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都市伝説シリーズ

さあ、解答せよ。

作者: 紅蓮グレン

 ――プルルルル、プルルルル


 電話がかかってきた。また迷える子羊が1人、私に質問をしに来たようだ。


「もしもし。」

『も、もしもし。』


 電話の相手は若い男性のようだ。少し声が震えている。どうやら緊張しているな。


「ハハハ、そんなに緊張する必要はないよ。私に繋がって、驚く気持ちも分からなくはないけどね。」

『ま、まさか本当に繋がるなんて……』


 私に電話してきた者たちは皆、このような反応をする。まあ、私に電話をかけるのはそう簡単なことではないからね。色々と準備も必要な上、その準備をしたとしても繋がるかどうかは完全に運任せ。私から電話をかけることなどあり得ないから、私と話したかったらしっかり準備するしかない。


「さて、私に電話をかけてきたということは、当然ながら聞きたいことがあるんだろう? 何でも聞いてみなさい。私は何でも答えられるよ。」

『本当に、何でも答えてくれるんですか?』

「勿論だとも。私の名に懸けて。いくつだって質問してくれていいよ。」

『えっと、じゃあ、タイの首都の名前を言ってもらえますか?』


 これは珍しいパターンだ。どうやら私が何でも答えられるか疑っているらしい。電話が繋がったことだけでも幸運なのに疑うとは失礼な奴だ。だが私は紳士。ここは冷静に……


「そんな質問かね。簡単なことだ。クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロック・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシットだろう。」


 スラスラと答える。バンコクの正式名称程度、知っているに決まっているだろう。答えがある質問ほど簡単なものはない。


『うわ、合ってる……凄い、やっぱり何でも答えられるんだ。』

「そう言っただろう。さあ、何でも聞いてくれたまえ。」


 私の言葉に、電話の相手は安心したようにいくつも質問を投げかけてきた。やはり知りたいことはあるのだろうな。知識欲は賢さの象徴でもあるが、同時に愚かさの象徴でもある。知識を無料タダで教える善人などいる訳がないだろう。最後に代償はしっかり頂くさ。


              ※  ※  ※


『ありがとうございました。分からないことは全部分かり、不安もなくなりました。』

「それは良かった。」

『最後にもう1つ、聞いてもいいですか?』

「ああ、いいとも。何でも聞いてくれ。」


 どうやら次が最後の質問らしい。これが終われば私のターンだ。そう思って私は笑みを深めたが、相手は予想もしなかった質問を投げかけてきた。


『あなたがこの後、僕にしてくる質問の答えは何ですか?』

「……は?」

『あなたがこの後、僕にしてくる質問の答えは何ですか? って聞いているんです。』


 私は動揺を隠しきれなかった。こんなことになるなんて、予想していない。勿論質問を無視したって構わないが、それは私の矜持が許さない。何より、私の名に泥を塗ることになる。


『どうしたんですか? 答えられないんですか?』


 相手は煽ってきた。クッ、人間風情が調子に乗りやがって。だが、私を甘く見過ぎだ。この質問に答えることで今回は代償を取れなくなるが、出世払いさせる方法はあるのだから。


「問われた以上は答えよう。その答えは『イルカ島』だ。」

『ありがとうございます。では失礼します。』

「待ちたまえ。」

『何でしょう?』


 相手は余裕たっぷりの声で返答する。まあ、向こうからすればこちらのことはもうわかっているだろうからな。だが、こっちだって転んでもただでは起きないのだよ。


「君の質問に答えてあげたんだ。私からの質問にも答えるのが礼儀というものだろう。」

『まあ、そうですね。何ですか?』


 私のテンプレートな言葉に相手は笑いを堪えているようだ。だが、そのまま大笑いさせて堪るものか。


「では質問だ。20歳の誕生日まで覚えていた場合、呪われてしまう言葉は何か。」

『はい?』

「20歳の誕生日まで覚えていた場合、呪われてしまう言葉は何か、と聞いている。さあ答えよ。」


 相手の戸惑いが目に浮かぶようだ。まあ当然のことだろう。私には分かっているからな。電話の相手はまだ未成年だと。


『い、イルカ島。』

「正解だ。代償はなしにしてやろう。」


 私がそう告げると、電話は切れた。ククッ、せいぜい20歳の誕生日までビビッて過ごすがいいさ。勿論、逃がしはしない。この全てを知る私、怪人アンサーを欺こうなど、100万年早いわ、人間の小僧めが。


