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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第5章 辺境じゃないですから!
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第62節 ガーター本線

「〇〇本線」っていう言葉の厳密な定義はよくわかりませんが、なんか他の線区よりはすごいんだぞって感じかしますよね。

幹線というくらいの意味なのでしょうけれども。

そんな、幹線を作るぞと、みんなで協力して作るぞと。

今回はそういうお話です。

それでは、どうぞ。

「ガーター駅」


 その駅には、そう書かれた駅名標が立っていた。

 またしても貨物駅だが、すでにレベル1。

 ガーターの町の北の端に作った。

 ここから、ウーバン鉱山への使われなくなった旧道が伸びていたからだ。


 旧道を鉄道で占有して使う許可は、町長からもらった。

 国が決めたことだから、町は従うのみと言っていたが、一応、可否は確認しておいた。


 そして、旧道の入り口付近から、少しだけ線路を引いて、手持ちの資材で、ロッコがトロッコを作った。

 大盛況だった。

 ロッコが大人気だった。

 流石に職人の街。

 ロッコのような専門技術者は、持て囃されていた。


「ろ、ロッコさん。ぜひ、我が工房に!」

「いや、お前んとこじゃもったいねぇ、おれの工房に来な! 悪いようにはしねーから!」

「ぼ、ぼくのお嫁さんに!」


 一部、違う意味で求められていたが、全て却下した。

 ロッコが。


「ん。勘違いしている。ロッコは精霊。レイン様の配下。勝手に所属を変えられない。」


 そして、みんな、レイン様を見て諦めた。

 だって、山道でモンスターが出るたびに爆破するから。

 みんなビビって近づかなくなってしまった。



 線路の作り方をラストが説明すると、町民総出で手伝うといいだした。

 みんなでがんばれば、一週間かからないとか言い出している。

 まあ、みんな職人だからな。

 拘らなければ大丈夫だろう。



 そう思っていた時期がありました。



 職人は、みんなラストのいうことを聞いて、従順に仕事をしていました。

 初日だけでも、ガーターから4キロメートルは線路を引けてしまっていました。

 資材の運搬効率が悪いので、明日からは鉱山側から線路を伸ばすことになりました。

 鉱山から資源を回収する必要があるからです。


 山賊団が、相変わらずいいペースで採掘していたので助かりました。

 そして、いつもどおり、ガーター町民ともめる山賊団。

 おまえらどんだけトラブル作ってきてんだよ?



 その日のうちに、職人たちの手で旧道自体はきれいに整備された。

 鉄道なのでもう少し真っ直ぐにしたいところは、マインウルフたちが魔法を使って岩盤を削り取っていた。

 道を横切る川とか滝とかもあったが、橋じゃ弱いので、地下に大きな穴をくり抜いてそちらに水を流すとかいう暴挙に出ていた。

 魔法技術、細部まで使えるように上達していた。


 そんなこんなで大量の岩石をゲットしてしまった。

 それが、今回の大量のバラストの原料となったのは言うまでもない。

 バラストだけは、2日目にして、全ての区間において敷き終えていた。


 2日目は、3キロくらい、ガーター本線となる線路を伸ばしていた。

 でも、起点となる場所は山賊団アジトとウーバン村との線路の交点にしていた仮駅だった。

 ここから延々と3キロ。


 ついでに、9階層と山賊団アジトともつなげた。

 鉱石の運搬効率が格段に上がった。


 ガーター本線は、その起点からガーター駅まで18キロくらいの道のりになる予定だった。

 結構長いのだ。


 でも、鉄路なら、足漕ぎをがんばれば1〜2時間で到達する。

 今回は、ほとんど平坦な線路なので、流石の親分もヒャッハーできない。

 はずなのに?


