第9節 上に行けば出られると思った? 残念、行き止まりでした!
レベルアップは心が躍ります。
異世界ものの醍醐味ですよね。
どこまで上がるんだよ? って話もありますが。
<前回の3行あらすじ>
9階層から8階層に進む登り斜坑には、ストーンゴーレムが居座っていて通れなかったよ。
仕方がないから、他の道を探していたら、湧水やら敵やらで大変だったよ。
そして、伊藤さんが「スキル:カップリング」を使っちゃったよ。もうやだ。
緊急避難的に気絶させておいて何だが、伊藤さんが復活するのには結構な時間がかかった。
目を覚ました伊藤さんには、こっぴどく怒られた。
どこに怒っていたのかだいぶ論点がずれていたが、とにかく怒られた。
こちらも怒りたいところだが、まあ、この鉱山を脱出するまでだ。
とりあえず我慢した。
「つまり、伊藤さんの『スキル:カップリング』は、任意の2匹をラブラブカップルにするという効果ということなのかな。」
「オブラートに包んで言えばそう。オブラートに包まないと、私の口からはとても言えない。」
「イトーのスキル、たくさんで生き物にしか効果がないのですね。」
戦闘後、伊藤さんのスキルについての検討をしていた。
ちなみに、伊藤さんのスキルについて、今まで効果がなかったことに一つの疑義がある。
それは、相手の名前を正しく認識しないと、効果が発揮されない疑いだ。
伊藤さんは、ストーンゴーレムとマインウルフについて、レインから正式名称を聞かされるまで、「ゴーレム」と「オオカミ」と言っていた。
スキルの性質上、対象の指定に失敗していた可能性があるのだ。
何で、そんなことを考えたのかというと、スキルの効果だ。
限定条件が厳しいとはいえ、殺されるまで周りが見えなくなるほど魅了されているとすると、直接ではなくとも、これはもう、即死系の魔法と言っても過言ではない。
それにしても、低レベルで、これだけの威力である。
まだ、他にも限定条件がある可能性がある。
「さっきはうまくいったけど、2匹・生物の他に、条件はないの?」
「やっぱり、そこ、気になる?」
「ああ、だって、スキルが効くのか効かないのか、判別できないだろ?」
「そう。じゃあ1つは、2匹が両方とも『オス』であること。この条件を満たすなら、人間でもおそらく効果があると思うの。後で試してみる?」
「いや、それだけはやめて。で、後一つは?」
伊藤さんは、言うべきかどうか、迷っているようだった。
「見ていたのなら、わかると思うのだけど、2匹とも、成体、つまり大人じゃないと駄目だと思うの。ね、何となく察して。」
まあ、目の前で派手に交尾していたもんな。
両方オスだったけど。
それからも、9階層を進んで行くと、断続的にマインウルフが襲いかかって来た。
この鉱山、これしかいないんかい? ってほど、マインウルフであった。
そしてレインが話しかけて来た。
「こーへーのレベルが4になりました。これでスキルポイントが増えました。」
「スキルは?」
「ありません。」
「ステータスはどれくらい?」
「えっとですね、レベル4は、小さな村を守る兵士レベルです。」
「それは強いんか?」
「そこそこです。ちょっとした魔物なら1対1なら勝てます。」
「でも、それって、武器があったら、ですよね?」
「もちろんです。今のこーへーでは勝てません。」
と、2人で僕のステータスとスキルの話をしていた。
伊藤さんが不思議そうに尋ねて来た。
「何でレインが浩平のステータス知っているの? っていうか、どうやってステータスを調べたの?」
「いや、レインの能力で。」
「そうです。私の能力で、こーへーのスキルとステータスは丸裸です。」
「私のもわかるの?」
「わたしはこーへー専属の精霊ですから、無理です。」
「そう。」
伊藤さんは残念そうに俯いていた。
「伊藤さんは、自分でステータスとかスキルとか把握できるの?」
「うー、スキルは把握できる。スキルを取るのにスキルポイントを振るのもできる。」
「すごいな。」
「でも、浩平と違って、ステータスは分からない。」
「どうなってるの?」
「しばらく戦って、スキルポイントが増えてた。浩平のステータスの話で、レベルが上がった時にスキルポイントが増える事が分かったから、今、おそらくレベル2か3だと思う。」
「それは、ふつーの町娘レベルです。」
普通の町娘扱いに、伊藤さんはちょっと複雑な顔をした。
さらっと流してしまったが、「しばらく戦って」と曰っていた。
つまり、伊藤さんは武器も無しに単独戦闘して、マインウルフに勝っているということになる。
こえぇ!
