第63節 隠れ里の住人と山神様
異世界といえば隠れ里は欠かせません。
RPGとかでも、探すのに苦労したり、迷い道でなかなか辿り着けなかったり。
隠れ里ってそういうことですから。
今回はそういうお話です。
それでは、どうぞ。
トラブルが発生したと、ガーター町の職人から連絡があった。
そこで、僕たちはトロッコで現場に向かった。
僕とレインと山神様、そしてガーター町長だった。
線路がなくなったところでトロッコを止めて、少し歩いた。
すぐに、職人たちと揉めている相手が見えてきた。
ちょっと理解し難い光景だったが、まあ、なんとか理解しようと思う光景だった。
相手はリザードマンと鳥人間だった。
いわゆる異種族というやつだ。
遠目にも、その異種族たちが人語を操って、職人たちに何かを訴えていることは分かった。
だが、けっこうな数だった。
それぞれの種族が10人ほどで合計20人。
全員が槍とか弓とかで武装していた。
職人たちも、交渉している男以外は、斧とかナタとかで武装していた。
というよりも、作業に使っていた道具をそのまま武器にしただけの様な感じだった。
ムードは険悪。
さて、どうしたものか。
「何があったのか聞かせてもらってもいいだろうか?」
トラブルの交渉をしていた職人の男2人とリザードマン1人、鳥人間1人がこちらを向いた。
「あ、ああ、社長と奥さんですかい。」
「奥さんじゃない。」
「どっちです? どっちが奥さんなのです?」
「レイン様は、体のサイズが違いすぎますから、わたしかしら?」
そして、言わんでいいことを言うので、混ぜっ返される現場。
「まあ、それはいい。何があったのか、順番に教えてくれ。」
相手2人は納得していない様だったが、レインと山神様の顔を見て大人しくなった。
というよりも、なんだか跪いているんだが。
どうした?
何があった?
「はい社長。ここに線路を引こうってんで、先日、バラストを敷いて、その上に枕木を並べたところまではご存知で?」
「まあ、な。僕たちが自分でやったことだからな。」
「そして今日、レールを敷こうと来てみたら、枕木が消えてたんでさぁ。」
「どこかに飛んでいったのか?」
「いや、そうじゃねぇんだよ。」
そう言って、リザードマンと鳥人間を見やる職人。
「社長? とは、どういう立場かは知らんが、そちらのお偉いさんでいいのかい?」
甲高い声で、鳥人間が話しかけてきた。
「まあ、そう考えてもらって大丈夫だ。僕は野中。ウーバン鉱山を取り戻して、鉱山とかの社長をしている。その件もあって、線路を、ちょっと変わった道を作っていたところだ。」
「挨拶ありがとう。僕はガルダ族の族長、キングパンサーだ。君は、僕たちのことを見て、驚いたり怖がったりしないね? 王国の人間じゃないのかい?」
そう言って、僕の体を舐め回す様に見ている相手方二人。
そういえば、王国では差別が厳しいと聞いた。
「王国の人間じゃない。ちなみにだが、このあたり一帯は、女神様の許可を得て王国から簒奪して占領した。新しい王国となった。名をヨーコー嬢王国という。」
異種族なので表情が読みにくいが、それでも驚いているであろうことは分かった。
そして、僕の後ろに隠れている山神様に話しかけていた。
「山神様。そちらのノナカとは、どのようなご関係で?」
「奥さん。」
「違うから。そういう冗談、このタイミングだと笑えないから。」
急いで突っ込んだ。
知り合いの様だった。
「加害者と被害者。このノナカは、ウーバン鉱山近隣の森の木を、全部切り倒そうとしていたの。だから、懲らしめているの。悪いことこれ以上しない様に、ずっと見張っているのよ?」
「なんということだ! では、我々の敵ということでよろしいのですね?」
「違うの。そうじゃないの。喧嘩はダメ。戦争はもっとダメ。」
「では、何なのです?」
鳥人間は、トサカに来ていた。
山神様の説明から、僕が敵認定されかけているからだ。
なんとかして欲しい。
「だから、あなたたちの味方になる人なの。ここは、もう、サッシー王国じゃないのだし。もう、人間じゃないからって、ひどい目に遭うこともないのだし。」
「それは、本当なのか?」
それを、僕に確認してきた。
「当たり前じゃないか。それよりも、僕はこの地域に来て、まだ2週間くらいしか経っていなくてね。地域の実情には疎いんだ。そのあたり差し支えなければ説明してもらってもいいかな?」
「なるほどな。それで、山神様と一緒にか。」