              ※  ※  ※


 私の名は怪人アンサー。ありとあらゆるものの解答を導き出せる、万能の存在だ。私を呼び出す方法は単純明快。10人で輪になり、全員携帯電話で一斉に右隣の人物に電話をかける。普通なら全員話し中になるはずだが、話し中になるのは9人。残りの1人の電話が繋がるのが私、怪人アンサーだ。私は紳士だから、相手がどんな人物だろうと、質問されれば答えを教える。しかし、先程も言ったように知識を無料タダで提供する程私はお人好しではない。電話を切る前に、相手に1つ質問するのだ。相手が答えられたらそれでいい。相手は知識ある者、あるいは頭の回転が早い者。そのような人物なら、知識を提供したって惜しくはない。だが、答えられない輩は別だ。そのような愚鈍な人物からは、遠慮なく代償を頂く。それは、相手の体の一部。答えられない相手に私は「今から行く」と告げる。そして相手は、携帯電話のディスプレイから出現する私の手によって体の一部をもぎ取られるのだ。

 いつもはこのようにしているのだが、今日の相手は中途半端に悪知恵が働く奴だったようだ。だが、私を欺くことなど許すものか。ああいう輩には徹底的にお仕置きをしてやろう。そう思って私は急遽、あの場で相手に出す質問を、答えが『イルカ島』であるものに変更した。これは呪いの言葉で、20歳の誕生日まで覚えていると呪われる。20歳の誕生日の夜、家に非通知で電話がかかってくるのだ。その電話に出ると、相手は一言「イルカの足、いるか?」と聞いてくる。ここで「いる」と答えたら終わりだ。イルカに足はない。故に「いる」と答えた人物は、足をもぎ取られるのだ。イルカには足がないのだから、「いる」などと答えたらそれは足は必要ないと言っていると同義であることなど、少し考えれば分かるはずなのだが、なかなかどうして引っかかる奴は多い。

 体の一部をもぎ取る私こと怪人アンサーと、足をもぎ取るイルカ島。これ程似通っているペナルティを持つものなど他にない。ククッ、奴の20歳の誕生日が楽しみだ。


              ※  ※  ※


「正解だ。代償はなし。君のような人物こそ私の知識を受け取るに相応しい。」

『よ、よかった……』


 あれから数年経った。今日はいよいよ私を欺いたあの輩が20歳になる日だ。今日の知識提供相手は頭の回転が早く、私の質問にしっかりと答えを返したので、私が褒めると安堵の息を吐き、電話を切った。丁度いいので、このタイミングに限って私は電話を受けるのをやめ、あの日の忌まわしき電話をかけてきた携帯電話に電話をかける。


『はい。』


 お、すぐに出た。良い度胸だ。すぐにでも終わらせてやろう。私はただ一言、こう問いかけた。


「イルカの足、いるか?」

『はい?』

「イルカの足、いるか?」


 聞き返すなど愚鈍の極み。ますます許すわけにはいかない。それに、このような愚か者ならば正解など導き出せないだろう。


『い、いる。』


 やはり、かかったな。さあ、では数年越しの代償を貰い受けるとしよう。



 君たちも知識が欲しくなったら、遠慮なく私に電話をかけると良い。無論、私の質問に答えられなかったら代償を頂くがね。

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[良い点] どんな質問にも答える怪人の裏をかく質問。そしてその質問を逆手にとって呪いをかける怪人。都市伝説というワクワクする設定から読者の予想を少し超える怪人と人間のやり取りが面白かった。 こういった…
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