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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第6章 教科書知識でチートな国家運営(笑)
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第69節 嬢王陛下の教科書には載っていないこと

めっきり寒くなってきました。

紅葉も進み、素晴らしい紅と黄色と緑のコラボレーションが観られます。

もみじ狩りの意味を間違えていて、何かを狩りとって、美味しい頂くことと思っていた頃を思い出します。

今回はそういう話です。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後15日目昼過ぎ:よろず屋前/野中視点>


 ラストたちに拉致された。

 右手をラスト、左手をロッコにがっちりとロックされた。

 ここまで引きずられてきた。

 駅を作れと要求された。


 今いるここは、ウーバン村の中心、一等地のよろず屋前。

 村長というか領主の館を北西に仰ぎ見るいい位置だ。

 同じ方向に、木でできた橋がある。

 領主の館に向かうには川を跨いでいるからだ。


 その橋の隣で、旧山賊団の親分たちが、せっせと石橋を作っていた。

 ラストが線路を引くから、トロッコの重さに耐えられるようにだ。

 親分は、自分がトロッコをヒャッハーしても壊れないように、余計に頑丈に作っているのだが、この時の僕たちにはそれを知る術はなかった。


「いやあ、生まれて初めてでさぁ。ここの川に水が流れていないのを見るのは。橋をかけるにはもってこいなんですがね?」


 レイン先生が上流で川を堰き止めているので、しばらくは水が流れてこない。

 橋の工事をするのには、水が流れてこないのが大切だった。

 なんなら、他の橋も、村人たちが手入れをしていたくらいだ。

 レイン先生の悪どい仕事は、思いのほか、村の役に立っていたのが不思議だ。



 さて、ラストの要求してきたのは2つ。

 一つは、よろず屋の前に、駅を作るとこ。

 もう一つは、南門の内側に駅を作ること。

 言わんとしていることは理解できる。


 町の中心部に駅を作ることで、物流を促したい。

 鉱山で採掘されたものを、伊藤さんの城と化している、ウーバン駅(北門外)で降ろして、そこから手作業で運ぶのは、いかにも効率が悪いと。

 どのみち、それらも含めて荷物の類は、よろず屋か冒険者ギルドに納品するのだし、よろず屋で購入したものも、伊藤さんの城だったり、鉱山まで持ち帰ったりしているのだ。

 なら、そこまで線路を伸ばそうと言うことで、今作業をしていたのだが。


「駅は、必要だ。できれば人も乗せたい。儲かる。」


 ラストが、らしくないことを言い出した。

 儲かると。

 ロッコに視線を振ると、ロッコも言い出した。


「お客さんを乗せる。儲かる。あと、町の人も助かる。特に高齢者。」


 うん。

 言わんとすることはわかった。

 でも、ちょっと落ち着こうか。

 この町、高齢者、そんなにたくさんいないんだよ。

 でも、まあ、ラストたちの思いもわかるので、駅を作ることにした。


 例によってラストがなんとか自分で操作しようと体を密着させてきた。

 ラストは、密着してくると甘い匂いがするんだよな。

 だが、それとこれとは別。

 前回設定をいじったので、その手段は無駄だ。


「ラスト。この魔法、音声認識に操作方法を変更したから。無駄。」

「な、なんだと! それではラストがいざと言う時に操作できないじゃないか!」


 いざと言う時っていつだよ?

 僕の魔法、そんな切羽詰まった状況で使うことないでしょ。

 というか、そう言う場面で使ってちゃだめでしょ。


 資材の関係もあり、客扱いの関係もあり、仮駅とした。

 とりあえず、「ウーバン村中央仮乗降場」と名付けた。

 駅舎はないけど屋根だけの待合所に椅子があり、一見バス停みたいだ。

 できたそばから、親分たちが作業の休憩スペースとして占領して利用していた。


 まだ、駅としては活用できないからまあ、いいか。

 そう思って放置した。


「南の駅もすぐに作れ!」


 ラストは横暴だった。


「MPないから、また後でな?」


 そして、その要求を満たすのは無理だった。


「ひ、昼寝でもして、MPをすぐに回復させるんだ。今すぐにだ。その、ベンチで寝ればいい!」


 ラストさんは、焦っておられるご様子。

 そんなに急ぎではないはずなのですけどね?


