アキラとサタンとラキリス①
今回、本編からは少し外れたお話しとなっております。
ご意見、ご感想お待ちしておりますm(_ _)m
ピサロから帝国に戻って来たケンヤ達だが、どうもケンヤの様子がおかしい。
「ケンヤ、どうした? ピサロでなんかあったのか?」
マモルに尋ねられ動揺するケンヤ……
「いや……なんでもないんだ……なんでも……」
?
アタマにクエッションマークを浮かべるマモル。
苦笑いのミコトにトオルとサラは奥歯を噛み締め笑いをこらえ、アバロンは空気に徹していて、珍しくシルも押し黙る……
ここで何かを言えば破壊を行いにピサロに戻ってしまうとの判断でだ。
マリアは……サッとケンヤに背を向け笑いを押し殺していた。
変な空気を感じ取ったケンヤは……
「そうだ! 説明だ! ルシファーさん、色々説明お願いします!」
誤魔化す為にルシファーに話しを振る。
「分かった。ここじゃあなんだから一旦城に戻ろう。話しはそれからね」
隠し通路を通り城に戻ると、ルシファーが現在滞在している客室に通された。
皆がソファーに座った事を確認し、ルシファーはおもむろに口を開く。
「じゃあ邪神を倒した辺りから話しをしようかな。当時、僕はまだシルの様な精霊の姿をしていてね、名もルシファーと言う名を奪われていてサタンと名乗ってたんだ……」
「た、倒せた!?」
崩れ去った邪神の亡骸を見つめ、安堵の表情を見せる少女。
勇者アキラである。
肩までの黒髪、少し垂れ下がってる目元、身長も低く女性の中でも小柄な部類に入るであろう。
美人と言うより、可愛らしいと言われる容姿をしている。
だが今その手には自身の身長程もある大剣を握っていた。
小柄で細身の彼女がその剣を振るえるとは到底思えないが、彼女は片手で軽々剣を振り、邪神からの返り血を払うと、腰にある鞘にその大剣を仕舞う。
「なんだかんだアンタに煽てここまで来ちゃったけど……本当に邪神を倒せるとは思わなかったわ」
アキラはその肩に乗る小さな存在、精霊サタンに話し掛ける。
「ね! 言った通りっしょ! 今のアキラなら絶対倒せるって! それに強力な味方も居たからね!」
サタンはアキラの頬っぺを、小さな指でツンツンしながら笑顔で応えた。
そんなツンツンしてくるサタンをウザそうに手で払う。
「そうね! 魔王ラキリス、貴方の魔法のサポートが無ければどうなってたか……感謝するわ!」
魔王ラキリス、魔人の王から救援の要請を受け、人族と共闘を決断した若き魔族の王。
ラキリスは少しの間目を瞑る。
無念の死を遂げた魔人の王タナトスの姿が瞼に浮かぶ。
タナトス殿……貴方の無念晴らしたぞ!
タナトスを思い心の中で呟く。
ラキリスは目を開き、この戦いの労いの言葉を掛けようとするが……
ゾクリっ!!
上空から恐るべき力の波動を感じる!
アキラとサタンも感じ取ったのか上空を見上げ、アキラは先程仕舞った大剣を再び抜き放った!
「な、なんなのよ! これ……さっきの邪神の比じゃないわよ!!」
「これは不味いな……邪神との戦いでもうMPが心許ない……マジックポーションも使い果たした。今此処でこれ程の敵を相手には出来んぞ!」
焦るアキラとラキリスだが、サタンは上空を見つめ
「……来たか!」
一言呟く。
上空からキラキラとした光の柱がアキラ達を囲む様に四本降りて来ると、その光の柱の中を通り何者かが降りて来た!
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!
こんなの人の身でどうにかなる相手じゃない!
まるで……神?
恐怖に震えるアキラ……大剣がカタカタと震えている。
光の柱が消え現れたのは……
四体の天使、その背には四体共三対六枚の翼が!
明らかに上位の天使の登場に、勇者アキラと魔王ラキリスは思わず膝を付きそうになるが……、この天使達から感じとれるのは敵意!
膝を付いている場合で無い!!
気力を振り絞り身構える! だがその膝は恐怖で震えていた……
そんな二人に苦笑するサタンは天使達に語り掛ける!
「いやあ、久しぶりだね〜! ラファエルにガブリエル、それにウリエルと……そっか……ミカエル、君まで来たのか。アルファは元気かい?」
サタンの発言に目を見開くアキラとラキリス!
まさか知り合いなのか? なら何とかなる?
少し期待をしてしまうが……その期待は次のラファエルと言われた天使の発言で絶望的へと変わる!
「貴様が軽々しくアルファ様のを口にするな! この堕天使がっ!! そんな姿になってまでまだアルファ様に楯突くのか!」
明らかな敵意!
それに……堕天使?
サタンの事?