「ひゃっはー! さ・い・こ・う・DA・ZE!」


 平地でもスピード狂だった。

 親分の運転を甘く見ていた。

 しかし、親分の仕事もそこまで。

 鉄鉱石と石炭は、ウーバン鉱山駅の保線基地に運ぶように怒られていた。


 現地で渡されても、ラストがいれば魔法でレールにできるけれども、いない時は意味がない。

 保線基地なら、山積みしておけば、レインがいる時にいっぺんに大量生産できる。

 効率の問題だった。

 あと、保線基地からレールとか枕木とかを電動車で運ぶと、ヒャッハー的スピードにならないので安全だった。


 運転するのはロッコだったので、なお安心だった。

「ロッコさん、今度、デートしませんか?」

「おめっ、抜け駆けは許さん!」

「じゃあ、じゃあ、僕と!」


 ガーター町民は、ぜんぜん諦めていなかった。

 ことあるごとに、ロッコとラストに粉をかけるようになっていた。

 いつの間にか、非公式ファンクラブができていたらしい。

 なお、両方とも会長は町長だということを後で知りへこんだ。



 順調に進んでいるように思えた、3日目の午後、問題が発生した。


「ま、マスター! まずいのですよ! 山神やまのかみに見つかってしまったのです。きっと激おこなのです!」

「どこにいるんだ?」

「こ・こ・で・す!」


 つま先を踵で思いっきり踏まれた。

 目の前にいた。

 レインが顔にはりついていて見えなかった。

 地味に痛かった。


「あなたたちは、懲りもせず、また、自然破壊を始めたの? いっぱい木を切り倒して。」

「すまない。線路を引いていた。」

「知っているわ。でも、切るなら一言断って欲しいの。あと、大量に必要なら、切って欲しい木が大量にあるの。そっちを切って?」


 山神様やまのかみさまは、幼女の形をされたウーバン山脈の精霊で、北の帝国では国教の崇拝対象とすらされている、顔の売れている精霊というか神様だ。

 もちろん、その性質上、自然破壊をすると激おこである。

 神罰を下されても不思議じゃない。


 しかし、今回は意外な申し出があった。

 木を大量に切り倒してもいいと。

 どういうことなのだろうか?



 山神様に連れてこられたのは、鉱山の9階層を通り抜けたコソナ側。

 その広大な森だった。


「ここの木の中で、ちょっと紫がかった、瘴気を噴き出している魔物になってしまった木がたくさんあるの。この森には魔族が住み着いてしまっているから。だから、切って? こんなことできる人たち、あなたたちだけだから。」


 ていのいい魔物討伐だった。

 あれだろ、木の魔物退治なんだろ?

 しかも、他の木と比べて守備力高めだから、枕木としては、よっぽど好都合なんだろ?

 山神様やまのかみさまグッジョブだな。


 そして、魔物狩りが始まった。

 全ては、伊藤さんとその配下であるゴンザレスたちが担当した。

 岩石系魔法で、何とかなっていたのがびっくり。

 まあ、絶対大地に根、というか足というか伸ばしているからな。

 効率的かつ効果的だった。


 そして、討伐した大きな魔獣の木を、ガーター町の木材加工の職人たちが、簡単に枕木に加工していった。

 それを、鉱山の出口まで運ぶと、あとは、親分がヒャッハーしていた。

 最初は調子に乗ってそのままガーター本線の最先端部に運んだのだが、ロッコにシメられていた。

 信号機がないので、突入したら事故になるからだ。


 親分は、9階層から3階層まで頑張って木を運んでいた。

 そのまま運べば高低差ねぇのにと、愚痴っていた。


 ラストが、枕木の品質に問題がないことを確認したので、元アジトの分岐点の仮駅まで持ってくればいいよと伝えたら、ヒャッハーしまくっていた。

 4日目の昼頃には、枕木は全部敷き終わったので討伐の必要は無くなったのだが、山神様やまのかみさまは許してくれなかった。

 全部討伐してって、無理を言ってきたので、無視した。

 どんだけいると思っているんだよと。


 あと、自分たちが住みやすいように、瘴気を放つ魔物の木にしたはずなのに、どんどん伐採されていくので、魔物や魔族たちも気がついて激おこだった。

 木を切るのはやめにしたのに、今度はそいつらとの戦いに伊藤さんたちはうんざりしていた。

 でも、ゴンザレスの息子たちは、レベル上げになると喜び励んでいた。

 もうすぐ20レベルになって、エルフになれると期待して。


 こいつらは、かなり重症な伊藤さんのファンになっていた。

 自分たちは完全に騎士なんだとそのつもりになっている。

 だから、エルフになって、騎士のコスプレをしたいようだった。

 ラストと本質的に考え方は一緒だった。


「それで、あなたは、なんで、ここに、線路を、引いているの?」


 山神様やまのかみさまに足を突かれながら、そんな疑問を投げられた。


「いや、最近めっきりダメになったガーターの町を復活…。」

「だめ。あの街は、そのままダメになったままでいいの!」


 被せるように断言してきた。

 ガーターの町、かなり嫌われているな。

 どうしてなんだ?


「あの町、何かやらかしたのか?」

「そうよ。去年あたりから、汚染物質を垂れ流すようになってきたの。」

「でも、去年あたりから、そもそも資源が枯渇して、活動できていないって話なんだが。」

「だから、汚染物質を垂れ流したの。汚染させないためにも、資源が必要だから。」


 まじでか。

 どういうことだ?


「たとえば銅製品。精錬するのにどうしても鉱毒が発生するわ。でも、今までなら、それを垂れ流す前に、池とかオケとかで汚染物質を沈澱させてから、川に流していたの。でも、今はそんなことしないでそのまま流しているの。信じられない!」