鳥人間なのにキングパンサーという名前は、どうなのだろうと突っ込みたいが、そこは我慢した。
そのキングパンサー殿は、何やら勝手に納得していた。
隣のリザードマンも納得していた。
そして、槍を持っていない方の腕を横に伸ばす。
仲間に送るハンドサインか何かだった様だ。
後方で話を聞いていた手下たちを下がらせたのだ。
そして間もなく、手下たちは、森に消えていった。
「王国の異種族への扱いは、どの程度知っているんだい?」
「異種族は国民と認めていない。その程度だ。」
「そうか、それだけか。なら、僕が説明しよう。」
そして、異種族の虐げられている現状を説明し始めた。
まず前提として、サッシー王国支配下では、人間以外の異種族は、非国民だった。
国民という訳ではなく、旅人とかならとりあえず、それ相応の対応をしてもらえていたらしい。
だが、住民となるとひどかった。
人間ではないという扱いなので、話のできる家畜としての扱いが普通だった。
飼い犬の如く、首輪をされているのが普通だった。
農作業に従事させられるのも、鋤を引く牛馬と同様の扱い。
口答えすれば鞭で打ち据えられる。
食事も種族特性にはろくに配慮されることはなかった。
単純に知らないということが大きいとは思うのだが、キングパンサーはそこに怒っていた。
それはそれとして、とりあえず食事は与えられてはいたようだった。
そこから、必要ないと捨てられる現状や、最後には食肉として加工されることもあるという話まで聞かされ、だいぶ心にダメージを受けた。
「と、彼らは言っているのだが? 王国ではこれが普通なのか?」
ガーター町長に確認した。
彼は、紛れもない王国民だったからだ。
「間違いない。言っている通りだ。もっとも、ガーターみたいな辺境じゃ、そもそも異種族なんざ見ることもない。それに俺たちは職人集団だ。必要もなく差別したり迫害する必要はない。作りたいものを作れればそれで満足だからな。」
確認のために山神様にも聞いてみた。
「そうなの。ここは、辺境なの。ミャオー町みたいなちょっと大きな町は、この子の言う通り、酷い扱いを受けるわ。だから、この子たちもそんなところには近づかないの。でも、コソナは帝国と貿易する町だから異種族も全然珍しくもないし、普通の人間として扱うわ? ガーターも、それに近いところがあるわ。なんなら、ガルダ族は、時々商売でお酒を運んだりしていたのよ?」
「マジかよ!」
食いついたのは町長だった。
「どこから酒が湧いてくるのか、ずっと疑問だったんだよ。そうかよ。俺たちの村を裏で支えていたのは、お前らだったんだな!」
「僕じゃない。でも、僕の仲間が、あの高低差を飛んで運んでいたのは事実だ。僕たちでもかなりきついんだけどね。」
酒の話だけで、町長は、キングパンサーと一方的に親密になっていた。
「なんなら、俺たちの村に家を作って店を作ってくれよ! 場所ならいくらでもある。」
「申し出はうれしいんだけどね。僕たちの家は、もうすでにここら辺にあるんだよ?」
「そうなの。王国で迫害されている異種族を、見つけては集めてしていたのよ? そうしていたら、ここに集落ができてしまったの。」
山神様が原因なのかい!
「ここいらには、以前、長い道の休憩地点として、茶屋とか、家が2〜3軒あったんだよ? 辺境伯が道ごと使用禁止令を出したせいで、放置しているけどな?」
そして、町長の指差す先には、確かに壊れかけた家があった。
ガルダ族ならともかく、リザードマンには小さいだろう。
でも、彼らに使われている様子はなかった。
しかし、目があってしまった。
家の隣の木と、目があってしまった。
何を言っているのかわからないと思うが、言葉のまま。
家の隣の木には、顔があった。
うまくカモフラージュしているつもりの様だが、普通に人型のドリアードだった。
いや、違うのか?
木は、普通にそのまま木だった。
顔が見えた部分がブレて、緑色の髪の女の子が出てきた。
どういうことだ?
「ドライアドのニースだ。話は全て聞かせてもらった。もう、迫害されたりしないんだな? ほんとだな?」
ちかいちかい!
僕の襟首を掴んで持ち上げると、至近距離でそう確認してきた。
なかなかの美人でナイスバディーだった。
いい匂いがして、ちょっとクラクラする。
「ニース、だめ。ノナカはそんなに丈夫じゃないから。死んでしまうわ?」
「え、あ、ああ。すまない。つい興奮していた。」
優しく地面に下ろしてくれた。
ドリアードだと思っていたのだが、ドライアドだと名乗っていた?
