第71節 嬢王はおトイレなんていきません!
表題について〜(苦情が来る前に)
当たり前ですが、絶対にそんなことはあり得ません。
内容について〜(苦情が来る前に)
当たり前ですが、エロい描写はあり得ません。
苦情について〜
あらかじめ謝っておきます。
トイレの話ばかりになって申し訳ございませんでした。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後16日目朝:ウーバン城(駅)/伊藤洋子視点>
朝が来るのが早い。
朝になるときちんと起きられるのは健康な証拠。
今までは、交代で不寝番とかしていたけど、マインウルフ小隊がそれを代わってくれている。
夜、ぐっすり眠れるのはとても幸せだと感じた。
でも、朝になると、必ず起こされる。
駅が、というよりもお城が、街の外れにあるのが原因だった。
ニワトリか何か、そう言う鳥を飼っているのであろう近所の家から、鳴き声がするのだ。
日の明ける前から。
一番早い時は、午前3時頃から鳴き出して、流石に閉口した。
お手洗いが別棟になっているので、朝、起きた後、トイレに行くのがとても寒い。
大体の場合、マインウルフの奈々子がついてきてくれる。
奈々子は暖かい。
体をくっつけてくるので、もふもふと撫でてあげる。
用を足してから手を洗う水は、井戸水なので結構温かい。
石鹸はないけど。
そうだ。石鹸。
あとで、作り方を教わって、洗面所に置いておこう。
もう、水だけで顔を洗うのは、ちょっとダメ。
やっぱり、最低でも石鹸が必要。
日本の文明的な生活の良さを感じてしまう。
朝起きたら、もらった瓶に、羊乳を絞って入れておく。
ゴートが5匹ほど、城の西側の柵の中にいる。
そのうちの2匹は、乳が出るから。
この羊乳が、私たちや旧山賊団の主な栄養源になっている。
ご近所様で飼っている、ニワトリ的な何かは、やはり卵を産むらしい。
それならば、毎日卵を食べられるのだろう。
朝ご飯の時に、村長さんとグラニーさんに、そんな鳥の鳴き声について聞いた。
そして、不思議な顔をされる。
「鳥を飼っているうちはあるのさね。でも、そんな朝早くから鳴くような鳥を飼っている家はないのさね。この狭い村、すぐにわかるのさね。」
「え、でも、毎朝結構早い時間に、その鳴き声で起こされるの。」
「パトバードが来ているのかもしれないよ? いきなりお城を建てたから。」
グラニーちゃんが、言ってきた。
パトバード?
「ああ、パトロールバード、この辺りだとフォレストフェザントあたりが来ているんだよ。あいつらはナワバリに変化があると、鳴いて仲間に知らせるからね。」
「それは、鳥なんですか?」
「そうさね。この、奈々子と同じくらいの大きさの鳥さね。よく鳴くんだよ、オスは。」
「あんまり飛ばない鳥なの。いつもお散歩しているから、村の外ならよく見かけるよ? 時々村の中にも入ってくるの。害虫とか食べてくれるいい鳥だよ。でも、豆の種を蒔いた時は、大好物だから、そっちを食べちゃうの。」
結構大きな鳥が、普通に歩いているらしい。
しかも、いろいろな虫を食べてくれると。
じゃあ、たしかに家の周りのムカデ的な昆虫とか、ヤモリ的な小動物を美味しくいただいているのかしら。
使えるかも。
「でも、卵が美味しいの。森の中のヤブに、ちょっとだけ穴を掘って巣にしているから、簡単に取れるよ?」
なんと。
卵が取り放題だった。
「でもね。卵を取りすぎると、虫が増えるからね。ガーター芋が取れなくなっちまうんだよ。だから、村ではほとんど卵は食べないよ。」
「飼ったりはしないんですか?」
「卵が欲しくて飼っている家もいなくはないのさね。メスは鳴かないからね。でも、繁殖期になると夜中にオスが押し寄せてくるんだよ。そして、求愛の鳴き声で、みんな起こされちまうのさ。」
養鶏場計画は、ちょっと待った方が良さそうだ。
それに、ニワトリとしてはちょっと大きすぎるようだ。
なんなら、奈々子たちが狩り採ってきたのを、既に食べていたかもしれない。
朝ご飯が終わって、村長とグラニーちゃんは領主の館に帰って行った。
出る入るで、野中とレインさん、ラストちゃんとロッコちゃんが入ってきた。
「グラニーが、おしっこーっ! って叫びながらゴート小屋の方に走って行ったのだが、トイレの場所、教えてあげなかったのか?」
「え? だって、帰るまでそんな素振りなかったから。」
「じゃあ、多分今頃。」
「野中は見に行っちゃダメ。ちょっと見てくる。」
「ふぇ? こっちの世界にはトイレなんてないのです。お外でするのが普通なのですよ?」
「だからよ。モンスターに襲われていたら大変でしょ?」
「あ、大丈夫なのですよ?」
「心配なの!」
そう言って、台所の勝手口から外に出ると、ゴート小屋の方から清々しい顔で戻って来るグラニーちゃんを見つけた。
「お手洗いに行きたいなら、言ってくれていいのよ? おトイレくらい貸すから。」
「お手洗い? 何ですか? あ、手を洗ってってことでしょ。グラニー知ってるよ。しっこしたら、ちゃんと手、洗うよ?」
噛み合っていなかった。
そもそも「お手洗い」という単語がトイレをさしていないみたい。
と、いうよりも、レインさんが「トイレなんてない」とか冗談を言っていた。
流石にそんなはずは、ねぇ。
「いつもお外でしているの?」
「うん。お貴族様みたいにスカート履いたままとかは無理だけど、立ったままちゃんとできるよ?」
ちゃんとの基準がおかしい。
立ったままって?
