を怖がるどころか、玄人と同じに俺を庇護者として纏わりつくようになったと思い出した。

 ハハ、鈴木と俺はどちらも似た者、ロクデナシじゃねぇか。


「佐藤、いつもありがとう。ごめんね。」


 玄人と違い、鈴木は謙虚で毎回ちゃんとお礼を言っていた、ことも思い出した。

 本当のロクデナシは玄人と俺か。

 まぁ優しい俺は鈴木を笑わせる言葉をかけていた事もあるか。


「いいんだよ、鈴木。完全なる正義の暴力っていいよね。思いっきりやれてさ。」


 鈴木は笑ったが、ここも玄人とは違うだろう。

 玄人はこの台詞を聞けば、これが俺の冗談でなく本心だと確実に理解して、絶対にこんなセリフで俺を制止するな。


「思いっきりはやめましょう。犯罪者になります。」


 思いっきりじゃ無ければいいのかよ、とも思うが、玄人が俺を諫める理由が俺が彼の為に犯罪者になるのが申し訳が無いからではなく、俺が牢にでもぶち込まれたら自分を守るものがいなくなるという心配だけだ。

 やっぱり、俺よりも玄人の方がロクデナシだな、うん。

 その点、鈴木は本気で俺を心配していたと、鈴木との懐かしいやりとりや、自分の完全なる勝ち星の色々を思い出していたら、忘れていた鯰江が沼の底の鯰みたいにもごもごと口ごもっていた。


「で?」


 どうでもいいが俺は優しいので促してみた。

 俺に恐縮して縮こまっている鯰江は俺を上目遣いでちらちら見て、それから大きく溜息をついた。

 早く言えよ。

 俺は俊明和尚に叱られていたぐらいに、玄人よりも堪え性がない時がある。

 俺の苛立ちを感じたか鯰江は重たい口を開いた。


「鈴木君を自殺に追い込んだのは、かわちゃんだって噂が広まったんだよ。」


 はて?

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