どう違うんだ?
それに、異世界ものの本では、ドライアドって、もっと木の精霊っぽいかんじで、木の部分とか、結構混ざっているのに、この子は、緑の髪の毛以外ほぼ人間だ。
分からなければ、迫害されることもないだろうに。
ああ、服。服着ようよ。
毛ブラとかでなんとか隠れている感じだけど、よく見なくても全裸だからね。
それを言ったら、ガルダ族の人もリザードマンも全裸だよね。
防具とか武器は装備しているのにね。
そういうものなのか?
「マスターのいやらしい視線を感じるのです。異種族に欲情するのは、メッなのですよ!」
「なんだか、すごくいい匂いがした。くらくらする。」
「それは、ドライアド種特有の男を虜にする匂いなのです。童貞には効果覿面なのです。早くそんなもの捨ててしまいなさいなのです!」
余計なことを。
しかし、確かにこのままではまずいな。
ドライアドと会うたびに、異常に欲情していては、身が持たない。
何より僕にだって世間体というものがある。
「レイン。確かにそうは言うが。そうそう簡単に捨てられるものでもないのだぞ? それに余計なお世話だ!」
「心配なのです。あっちにふらふら、こっちにふらふらと、いい女がいるたびに誘惑に負ける、あまりにちょろすぎるおっぱい星人のマスターのことが心配なのです!」
ああ。
確かにそうかもしれない。
この世界に来てから特にそうだ。
今まではこんなに酷くなかったはずなのに、女性に引き寄せられやすくなっている。
「レイン、変な呪いとかかかっていないよな?」
「ふぇ? そんなアホな呪い、かかる人はいないのですよ? そもそも男の人なら、特に童貞なら、誰でも女の魅力には弱くてちょろいものなのです。デフォルトなのですよ? でも、確かにそうなのです。心配なので確認するのですよ?」
そしてレイン先生は、いつも通り、両手の親指と人差し指でファインダーを作ると、僕の瞳を覗いてきた。
「深淵を覗こうとする者は、また、深淵にも覗かれるものなのです!」
それ、呪文か何かなのか?
前も言っていたよな?
ちょっとセリフ違うけど。
「呪われているのですよ? 大魔王の呪いと出ているのです。『カース』とか振り仮名がついているのです。100%厨二病の感じなのですよ?」
「何なんだ? その大魔王の呪いって? まだ、大魔王と戦ったことすらないのに、なんで呪われているんだよ? いくら何でもおかしいだろ?」
「そうなのです。でも、実際、呪われているのです。しかも、かなり残念な呪いなのです。」
「なんだよ?」
不安しかない。
きっと、そいつのせいで、エロい視線が多くなってしまったに違いない。
絶対そうだ。
「すごくアホらしいのです。大魔王は馬鹿なのですか?『アンダー80センチ』の呪いと書き込まれているのです。」
なんだよそれ。
大魔王がかけてくるくらいだから、大魔王の討伐に問題が発生するような内容なんだろうな。
そうだよな?
「心して聞くがいいのです。80センチは胸のサイズなのです。80センチ以上ある女性にかなりの嫌悪感を持たれる呪いなのです。あと、これは、あの、はずかしいので、あれです。オブラートにつつむのです。80センチ以上の女性を愛したり結婚したりできなくなる呪いなのです。」
「大魔王討伐に、直接関係なくね?」
「ここからが、この呪いの怖いところなのです。80センチ以下の女性には、無駄に好意を寄せられるのです。あとこれが一番危険なのです。ゆ、誘惑耐性が0になるのです。超ちょろい男に成り下がっているのです。あと、80センチ以上の胸を認識すると、欲情して、ガン見してしまいやすくなるのです。なんなら、触りたくて我慢できなくなるのです。残念な変態なのです。」
「いや、だからさ、それ、大魔王討伐に関係なくないですか? レイン先生?」
「大魔王は! 胸の大きな、女性なのですよ! 誘惑されたら、ろくな抵抗もできないのです! その大きな胸に抱きしめられたら、幸せになってしまうのです! 死ぬまで胸を揉みしだいているのですよ!」
残念な戦力外通告だった。
元々戦力外だったのに、なんてことだ。
じゃあ、何か。
この世界にいる間は、この呪いがかかっている間は、大岩井さんに嫌われ続けると言うことなのか。
そして、あの豊満な胸に誘惑され続けて、ガン見し続けてしまうと言うことなのか。
早く元の世界に帰らないと。
このままでは、僕のこと、さらに嫌いになられてしまう!