どういうこと?
グラニーちゃん、実は男の子だったの?
「あ、おばあちゃんに聞いたよ! 都会の人は、お外、広くないから、壺とかの中にするって。お城だと、ツボなの? それがおトイレ?」
「え? あ、ああ。そうなの? そうなの。ツボみたいなのがちゃんとあるから。」
「でもいいの。お外でするの。」
ダメだった。
こんな根本的なところで文明が、文化が!
しかも、もしかしなくても、野中たちは知っていた可能性が高い。
ぜんぜん慌てていなかったし。
グラニーちゃんが領主の館に無事走っていくのを見送って、城に戻った。
「あ、その。ダメだからね?」
「いや、なんのことだかわからんのだが。」
「だから、ちっちゃい子の、おしっことか。」
「お前が小さい頃、散々見させられただろうが。黒歴史だろうが。思い出させるなし。」
そして、墓穴を掘る私。
そういえば、そんなこともありました。
だって、雷とか鳴っていると怖かったから。
誰かいないと怖くて、トイレに入れなかったから。
小さい頃、野中にしがみつきながらトイレに入っていたことが何度もあった。
「ないから、そういう変わった性癖とか。もしあったとしても、それは伊藤のせいだし。」
「人のせいにしないで。」
「じゃあ、そういうこと言うなし。」
ああ、ロッコちゃんたちまで可哀想な子を見る目で私を見ている。
そんな目で私を見ないで!
「人は誰しも、そういうことあるのですよ? 気にしても仕方ないのです。」
「そうだぞ、イトー。マスターは、私たちのような幼女にしか興味ないんだからな。諦めるんだな。」
「ん。精霊はトイレ行かないから。」
精霊3人組は、私にトドメを刺しに来た。
「じょ、嬢王だって、トイレなんて行きません!」
「いや、それは、無理があるだろ。」
「いいんです! 帰って。今日の仕事に行って!」
精霊3人組と野中を追い出すと、城に鍵をかけて、奈々子たちを引き連れて、村に繰り出した。
どうしたものだろうか。
とりあえず、よろず屋の店長さんに聞いてみよう。
そして、村の中心部まで足を運んだ。
「店長さん。聞きにくいことなんですけど、店長さんはトイレって知っていますか?」
「おや、嬢王陛下ともなると、そんな単語も出て来るんだね。久しぶりに聞いたよ。もちろん知っているよ。都会とも交易があるからね。あと、お偉いさんが来た時に、知らないと面倒なことになるからね。」
また、ちょっとズレた反応だった。
でも、店長さんに聞いてよかった。
都会の人なら知っている単語なんだと分かって安心した。
「なんなら、隣の酒場の裏になら、鍵かけてあるけど、トイレが2つくらいはあるよ? 使いたいのかい?」
「え? 村にはトイレなんてないと思っていました。」
「村にはないよ。でも、あの建物は王様とかが来た時に泊まれるようにって作られたものなんだよ? トイレくらいつけておかないと、怒られちまうのさ。ま、大抵はツボなんだけどね。」
やっぱりここでも出て来るツボ。
トイレは、ツボなのか。
お城には、簡易的ではあっても水洗トイレがあるのに。
文明の差に愕然としていた。
「みなさんは、トイレの使い方、知っているんですか?」
「知識としてはね。こんな田舎じゃ、使う必要ないだろ? 都会と違って、これだけ広い大草原があるんだからね。」
ああ、なんて残念な意見だろう。
大草原がないから、その代わりにトイレがあるような感覚みたい。
違いますから。
トイレがない時、初めて! しかたなく! 大草原なんです!