「ラスト? どうした? 何を焦っているんだ?」

「決まっている。もし、辺境伯が今攻め込んできたら、あまりに無防備だ! 少しでも早く、守りを固めたいんだ!」

「まず、大岩井さんが、何を使役しているのかをよく思い出してもらおうか?」

「確かにマインウルフは強い。ガチで戦えば、こないだの30人いた兵士も、10分かからず皆殺しにできたはずだ。でも、皆殺しにしちゃ、だめだろ?」


 お、ラストがまともなことを言っている。

 なるほどね。

 成長したのな?


「まあ、大岩井さんにも考えがあるそうだ。戦わずして勝つ。それが今回の堀と土手のコンセプトらしい。大丈夫だろ。悪巧み、一番うまいのは大岩井さんだし。」

「あら、ひどい言われよう。野中さんは、もう少し私のこと好きなのだと思っていたのですけれども?」

「ひぃっ!」


 いつの間にか後ろに立っていた大岩井さんにびっくりした。

 なんでだよ!

 どうしてここにいるんだよ?


「ラストさんも、あなたの役に立ちたくて、一生懸命なんですよ? わかってあげて欲しいですね。こんな可愛い子に慕われているんです。幸せなことですよ?」

「あ、あ〜、うん。そうだな。まあ、努力しよう。でだ、なぜここに?」


 大岩井さんが指を指す。

 その先にはよろず屋があった。


「ちょっと揉め事のようですよ?」


 たしかに揉めていた。

 ああ、昼ごはんにありつけなかった人たちだ。

 お金は持っていても、売る量に限りがあったのか、売ってもらえないようだ。

 完売御礼といえば聞こえはいいが、この狭い村だ。

 需要はほとんど読み違えることはないはずなんだけどな。


「店長。どうしたんですか?」

「思ったよりも多く売れてね。売り切れちまったのさ。ここのところ、予想よりも多く出ることが多くてね。それで、ちょいと値段をあげたのさ。そしたら、揉めちまってね。」


 需要があるので値段を上げる。

 市場経済としては真っ当な判断。

 作る方にも作る量の限界があるから、欲しい人が多いなら、値段を上げるしかない。

 いわゆる需要供給曲線〜SD曲線というやつだった。



<異世界召喚後15日目昼過ぎ:よろず屋前/伊藤洋子視点>


 昼食を取り終えると、ラストちゃんとロッコちゃんが来て、野中を連行してった。

 駅を作るんだとか言っていたから、この町の中にも駅を作るつもりなんだと思う。

 そうしたら、もっと村が便利になるよね。


 気になったから、駅を見に行った。


 そして、よろず屋の前にたどり着いた時には、すでに駅はできていた。

 旧山賊団の親分たちが、待合所のベンチで休憩していた。


 当の野中は、よろず屋の店長さんとお話ししていた。

 店の前で、何やら揉めている様子。

 ちょっと、聞いてみた。


「どうしたのですか?」

「今日、お昼ご飯を買おうと思ってここに来たら、売り切れだったの。今までこんな事なかったのに。」

「いつもは、人数分、取っておいてくれたのに。」


 何かが原因で、あの美味しいふかし芋が行き渡らなかったみたい。

 原因はなんだろう。


「作る量を増やせば、いいんじゃないのか?」

「こっちは、村の食事と倉庫をまかされているんだよ。無駄になる分はないんだよ。今年の夏前に、新しい芋が手に入るまで、今倉庫にある分で何とかやりくりしなくちゃいけないんだよ。だから、毎年、毎日、作る量は決まっているんだよ。」

