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事件は再び最初の題目に戻る

「それで、白石由香の経歴を探ったら、確かに彼女には子供が三人いました、か。嫌だね。どうして最初にお化け屋敷の歴史くらい調べないかね。」


 俺達の報告を聞いた楊は、嫌だ嫌だと年寄臭い素振りで首を振った。

 彼は弱者を助けられない話が大嫌いだ。


「誰も住んだ記録が無いからですよ。佐藤晃平の家族もそこに住んでいた記録はありませんでした。三十年前くらいに空き家になってから、誰も住んでいない家なのですよ。」


 俺の説明に楊は目を丸くした。


「皆勝手に住み着いていたと?」


「佐藤家は判りませんが、白石は記録上引越しをしていなかったです。」

「何?それ。」


 俺の代わりに葉山が楊に説明を始めた。


「DVですよ。白石の前住所の近所の人の話ですと、DVだそうです。」


「DV夫から逃げて子供を殺されて、子供が死人化したから狂った?いや、でも最初は父子家庭だから、DV旦那に子供を誘拐されていた?」


 葉山は大きく溜息をついた。

 俺も楊の仮定した話の方が良かった。


「DVは由香のほうです。彼女の叫び声や物を壊す音、外でも子供達を殴りつけたりは良くあったそうです。彼女の夫、白石保しらいしたもつが、暴力的な由香から子供を守るために、子供を連れて空き家に逃げていただけでした。」


 俺が言いにくそうな葉山の代わりに楊に答えたのだが、すると当り前だが、楊が父親の所在についてと聞き返してきた。

 葉山は本当に嫌そうに重い口を開いた。


「保は他県で病院にいました。自殺未遂で昨年保護された後に、身元不明のまま専門病院に入院していました。彼は追いかけてきた妻が子供を殺した、子供が生き返って噛み付く化け物になった、としか話さないそうです。」


 楊はその話を聞いて、それから葉山が楊に渡した書類の中の現在の保の姿の写真を見て、葉山が今浮かべている表情と同じ嫌そうな顔をした。

 俺達は保に事情聴取に出向いたが、元工場長が与えてくれた話程度しか情報を得られなかった。

 保は、中指から小指までの三本の指が無い右手を抱えて脅えているだけであり、もはや病院の外で自活することが不可能な精神状態だったのである。


「じゃあ、もう嫌だけど、由香本人。」


「俺を追い込まないで下さい!」


 叫んだ葉山は両手で顔を覆ってしまっている。

 楊が横目で俺を見た。


「ええっと、彼女は実家に戻っていました。全身噛み傷と裂傷の残る凄い姿でした。彼女が化け物を始末しただけだと答えましたので、一応子供殺しで緊急逮捕しました。ですが、罪には問えないでしょうね。彼女は、子供が生き返らないように細切れにしても生きていたって言っていますから。死人を知らない人が聞けば普通に精神衰弱による精神病を発症しての子殺しに落ち着くでしょう。」


「子供を殺したのと子供をバラバラにしたのは、時間どころか日にちの間があるでしょうに。大体、どうして最初に殺したんだ。生前の子供達への暴力だって。」


「由香の両親も手が早い人達でしたね。僕達の聴取している所に押し入って、僕達の目の前で由香を殴りましたから。彼女には親が子を殴る事が普通なのかもしれませんね。ですが、彼女は親からの暴力を受けないように振舞う事は覚えたのでそれが躾と思い込んだのでしょうけど、由香の子供達は遺伝疾患があったからか、由香による暴力だけを覚えてしまったようですね。以前に住んでいた町から保が子供を連れて逃げたのは、子供達が同級生を滑り台から落としたりの他害が頻発していたからでした。」


「で、子供達の遺伝疾患って?」


「無痛症だったらしいです。」


 楊はふーと大きく溜息をついて白石の子供達のファイルには完了のサインを署名し、それからせつなそうにして呟いた。


「あとは晃平君か。」


 佐藤晃平を知る者を辿り彼の写真を手に入れ、足立晃平を知る者にその写真を見せたところ、全員より「彼だ」との確認が取れたのである。

 死人であった彼は生前も一人ぼっちで、今やその右足を失ったまま、まだどこかで一人彷徨っているのだ。

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