よく分からないが、天使達がサタンを敵視しているのは理解出来た。
「ん〜……、別に楯突いているつもりは無いんだけどね……多分色々誤解があるようだけど……」
イラつくラファエルを抑え、ミカエルと呼ばれた天使が前に出る。
「ルシファー様……お願いします。此方にお戻り下さい! 今ならまだアルファ様もお許しになって下さいます! ルシファー様がちゃんと頭を下げればアルファ様もその堕天を解いてくれるはずです! どうか、どうか……」
懇願するミカエル、だがサタンはゆっくり首を横に振る。
「ミカエル……今は君が熾天使筆頭だったね、君に尋ねる! これ迄大切に育て見守ってきた人族と魔人、それらの進化を促す為とは言え、邪神の様な者に間引かせて君は平気なのかい? それも人族や魔人を思っての事じゃない! アルファが自分の肉体を持つ為だけの実験に過ぎないんだよ?」
サタンの問に口篭るミカエル……
ラファエルはそんなミカエルに小さく「チッ」と舌打ちし、
「ミカエル! 熾天使筆頭の貴方が堕天使の言う事に惑わされるな! 我々は誰に作られた? アルファ様だろ? ならアルファ様に従うのは当然ではないか!」
「そうだな……我々はアルファ様に作られた……アルファ様を裏切る訳にはいかない! そこにいるルシファー、いや、サタンの様に!」
ラファエルに同調するガブリエル。
「そうだな……」
ウリエルも頷く。
溜息をつくサタン……
「あのさあ……そんな盲目的に……間違いを間違いだと指摘して何がダメなのさ!」
そのサタンの発言に激昂するラファエル!!
「貴様!! アルファ様を侮辱する気か!! もういい! 貴様は死ね!」
ラファエルの手に魔力が込められていく! その手に集まる魔力量に絶望し腰を抜かすアキラとラキリス……
「ラファエル止めなさい!!」
ラファエルの前に飛び出し、攻撃を遮るミカエル!
「何故邪魔をする!! ミカエル! どけ!!」
吠えるラファエルを抑えながらミカエルはサタンの説得を試みる。
「ルシファー様、今回我々が地上に降りたのはルシファー様の処分ではごさいません! アルファ様にその異世界からの異分子を連れて来るよう仰せ使っているのです! ですよね、ラファエル!」
ミカエルに言われ悔しそうに攻撃を抑えるラファエル。
確かに命令は異物をアルファ様の元に連れて行く事……サタンの処分は命令されてはいない……
歯ぎしりをするラファエル。
「ミカエル……それは出来ないよ? だってアキラの事僕気に入ってるし、それに……アルファはアキラを実験に使うんだろ? 頭の中弄られたり身体を切り刻んだりさあ! そんなの可哀想だと思わない?」
あ、頭の中弄られたり切り刻まれる!?
思わず卒倒しそうになりラキリスに支えられるアキラ。
「だからさあ、そんなのは勘弁だから……逃げる事にするよ! えいっ!」
サタンが地面に手を翳すとサタンの足元に魔法陣が浮かび、魔法陣が消えると直径は一メートル、円状の虹色の空間が現れた!
「ゲートの魔法か! 逃がさん!」
ラファエルはミカエルの制止を振り切り魔力弾をサタンに放つ!!
しかしサタンに届く前に魔力弾は弾かれてしまった!
「ま、まさか……その姿で私の攻撃を防げる程の防御結界を張れるなんて……しかし何処へ逃げても必ず捕まえるからな! 我々熾天使を舐めるなよ!!」
そんなラファエルに溜息を吐くサタン。
「いや……絶対捕まらないよ。この先はね……別の次元に繋がっているんだ。この世界の理から外れた世界なんだよ? アルファや君達の力は及ばない。こんな事も有るかもと以前から僕の力で渡れる世界を探していたんだ! 無数にある別世界から僕達が向かった先を見つけるのは不可だね」
サタンはアキラとラキリスに向き合う。
「アキラ、ラキリス、こんな事になってごめんね。想定の中で最悪の展開になっちゃった……、このままこの世界にいてもアキラは散々実験された後に殺されちゃうと思う! ラキリスは……どうする? 君はもしかしたら生かされるかも知れないけど……保証は出来ない……」
申し訳けなさそうにするサタンにアキラは……
「ぶっちゃけ全然理解出来て無いんだけど……逃げないと私とんでもない事になるのよね? もう何処でもいいから早く逃げよ! アンタについて行く! けど後でちゃんと説明しなさいよ!!」
ラキリスも顔を青くし、
「お、俺だけこんな所に置いていかれたら……俺もサタンについて行く! アキラを放っておけないしな!」
じゃあ行くよ! とゲートに足を入れようとした時!
「まて!!」
ミカエルがサタンを引き止める!
だがその声はミカエルのものでは無かった。
「ま、まさか……アルファか……」
天使達も驚く!
何故アルファ様の声がミカエルから!?
そんな天使達の疑問を無視するアルファ。
「何故……何故だルシファー!!」
「アルファ……まさかミカエルの身体を乗っ取ったのかい?」
サタンの言葉に少し怒気が含まれる。
「いや……流石にあの地からそんな事を出来る筈も無い。今少しばかりミカエルの身体を借りているだけだ」
ホッとするサタンだが
「アルファ……最後に君の声が聞けて良かったよ……しかし勘違いしないで欲しい。僕はね、間違いに気付いて欲しかっただけなんだ。こんな強行な手段を取る前にね! 僕達は別の世界に行くよ! けどそれはこの世界を見捨てる訳じゃ無い! 必ずこの世界の問題を解決する"何か"を見つけて来る! それまで待って居て欲しい」
サタンの言う"何か"、アルファにはただの詭弁にしか聞こえない!
恐らくもうサタンはこの世界……アルファの世界には帰って来であろう。
思わず叫んでしまった。
「我の元に戻れ! 我より異物の方が大事なのか!」
そのアルファの絶叫に寂しさを覚えるサタン……
今のアルファに何を言っても無駄だ……どれだけの時間が掛かろうとアルファが納得出来るものを示さないと!
次の邪神システムの発動まで恐らく五百年程の時間しかない!
それまでには必ず!
サタンはそう誓い、アキラとラキリスと共にゲートの中へ消えて行くのであった。
暫くの間、ケンヤ達は登場しませぬm(_ _)m