「大岩井嬢のことは、潔く諦めるのです。どう見ても、80センチ以上なのですよ?」
「なんで、考えていること分かったし?」
「顔が、エロくなって鼻の下が伸びていたのです。このハナゲ! なのです!」
「でもそれは、呪いのせいで?」
「元からなのです! 本人の前じゃないと効果はないのですよ!」
僕たちには危害を加える意思がないこと、別段ここに住むことに反対はしないこと、そして何より、山神様が来ているこということが伝わって、異種族の村の住民たちが、少しずつ、顔を出してきた。
住んでいたのはかなり雑多な種族だった。
彼らの説明によれば、具体的な住人は、リザード族、スライム族、ドライアド族、エレメント族、そしてガルダ族なんだそうだ。
その他にも、少数の異種族の人がいるらしいが、完全に把握しているわけではないらしい。
なにしろ、山神様がどこからともなく連れてくるのだ。
村長にも、把握は難しいらしい。
「山神様。彼らを正式な国民と認めたいので、国民タグを全員に配布したいのです。新しく連れてこられた時は、声をかけてくださいね。」
「大丈夫なの? いろいろな形の人なの。首飾りで大丈夫なの?」
「大丈夫なのです! 首飾りが不都合な種族用に、国民紋というものがあるのです! レインにお任せなのですよ!」
そんなのまであるんかい。
そんなこんなで、山神様が説明して、村の人が全員集まった。
そこで、分かったことと、不思議に思ったこと。
ガルダ族はいわゆる鳥人だ。
腕の代わりに翼がある。
なんなら、嘴もある。
そして、リザード族とはかなり仲が悪いそうだ。
エレメント族とかドリアード族は精霊の仲間なのではないだろうか?
ファイアーエレメントがメインだったが、一部何なのか分からないのもいた。
レインが、国民紋の魔法で、その本体に紋章を刻み込んでいた。
大丈夫なのかよ?
あと、スライム族は、コミュニケーションの都合で人型をとっているだけらしい。
タグは、体内に入れておけば大丈夫なので、そのままだった。
状態異常が客観的に把握できるので、とても好評だった。
この村をまとめているのは、意外なことにエレメント族なのだそうだ。
一番長生きだから、いろいろ知っているのが役に立つらしい。
今回も、僕たちのことを考えて、人前に出るの役にリザード族やガルダ族を選んだらしい。
普段もそうしているようだ。
確かにエレメント族は、眩しかったり暑かったりと、交渉には不向き。
あと、リザード族とかガルダ族が、人間に一番近いし。
いや、一番近いのはドライアドなのだけど、誘惑しても意味はないからね。
されたけど。
それに、ドライアド族とスライム族は、うっかり人前に出ると討伐されかねない。
なるほど、こいつら苦労しているんだなと。
村人は、総勢100名ほど。
嬢王国の立派な村として認めた。
村長は、エレメント族の中でも光のエレメントに属する、エナジナーという人だった。
年齢を聞いたら、怒られた。
見た目は若い綺麗な女性の姿だった。
すごい光っているけど。
そして全裸だけど、もちろん、大事なところが見えるわけではない。
ちなみに、山神様がこっそり教えてくれた。
女神様と同じくらいとか言われたので、やっぱり精霊なんじゃないだろうか。
いつも通り、ここにも駅を作った。
貨物駅だった。
早くレベルを上げて、旅客駅を作れる様になりたい。
そして今、ウーバン炭鉱とガーターの町そして異種族の村は線路で結ばれたのだった。
異種族、というものを真面目に考察すると、結構危険です。
東方見聞録とかに載っていた異種族は、実際のところは色眼鏡を通して見た異国人のことなのではないでしょうか。
そう考えてしまうと、案外わかりやすくもあり、安易に扱えないものでもあります。
民俗学的に、興味は尽きませんが。
さて、ガーター辺境伯領編もあと少しです。
線路も着々と繋がっていきました。
普通に考えたら、こんなにすぐは絶対に繋がりませんよ?
山賊団、どれだけいい勢いで鉄鉱石産出してんだよって話ですし。
とりあえず、あと少し。
大魔王に誘惑されて、執筆どころではなくなっていなければ、明日の12時頃に。
訂正履歴
鉱山とかのの社長 → 鉱山とかの社長