流され署には掃き溜め課がある
神奈川県警には、使えない人を流してしまう島流し署が存在する。
それは、当初は山奥の派出所みたいなものだったが、人口の増加によって開発され、私大がキャンパスを移転してきたりしたことで、どんどんと署の規模も大きくなり、近隣住人には島流し署なんて思えない風体となっている。
知られたらそこで住人のパニックではないか?
そこで秘密保持のためになのか、派出所は四階建ての大きなコンクリート造りとなり、警察の全ての課も揃っているような、立派な所轄の面目を保っている。
それでもこの所轄に配属される警察官が、その後も誰も彼も心や経歴に傷を持つ、流され者という歴史は変わらない。
最近では、神奈川全域で起きた「だるい」「かったるい」事件を流してしまおうという動きもあり、そこで創設された課だってもあるのだ。
流され署に流されながらも出世を続ける、楊勝利警部が率いる特定犯罪対策課、通称特対課が、それ、である。
本来は、神奈川全域で起きたオカルティックな要件を備えた事件、および、習俗殺人と言われるもの、さらに言えば、新興宗教に関係した事件などの、特定の知識を必要とした事件を捜査する班のはずであった。
しかしながら、この課には、華々しい新興宗教との戦いに導かれそうな案件など一つも来た事がなく、本日も、お化け屋敷で行方不明となっている少年の捜索願いがとある所轄から持ち込まれたのである。
楊課長は、その事件簿を持ってきた所轄の刑事から恭しく書類を受け取り、課の前に捜査本部と言える立て看板を作り上げて立てた。
達筆な楊によって書かれたそれは、「お化け屋敷神隠し事件」であった。