「この国を治めるものとして、村にトイレを作っていこうと思います。」
「また、なんでだい? これだけ広大な大草原があるのに。」
「トイレしているところ、見られたら恥ずかしいじゃないですか?」
「お貴族様じゃないんだよ? そんなの気にしてられないよ。」
「それに、モンスターに襲われたらどうするんですか!」
「まあ、それはよくあるね。だから、見張ってもらっていてするんだよ。」
さらに驚愕の事実が発覚した。
モンスターを警戒するために、自分の恥ずかしい姿を晒す文化みたい。
絶対に嫌。
死んでも嫌。
でも、落ち着いて考えたら、そうしないと死んでしまう。
死んでも嫌だけど死ぬのも嫌。
「ますます、トイレを作る必要が出てきました。絶対に作ります。トイレを使う文明を普及させます!」
「サウナの次はトイレかい。嬢王陛下は、国民想いだね。無理するんじゃないよ? あ、そうそう。昼前になったら、サウナが使えるよ? 一番に入っていくかい?」
「絶対嫌! 親分たちと一緒には、絶対に入りません!」
昼前。
私は、そのサウナの中にいた。
「どうだい? 温度は高すぎないかい?」
「水蒸気で何も見えません! 気温は十分暖かいので、少し弱くして下さい!」
最初の調整は、やっぱり人が入っていないと無理だった。
しかも、できる人間は限られている。
私がやるしかなかった。
「水蒸気、少なくなってきたので、これくらいがちょうどいいです。水蒸気なくてもいいんですよ?」
「そう言うものかい? 火傷しないように気をつけるんだよ?」
作りはとても簡単だった。
厨房側と壁で隔てた部屋。
厨房側から、燃料を入れてカマドに火を焚いた。
サウナ側にはカマドの上に水、と言うかお湯の入った釜があって、ぐらぐらにお湯を蒸発させている。
その水蒸気と熱気で、ミストサウナとなっていた。
気温は、そう言う意味では低め。
でも、長時間いられそう。
扉を隔てて洗い場には冷たい水も用意してある。
水をかぶるのも気持ちいいし、体を直接洗えるのも気持ちいい。
サウナは成功だった。
親分たちもいい仕事をしていた。
1日でサウナができるなんて、思っていなかった。
サウナの部屋は、8畳間くらい。
木の椅子が3段階くらい、高さを変えてくくりつけられている。
あと、ちょっとだけ、水の入ったタルもおいてある。
座る時に、椅子を洗うのだ。
清潔第一。
そして、予想外に清潔じゃない人たちが入ってきた。
旧盗賊団の親分たちだった。
「あ、すまねぇ。まだ、入ったままだったのかよ?」
そうは言うものの、全然出て行く気配のない盗賊団。
え、わたし、このまま、ここで、ひどいことされちゃうんじゃ?
ま、まずいわよ、わたし!
こんなところで、じんせい、おわっちゃ、
気がついた時には、食堂で寝かされていた。
「気がついたかい?」
「え? わたし?」
「サウナでのぼせたんだよ。親分たちが慌てててね。私がここまで運んだよ。あいつら、ああ見えてウブだからね。若い女に免疫がないんだよ。」
「あ、ありがとう。あと、ごめんなさい。」
「いいんだよ。サウナがあるんだ。これからも、こう言うこと、けっこうあるだろうからね。親分たちは頑丈だからともかく、村の女性たちも、サウナに慣れてはいないからね。」
新しいこと始めるって大変なことなんだって、やっと気がついた。
でも、店長さんのおかげで、サウナはうまく行きそう。
しかも、1階でふかし芋食堂をするのも好評だったし。
お腹が空いて、おかわりをねだる人たちには、ガーター芋じゃなくてウーバン芋出していたし。
わたし、いい王様になれてるかな。
もっと、村の人たちの役に立てるかな。
私が、そんなことをしていた裏で、村の中ん線路は着々と伸びていき、南門とよろず屋前の間は、線路が引き終わっていた。
あとは、橋をつくることと、私のお城からここまでの線路。
これで、みんなの役に立つよね。
違う世界で、違う空の下、わたし、世界の役に立ちたい。
店長に出されたウーバン芋を食べながら、そう決意していた。
中世ヨーロッパ史の授業をいくつか受講してきましたが、大体国ごと、地域ごとに学ぶようになっています。
時代とともに国境が変化するので、時間軸だけで追いかけていくと、地域としてはいろいろな国をまたくのですね。
日本ではあまりない感覚で、学んでいて新鮮でした。
日本でも、大名とか、戦国時代とか、そういう視点で見ると、面白いものですよね。
そう、うっかり知ってしまっているが故に、うっかりこんな内容になってしまいました。
中世のトイレ事情というのは、トイレがないというところから理解しないといけないそうです。
日本では、川の上に小屋をたてて、トイレで用を足した後、それに群がってきた魚を釣るというアクロバチックな漁労方法が、縄文時代から弥生時代にかけてなされていたそうです。
もう、すでに、自然の水洗トイレがあったということですね。
どうして、こうも差が出たのかは、定かではありません。
日本に住んでいた過去の人たちは、出したものまで資源として再利用していたということなのでしょうか。
一つ言えるのは、トイレって思いのほか最近できたものなのだなってことです。
IT革命で有名なINA●とTOT●は、今日においても常に新しいトイレの開発と発明に余念がありません。
10年後、20年後には、今の私たちが予想もつかないようなトイレができているかもしれませんね。
それでは、10年後、20年後とか言い出さなければ、明日12時すぎに。