この件はあまり突っ込まないようにしよう。
そうしよう。
もしかすると僕の方が戦闘で役に立たないかもしれない疑惑が大発生してしまったから。
気持ちの切り替えが大事。
そして、さらに9階層を進んで行く。
結構歩くが、なかなか端に着かない。
水深が膝上まで上がってくると、マインウルフと遭遇しなくなった。
これは、危険信号である。
マインウルフが来ないという事は、間も無く水没するという事。
僕たち3人は、焦って来た。
9階層の反対側行き止まりについた頃には、水が首の下まで来ていた。
歩くよりも、泳いだ方が早い感じ。
もし、ただの行き止まりであったなら、ここでゲームオーバーである。
もちろん予想通りに、上の階層へ繋がる斜坑がその行き止まりの少し手前に開いていた。
「何とか助かった。死ぬかと思った。」
「ほんとうです。この鉱山は広すぎるのです。」
「また全身ビショ濡れ。何とかしないと。」
そんなことを言いつつ、溺れる前に急いで斜坑を上がる。
この斜坑も、8階層だけでなくさらに上まで繋がっているようだ。
今回はゴーレムが道を塞ぐこともなかった。
「この斜坑、だいぶ長いね。出口までつながっていたらいいのだが。」
「きたいできません。出口の明かりが見えませんから。」
「うー。寒いし濡れたし、とりあえず乾かしたいんだけど。」
「じゃあ、とりあえずこの斜坑登り切ったら休憩しようか。」
「休憩中にちょっとだけ服を絞れば、動きやすくなるわよ。」
試しにそのまま緩やかな斜坑を登って行くと、6階層まで繋がっていた。
登り坂は歩きやすく、連続した坂になっていた。
おそらく、鉱石を運びやすくするための措置だと思われる。
6階層の坑道に入ると、坑道の前後と斜坑への入り口の周囲3方向の見える位置にすわった。
ちょっと休憩することとしたのだ。
「このかいそうは、くうきがよどんでいて、あまりよくありません。」
「うー、確かにそうね。この階層だけ、なんかかび臭い。」
「空気に動きがない坑道ってことは、ちょっと注意が必要だな。」
「どうして?」
「酸欠になる可能性がある。普通の坑道は、そうならないように、換気用の長い縦穴を作っておくことが多いんだ。これがあるだけで、こうはならない。」
僕たちは休憩を切り上げて、6階層で再び上に繋がる斜坑を探し始めた。
探すと言っても、やはりほぼ一本道である。
鉱山なので、もちろんあちこちに横道のように数メートル採掘されている跡はある。
でも、それは坑道じゃない。
採掘跡でしかないのだ。
よっぽど注意散漫になっていなければ本来の別ルートは見逃さないだろう。
という油断があった。
6階層を、斜坑の入り口から探索し始めて、端から端まで往復して帰って来た。
信じられないことに、結局のところ一切の脇道が存在しなかった。
厳密には違う。
無いと予想していた換気用の長い縦穴はあった。
いわゆる立坑というやつだ。
6階層から下に向かってではあるが。
いや、これじゃ換気の役にたってないじゃん。
どおりで空気が淀んでいる訳だ。
おそらく最初に自由落下したのもこれとは別の「立坑」なのだろう。
立坑以外には、採掘跡くらいしかなかった。
そんなはずはないだろうと見逃した可能性を考えて、もう一往復してしまった。
美人さんかなと思って顔を2度見するときのような複雑な気持ちだった。
2往復で1時間くらいかかっていたが、2度目も見つからなかった。
坑道の端が落盤で埋まっているということもないので、6階層には出口がないと結論づけた。
だって、見つからないし、見つかるまで水が待ってくれるとは限らない。
気を取り直して7階層に降りて、同様に上の階層への斜坑を探し始めた。
6階層では遭遇しなかったマインウルフに一度だけ遭遇した。
しかし、7階層にも斜坑は無かった。
ここでも2度見したので、6〜7階層の確認だけで2時間くらいかかっていた。
僕たちは、焦り始めていた。
8階層に戻って来たが、すでに水位がだいぶ高くなっていたからだ。
坑道に入ると、すでに胸くらいまで水が来ていた。
いくつかの危惧があった。
一つは、8階層にも登りの斜坑がなくて、このまま水没するという危惧。
そしてもう一つは、8階層にあったとしても、たどり着けないという危惧。
そんな不安を抱えながら、僕たちは8階層の攻略を始めたのだった。
本日2投目。
もう少しがんばります。
<更新履歴>
誤字訂正 スティータス > ステータス(status)