「ああ、そうか。親分たちの分が余計だったんだな?」

「そうは言っても、こいつらだってご飯を食べさせない訳にはいかないんだろ? それに、あんたんとこは金払い、いいからね。」


 野中と店長さんの話から、どうやら旧山賊団12人に供給してしまった分の芋が、足りなくなっているらしい。

 野中は、それくらいなんとかなると読んでいたみたいだけど、思った以上にイモの在庫はカツカツだったみたい。


「それで、売る数が足りなくなった上に、値段を上げると言うのですか?」

「そうするしかないだろ? たくさんお金を出した方に、売るんだよ。」


 こんなとこにも市場経済が働いていたみたい。

 でも、私は知っている。

 自分の国だから、ちゃんと調べてある。

 ここに、市場の原理は働かない。


「市場の失敗」の状態だから。

 この村には、お店が一軒しかない。

 そして、村の外に行っても、行動可能な範囲にお店はない。

 つまり、よろず屋さんは「独占」状態。


 価格の決定権を持ってしまっている。

 逆に、だからこそ、値上げすると言うことが簡単にできる。

 だって、競争相手いないから。

 いままの値段で経営できるなら、別に値上げする必要はない。


 なのに、値上げしようとしている。

 横暴だと思う。


「野中は、どう思うの? 市場の失敗の状態で、値上げはギルティーだと思うけど。」

「いや、いいんじゃないか? もっとも、この話を知ってしまっては、親分たちには弁当を作ってやるしかないけどな。」

「独占企業が、勝手に価格を釣り上げるのが、どうしていいの? 絶対ダメなはずだよ?」


 公民の授業では、そう教わったから。

 だからこそ、独占企業ができないように、法整備されているんだって。

 先生は、「大企業はガンだ!」とか言っちゃう、左がかっている人なので、話半分だけど。


「おそらく、そのふかし芋は、幻の『ギッフェン財』ってやつだ。だとすれば値段を上げざるをえない。」


 なんか、変な単語が出てきましたよ?

 「ギッフェン財」? 何それ?

 そんなの、教科書に無かったよ?


「たとえば、こう考えてみてほしい。

 以前よりも貧乏になりました。結果、食費に回せるお金が減りました。

 あなたは、その予算で何を優先して買いますか?」

「そんなの、お米に決まってるじゃない。」

「じゃあ、さらに。

 周りのみんなも、以前より貧乏になりました。みんなも食費に回せるお金が減りました。

 みんなは、その少ないお金で、何を買いますか?」

「みんなもお米を買うに決まっているでしょ?」

「そういうこと。」

「え? どういうこと?」


 いや、野中、説明下手。

 何が言いたいのかわからない。


「この村は、ここ最近、ガーター辺境伯が来てから、重税を課せられたのは知っているな?」

「そう言う話だった。知ってる。」

「税金、高くなったら、裕福になるか貧乏になるかわかるよな?」

「まあ、貧乏になるわよね。」

「だから、今、この村の人たちは、以前よりも貧乏になっている。使えるお金が減っている。」

「それはわかる。」

「そして、その少ないお金で食事を賄うために、何を買うんだ?」

「だから、ここで芋を、ふかし芋を買っているじゃない。」

「そうなんだよ。みんなでふかし芋をいっぱい買おうとするよな。」


 行列ができてたくらいだから、人気があると思っていたのだけれど違った。

 人気があるんじゃなくて、他に選択肢がなかったんだ。


「そして、店側としては、去年取れた芋を、少しずつ供給して、今年芋が取れる頃まで持たせないといけない。つまり、イモの供給量を増やすことはできない。」

「それもわかる。いっぱい売れるからってそのまま売ったら、夏まで持たない。」

「でも、芋は食べたい。というか、芋くらいしか食べるものがない。何しろ、肉は高いからな。どうしても芋中心になる。」


 村人たちは、お金がない。

 安い芋でお腹を満たしたい。肉を買うほどの余裕はない。

 店側は、芋を増やせない。

 一定量を毎日供給する事で、今年の芋が取れるまで持たせたい。


 市場経済としては、需要が増えるのだから、値段が上がるのがセオリー。

 と言うよりも、値段を上げないと、転売されちゃう。

 だって、高くてもみんな買うから。

 これくらいしか食べるものないから。


 でも、独占企業が値段を上げるのは許せない。

 だって、一度許したら、いくらでも値段を釣り上げられるから。

 それは、ダメ。

 嬢王様権限でダメにしたい。


 でも、野中は仕方がないって言う。

 どういうこと?


