この歳でえんがちょされるなんてね
床の大崩落。
オコジョ達はこれが危ないからと楊を転ばせ、これが有るから俺の側で、ヒヒって顔をして十数匹も並んで観賞していたに違いない。
まぁ、俺が落ちないように、床が落ちる直前に転ばせて支えてもくれたが。
彼らが喜んでいたのは、俺が虫まみれになって慌てる姿だ。
俺は落ちまいと情けなく片腕をがっしりと柱に廻してしがみ付いて、片腕で半泣きで必死に虫を払っていたのだ。
払っているどころか、虫の中に手を入れてかき混ぜているような感触に、その時の俺は半狂乱であった。
「助けて!誰か!助けて!」
しかし、絶対助けに来る筈なんて無い。
俺の魂の叫びを聞いたはずの元教官は、階下から涼しい声で人事のように混乱している俺に言い放ったのである。
「何を遊んでいるの。階段は無事なんだから、早く降りて来ればいいでしょう。」
それは事実だ。
その言葉に俺は自分を取り戻して、ぎゃあぎゃあ叫びながら階段を駆け下りて、自由な外へと飛び出したのである。
そこでも冷たい言葉が待っていたが。
「いやー呪いはなくて良かったよ。お疲れさん。」
身体中に虫が付いてしまっている俺に髙が近付くわけもなく、彼は遠巻きに儀礼的に聞こえる声で俺をねぎらってくれただけである。
その男を思わずギッと殺気をこめて睨んだが、当たり前だが完全に流された。
だが、そんな些細な事にかまっている余裕は俺には無い。
俺の背中にモゾモゾと来ているのだ、畜生。
慌てて背広を脱いでバンバン振ると、三匹の茶羽が落ちた。
ひぃいいい!
「一回全部脱いじゃいなよ。そんな虫だらけでは、誰も車に乗せてくれないよ。」
誰も乗せてくれないって、あんたの車で俺は連れて来られたんだよね?
楊の言葉に、俺を乗せて来た彼は俺を乗せる気がナッシングなんだと、俺は諦めを持って理解するしかなかった。
畜生。
「どこで脱げと。此処で全部ですか?いいですよ、パンツから何から脱ぎますよ!さあ、山口淳平の大公開だ!」
俺は切れていたのだと思う。
これから一生玄人に会えないし何も出来ないなら、みっともない男になったって良いじゃないか。
本気でシャツやらズボンやら脱ぎ捨て始めた。
だが、誰も止めてくれない。
何しろ誰も俺を見ていないのだ。
可哀相な俺。
それでも矢張り最後の一枚には抵抗があった。
そっとパンツの中を見る。
虫はいないようだ。
俺は再び一人寂しく服を着なおす。
ネクタイを締めなおして、「着ましたよ」と後ろを向いていてくれた上司に声をかけようとして、「き」だけで声が止まった。
誰も俺のストリーキングを見るわけがないのだ。
俺が床を大崩落させた後、確認のために鑑識班は中に入ったのだろう。
彼らは発見したものを運び出していました。
幽霊屋敷から発見されて、屋外に運ばれた腐ったビニール袋は、陽の下で中のものがモゾモゾと蠢いていた。
腐った液体がぐちゃぐちゃと自らをかき混ぜている。
内臓も目玉も何もかも、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、だ。
主任を除いてそれらを運び出した鑑識官達は嘔吐をし始め、髙は大きな溜息をついて、楊が片手で頭を掻いていつもの声をあげた。
「ああー!」




