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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

外れスキル『キスした数だけ固定ダメージ』を手に入れたので、相棒の幼馴染とキスをしています

作者: 笹 塔五郎

 この世界において、もっとも有名な職業を選ぶとするのなら、きっと冒険者だろう。

 私――フーナ・バレンは少なくとも、そう思っている。

 子供の頃から絵本を読んだり、実際に冒険者の人の話を聞いたりして、その仕事に憧れを抱いていた。

 もちろん、現実的には命のやり取りをする仕事も多いことは分かっているし、孤児院の子達は皆、冒険者ごっこはするけれど、実際に冒険者を目指す子はそんなにいなかった。

 ただ一人――親友の少女、シェリル・ギリズだけは違った。

 彼女は明るく誰とでも仲良くなれるタイプで、私のような引っ込み思案な子でも仲良くしてくれた。

 むしろ、気を遣ってくれている――そう思うことも、多々あるくらいだ。

『わたしが一緒にいたいからいるんだよ』と言ってくれるし、きっとその言葉も嘘ではないと思う。

 そんな彼女もまた、私と同じく冒険者を目指していた。

 将来――共に冒険者になれる年齢になったら、『教会』でスキルをもらいにいく約束をしたのだ。

 冒険者になるには、スキルは重要な要素になる。

 汎用的なノーマルスキルから、その人固有とも言えるレアスキルまで様々で、こればかりは運と言えた。

『英雄』と呼ばれる者の多くは、レアスキルや使い勝手のいいスキルを持っているのが通例だった。

 私も、できる限り使いやすいスキルだと嬉しい――そう思っていたのだけれど。


「えっと、すみません。もう一度スキルの名前、聞かせてもらってもいい、ですか?」


 教会でシスターから加護を受けた私は、スキルの名前をもう一度訪ねた。

 あまりに突拍子もないスキル名で、私はただ動揺してしまったのだ。

 シスターも少し困惑気味な表情をしながらも、再びそのスキルの名前を口にする。


「いいでしょう。フーナ・バレン――あなたはレアスキルに目覚めました。スキルの名前は、『キスした数だけ固定ダメージ』です」

「キスした数だけ……?」


 やはり、すぐに理解が追い付かなかった。

 そんなスキルが存在するのか――そう思ったけれど、レアスキルだと言うのだから、前例がないだけで存在するのだろう。現に、私が取得したのだから。


「その、キスって……口づけのこと、ですか?」

「……はい、そのようですね。このようなスキルは本当に前例がなく、非常に珍しいものになります。その……上手く扱うことができれば、冒険者として活動することも可能だと思いますよ?」


