デイル①
さてさて今回ですが、元の作品には無かったデイル君のお話しを書いてみました!
お仕事の合間に書いたので、色々とおかしな箇所ありかも……
とりあえずこのまま投稿したします。
「クククっ」
ピサロの領主邸の一角に、ソフィアの従者デイルの姿があった。
皆が寝静まった後、自身に用意された一室にて、デイルはピサロを訪れてから今迄の出来事を思い返している。
「いやあ、本当にこの街は楽しい方々ばかりですねえ……ククク」
備え付けられたベッドに横になり、笑いを収め「ふーっ!」と、大きく息を吐く。
「けど、やはり一番は彼ですね……」
【精霊を連れた戦士ケンヤ】ですか……
出会うまでは眉唾だと思っていた噂の数々、全て本当だったとは……
あの武力、一体どうやって? いや、そんな事よりも……
ソフィア様が変わられた! 何よりそれが驚きだ。
いつも気高く、伯爵令嬢として、またAランク冒険者として、周りからも羨望の眼差しを受けていたソフィア様があんな……
「ククク、駄目だ! 笑いが止まらない……しかし、こんなに笑ったのはいつ以来だろう……」
……とうに感情は無くしていたと思っていたのに……
まだ物心も付かぬ頃、何人かの同年代の子供達と共に王都に連れて来られた。
まあ、そこが王都だと知るにはもう少し後の事になるのだが。
当時の事はあまり良く覚えていない。
覚えているのは強烈な飢餓感と、冒険者風の男。
彼は俺に腹がはち切れんばかりの食事を与え、更にこう言ったのだ。
お前には素晴らしい才能がある!
後に知ったのだが、彼は王国に雇われている冒険者で、【鑑定眼】のスキルを持っていたらしい。
その【鑑定眼】を使い、王国内にいる俺の様な子供を集めていたようだった。
とは言え、当時の俺にはそんな事はどうでも良く、胸に【隷属】の紋様を刻まれたりもしたが、腹一杯飯が食えるようになっただけで幸せだった。
因みだが、その彼はもうこの世にはいない。
旅の途中、魔物に襲われその生命を落としたのだ。
王国は貴重な【鑑定眼】持ちを失い、また彼の様なスキルを持つ者は未だ現れていない。
生命の恩人でもある彼の死……知らなかったとはいえ、少々薄情ではあるが、それは仕方ない。
彼の死を知ったのはずっと後の事で、それを知った頃の俺は……感情を失っていたのだから……
王都に集められた俺達は、とある施設で来る日も来る日も訓練をさせられていた。
それはただただ走るだけであったり、剣を握る事もあれば、戦術等の座学等も行われる。中には訓練について行けず、消えて行った子もいた。
その子がその後どうなったのかは分からない……
そんな中、俺は周りより頭一つ抜け出ていたようで、次々とスキルを身につけて行った。
五年程が経った頃には魔物との戦闘もこなせるようになっており、スライムは勿論、ゴブリンも一体一なら問題なく倒せる。
そんな折、見た事のない貴族服を着た紳士が俺の前に現れた。
名をローレンス伯といい、自身の娘の護衛兼従者にと言って来たのだ。
ローレンス伯は俺の頭を撫で、
「君が嫌なら強要はしない、たがここで暮らすよりもっと充実した日々を約束する。ここにこのまま居ても待っているのは……いや、なんでもない……」
この施設に五年もいれば、ここがどういった所かは流石に俺も理解している。
と言うか、先輩や教官に逐一耳にタコが出来る程、言われている事なのだ。
「貴様らは王国の為に死ね!」
「王国の為だけに生きよ!」
「王国の……」
ああ! 煩い!
そんな怒鳴らなくても【隷属】の紋様で自分らの好きにすればいいじゃないか!
ただこの貴族、ローレンス伯だったか? 強要はしない? 本当か? 娘の護衛兼従者ねえ……
まあ一応魔物とも戦えるし、貴族に対する礼儀も身に付けてはいる。
けど……
ローレンス伯の後ろに立つ、この施設の職員に目を向ける。どうやら彼も困惑している様だ。
そりゃそうだ、恐らくこの施設は王国に忠実で強力な『兵士』を作る所なのだろう。
何をさせるのかまでは分からないけど、多分、力のある冒険者や兵士、または王国に弓を引く恐れのある貴族達の粛清や暗殺……かも?
何にせよ、こんな俗世から切り離された世界で飼われている俺達……まともな事に使われる訳がない!
そんな俺をこのローレンス伯は何故?
困惑している俺にローレンス伯は苦笑いを浮かべた。
「色々聡い子のようだな。何故この施設の、しかも成績の優秀な君なのか、不思議なのだろう? 職員も困惑している様だ」
ローレンス伯に視線を向けられ困惑顔の職員、こんな事は今まで無かったのだ。
しかし、ローレンス伯の持ち込んだこの書状……王家の印が!
と、言う事は今回の件、国王の許可を得ている!?
この施設の者達に拒否権はない。
はーーっ、深い溜息を吐くローレンス伯。
「実はな、私の娘ソフィアなのだが……職業【聖騎士】なのだよ!」
せ、聖騎士! 貴族のお姫様が!? 超レア職じゃないか!!
「そう、レア職なのだ。それに……ソフィアの性格が問題でな……貴族の娘だというのに、私や屋敷の者の目を盗んで、まだ齢十歳だというのに、一人で魔物討伐に出かける始末……先日など、スライムの魔石を自慢げに見せてきおって……」
……マジですか……
「そこでだ、同年代の『お目付け役』を付けようとなったのだ! 陛下の許可も頂いて来た。この施設の優秀な子を頂きたいと! それが君だ! 職業【魔法剣士】、ソフィアと同等のレア職、君なら暴走するソフィアを止めれるはずだ!!」
……
国王の許可まで取って来ておいて……これ絶対に断れないヤツだな……
よく君が嫌なら強要はしないなんて言えたものだ!
だけど……
ソフィア様か……どんなお方だろう。
職業【聖騎士】で俺と同い年の十歳のお嬢様。
もしかしたら女性だとしても、魔物の様にデカい図体をしているかも知れない!
何故か興味が湧いてきた!
ローレンス伯は優しく声をかけてくる。
「どうだい、私の屋敷に来ぬか?」
見下ろすローレンス伯、威厳はあるが、優しい目をしている。
彼の目を見つめながら、俺は首を縦に振ったのだった。
ソフィアさん……そんな事してたんですね……