「店長。嬢王陛下の頭が爆発しそうだ。今回は、陛下の顔に免じて、値段を上げるのはやめてもらえるかな? 親分たちには、弁当持たせるから。そっちの計画通りに、芋を供給できなくさせるつもりはなかったんだよ。」


 そして、野中のところには、ユリが肉をくわえて走ってきた。


「あと、今日の昼ごはん、食べられなかった人たちに。みんなで焼いて食べてくれ。喧嘩しないでな。この大きさなら、若い女性12人分は、きちんとあるはずだ。」


 そして、ユリが咥えている、大ガエルを渡した。

 あれ、鶏肉みたいで美味しいし、脂身が少なくヘルシーなんだよね。

 大ガエルって言っても、大型犬くらいの大きさ。

 食べではある。


「あ、ありがとう。でもいいの? タダでもらっても。」

「今回のは店じゃない。こちらのミスだ。お詫びだよ。村の現状をよく知らずに、旧山賊団分の昼ごはんを発注してしまったのが原因だ。そのままにしていたら、みんなでイモの取り合いになって、値段は際限なく釣り上がっていくところだったんだしな。」


 独占とは関係なく、値段が上がる?

 どう言う事なんだろう。

 それが「ギッフェン財」とかいうものの、影響なの?

 あとで、詳しく聞いてみよう。


「いいんだよ。明日からは予定通り、ちゃんと売れるからね。すまないね、こればっかりは、みんなの命に関わるからね。勝手にふやせないんだよ。」


 店長も、落ち込んでいた。

 商売でやっているとはいえ、村で唯一のお店なんだ。

 ある意味、みんなの面倒を見る立場でもあって。

 困ったことをなんとかする立場でもあって。


 みんなが困らないようにする、そういう立場なんだなって。

 独占企業だから、自由にしているのかと思ったけどそうじゃない。

 普通のお店じゃ、経営が成り立たないような少人数の村でやっていくための工夫だった。


 ある意味、ボランティアに近いんじゃないかな?


 お店の女の子が、皿に乗ったふかし芋を持ってきてくれた。

 バターの乗ったふかし芋。

 でも、橙色のおいしいガーター芋じゃない。

 村長さんが食べていた、ウーバン芋の方だった。


「こいつなら、いくらでもあるからね。お腹が空いただろ? みんなでお食べ。」


 そう言うと、12人いた女子たちは、かぶりつくように食べていた。

 私と、野中の分もあった。

 これはこれで美味しかった。


 あ、野中がへこんでる。

 ユリが肩に前足を乗っけてなぐさめている。

 ウルフに慰められる人間ってどうよ?


「いきって、『ギッフェン財』だとか説明しちゃってすいませんでした。もっと人気のない、代替のきく下級財があったよ。ほんとに貧乏になったら、こいつをみんなで食べるんだよな?」

「そう。でもね、こいつは冬の今でも普通に森の中に入れば採れるからね。一応売り物だけど、二束三文だよ? 村長んとこのグラニーちゃんは、これが大好物だけどね。」

「ほんと、すいませんでした。」

「午後は暇だからね。じゃあ、その大ガエル。ここで捌いて焼いてあげるよ。みんなで食べてきな。」


 店長さんは優しく野中の肩に手を乗せた。

 ユリが前足を乗せていない方に。


 大ガエルを、店の前で捌いて、串に刺して焚き火で焼いて、大勢で一緒にいただきました。

 すごく美味しかったです。

 コンビニの鶏肉みたいにジューシー。



 次の日から、旧山賊団の昼食は、よろず屋謹製、ふかし芋、ただしウーバン芋となった。

 野中には、教科書に載っていない系トラウマがまた一つ増えてしまった。



 今なら、優しくしてあげたら、ちょろく落ちそう。

 しないけど。

勘違いやうっかりで恥をかくのは、若いうちの方がいいです。

恥ずかしさのあまり、もう書かねーよと言い出さなければ、明日、12時すぎに。

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