 気休めのように、シスターは私にそう言った。

 ――さすがに、スキルがあまりに突拍子のないもので、シスターの方も何と言っていいか分からない、という感じなのだろう。

 私は現実を受け入れられないままに、教会を後にした。


「お、待ってたよー」


 そこには、私の幼馴染――シェリルが笑顔で待っていた。

 先んじでスキルを取得した彼女は『剣術』スキルを手に入れている。剣を使えば使うだけ、その技術が研ぎ澄まされていくという、まさに冒険者向けのスキルだ。

 シェリルはきっと大成する、そう私は思っていた。


「……? どうしたの? 暗い顔して――あ、まさかスキルが思ってたような感じじゃなかった、とか?」

「っ」


 いきなりシェリルが核心を突く問いをしてくる。思っていたのと違うというか、想像を絶していたというか。

 けれど、スキルについては話さなければならない、

 私は、意を決しスキルの詳細を説明した。


「私のスキル、『キスした数だけ固定ダメージ』、だって……」

「へ? 何そのスキル? すごいレアっぽい!」

「レアというか、その、名前の通りなんだけど……キスすると、スキルの効果で固定ダメージが与えられるんだって」

「へぇ、そうなんだ。まさかフーナの方がレアスキルをゲットするなんて――」

「いや、あの、私の話、ちゃんと聞いてた……?」


 私は少しだけ苛立ってしまった。スキルの名前を聞けば、それがレアスキルとはいえ『外れ』ということは分かるだろう。

 それなのに、シェリルは平然としている。

 一体、どういうつもりなのだろうか。


「もちろん、聞いてたよ」

「だったら、私のスキルが使えないのは分かるよね?」

「なんで?」

「なんでって……キスだよ? 口づけをしないといけないの! 固定ダメージっていうのもよく分からないし、そんなに頻繁にできるわけないでしょっ!」

「どうしてよ。わたしとすればいいじゃん」

「……え?」


 私は目を丸くして、シェリルのことを見た。

 彼女はきょとんとした表情で、私のことを見ている。


「え、だって、キス、だよ……?」

「別に、わたしはフーナとキスするくらい平気だけど。むしろ、そのスキルでわたし以外と組むつもりなの!?」

「そ、そうじゃないよ! でも、こんなよく分からないスキルの私と――」

「フーナ」


 シェリルは真剣な表情で、私の名を呼んだ。

 そうして、シェリルは迷うことなく私との距離を詰めると――口づけをかわす。

 突然のことで、私の方はひどく動揺してしまった。


「へ、え、は……!?」

「わたしはフーナと冒険がしたいの。どんなスキルだって、わたしは一緒に冒険者になるつもりだった。キスが必要なら、わたしがすればいいだけじゃん。ほら、これで一回目でしょ?」

「シェ、シェリル……」


 私の体温が、物凄く上がる感覚があった。

 そう言ってくれるのは本当にありがたいことで、感動しているのだが――それ以上に、初めてのキスが彼女であるということに、ひどく動揺している。

 何の前触れもなくその時が訪れたのだが、私は彼女のことが好きなのだ。――スキルに必要とはいえ、こんな形で口づけをかわすことになるとは。


「……よし、それじゃあ早速スキル使ってみてよ!」

「え……?」

「え、じゃないでしょ。一回キスしたんだから、もうスキルの効果が使えるんじゃ?」

「あ、そ、そうだね……! えっと、それじゃあ――あそこの木で、確かめてみようかな」


 動転はしていたが、シェリルの言葉ですぐに行動に出る。

 口づけをかわしても、シェリルは全く動揺する様子はない――それなのに、私の方が慌てふためくのは変な話だ。

 深呼吸をして心を落ち着かせて、私はスキルを発動した。

 このスキルは、どうやら『纏わせる』タイプのようで、私の掌にスキルが発動した輝きが現れる。

 キス一回分の消費――果たしてどれほどの威力が出るのか。

 私はスキルを使って、木に触れた。

 瞬間、バキリッと大きく音を立てながら、大木がへし折れたのだ。


「へ……?」

「お、おおー! 一回でこの威力なら、やっぱりすごいスキルなんじゃない!?」


 私以上に、シェリルの方が興奮していた。

 確かに、シェリルとキスをしたのは一回だけ――それなのにこの威力ならば、スキルとしては十分だ。

『外れスキル』だと思っていたけれど、条件さえ満たせれば、かなり強力なスキルなのかもしれない。

 問題は、スキルを発動させるための条件なのだけれど。


「フーナ!」


 シェリルが私の肩を掴み、目を輝かせた。――なんとなく、嫌な予感が胸を過ぎる。


「な、なに……?」

「このスキルの威力、しっかり検証した方がいいと思う。だから、一先ず百回くらいキスしてストック溜めて、色々威力を確かめて見よう」

「ひゃ、百……!? ちょ、ちょっと本気で言ってる!?」

「当たり前じゃない! わたしの親友が、すごいスキルをゲットできたかもしれないんだよ? これが確かめずにいられるかって話!」


 シェリルは色んな意味で興奮していた。

 私のスキルの威力がそれなりだったことで、どうやら彼女のハートに火をつけてしまったらしい。

 問題は――検証をするために彼女と何度もキスをしなければならないということ。

 それは、私のハートが耐えられる気がしなかった。


「ちょ、ちょっと待って! ここだと、人に見られるかもしれないし、それにそんな回数キスはできないよ……!」

「大丈夫! フーナは何もしなくても、わたしがあなたにキスをするから……!」

「やっ、ま、待って――んーっ!」


 ――こうして、私はその日に初めて幼馴染とキスをして、それから一生分くらい追加のキスをした。

 スキルの威力は、一回なら小型の魔物を倒せるくらい。十回分なら中型の魔物なら平気で倒せる可能性があることは分かった。

 百回分も試してほしいと言われたけれど、また百回シェリルとキスをすることを考えたら、とてもすぐには試せなかった。

 ――こうして私は、シェリルと共に冒険者になって毎日、合法的に口づけをかわしている。

思いついたら即書くのが私の癖でして……というわけで百合キスが合法にしまくれるネタの短編です。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり片方はノンケウブがいいっすなぁ(ニッコリ
[一言] 最高です! やっぱりあなたは天才だ!
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