 激おこだった。

 以前は行っていた対策が、今は行われていない。

 これは、普通に考えておかしい。

 そこで、町長にどういうことなのか確認することにした。


 山神様やまのかみさまがそれを知って、離してくれなくなった。

 レインが激おこ。

 精霊同士のバトルが体の周りで行われていた。

 はっきりと迷惑だった。


 それはそれとして、町長を見つけた。


「どういうことなの?」


 最初に山神様やまのかみさまが、町長に詰め寄ったのだが、何のことだかわからない。

 当たり前だ。


「町長、一つ聞いていいかな?」

「なんじゃ? 山神様やまのかみさまがらみか。難しいことは知らんぞ?」

「汚染物質垂れ流しの件だ。」

「それは、知っておる。じゃが、おそらく数日で解決するじゃろ。そんなことをした馬鹿者たちは、各生産者ギルドが締め上げておいたからの。」

「どういうことだ?」

「あの魔族の仕業だったんじゃ。今になって思えば、山の環境を悪化させて、山神様やまのかみさまの力を削いで、魔族が住みやすい環境を作ろうとしていたんじゃろうのう。あっさり失敗しおったが。」


 事情を知らない山神様やまのかみさまがキョトンとしていた。


「ノナカ? どういうことなの?」

「町長?」

「先日、初めてガーター町に来られたときに、レイン様が村に入り込んでいた魔族を発見して、その存在を魔法でBANしたんじゃよ。それで、酒場を開いていたそいつが魔族だったということが分かったから、生産者ギルドが調査したんじゃ。結果として、汚染物質垂れ流し野郎たちを発見できた訳じゃ。」


 つまり、魔族に唆されていたことと、お金を渡されて、環境を悪化させていたことと、どちらもが悪だった。

 そして、魔族は、そういう直接的ではなく間接的な攻撃によって損害を与えてくる傾向が強くなってきているようだった。

 正攻法で来いよ! 面倒臭い!


「もっとも、それより前から、ミャオー町の領主のせいで、原料価格が上がってな? 一部の心ない職人たちが、元から廃棄物とか廃水をきちんと処理しなくなっていたんじゃよ。ギルドは頑張って指導しておったんじゃがのう。今後は、もう大丈夫じゃ。少なくとも廃水は、共同で処理することになった。個人でやっても効率が悪いと、ラスト様に言われたんじゃ。」


 そこで、一番忙しいはずのラストの名前が出たことに、違和感しかなかった。

 ラストは、あの町で何かをしようとしてはいまいかと。

 廃水を集中して処理するのは、現代版下水道とかと考え方は一緒だ。

 それは、理解できるし、とても効率的、効果的ですらある。

 しかし、違和感があった。

 なぜ、レイン先生ではなく、自称精霊騎士ラストの発案なのかと。



 ガーター町の方では、山神様やまのかみさま監修の元、大きな沈澱池とか、下水処理施設が急ピッチで製作されていた。

 ここでも、マインウルフ軍団が活躍していた。

 こちらにきていたのは、大岩井さんの方の手下たち、というか、もと人間軍団だった。


「大物を手伝うと、経験値がたくさん手に入って、その分だけ早く、エルフになれますよ?」


 そう、唆されたらしい。

 というよりも、大岩井さんがそう唆している場面を何度か見てしまった。

 本当なのだろうかと問いたい。問い詰めたい。

 たぶん、嘘なんじゃないかなという不安があるからだ。


 この沈澱池もそうだが、以前に発生していた汚染物質垂れ流し事件の際にも、山神様やまのかみさまがいろいろと手を下していたらしい。

 自分の能力に関わることだから、それはもう真剣になるだろう。

 ここ数年のガーターにおける環境悪化については、山神様やまのかみさまが直接なんとかしていたらしい。


 もし、そうでなかったとしたら、そもそもガーターの住民が死に絶えていたとのことだ。

 生きていくには水が必ず必要だが、町の井戸から十分に人の死ぬぐらいのレベルで汚染物質が入り込んでいたらしい。

 周辺の山についても、いつ禿山になってもおかしくない状態だったそうだ。


 コソナの国境付近にある膨大な広さの森には、じわりじわりと魔族や魔獣、魔物が住み着き、着実に増加傾向にある。

 そこに、汚染物質を垂れ流すとか、火に油を注ぐようなもの。

 絶対にしてはいけないことだった。


山神様やまのかみさま? そんなに人前に出られてもいいたちばなのですか?」


 不思議になって聞いてしまった。

 曲がりなりにも神様なのであれば、そうそう、人前に出るべきではないのではなかろうか。

 自分自身ともいえる、ウーバン山脈の環境を守るためとはいえ、全面に出て良いものなのか。


「いいの。みんな喜んでるから。みんなの幸せが、わたしの幸せなの。」


 はかない、それでいていい笑顔で答えてくれた。

 ちょっと、キュンときた。

 お持ち帰りしたいくらいだった。

 まあ、相手はほぼ神様だ。

 そういう無理とか無茶はしない。


「北の帝国では、普通に町の中を歩いていることもあるの。でも、最近は……。」


 ちょっと歯切れの悪い山神様やまのかみさまだった。



「社長! レイン様も! 大変ですじゃ! トラブルですじゃ! 線路を引くのを妨害されているんですじゃ!」


 町長が、ガーター駅の駅務室に慌てて走り込んできた。


「どうしたの?」


 返事を返したのは山神様やまのかみさま

 町長はキョトンとしてしまったが、すぐに復活して続けた。


「なんだか、魔物だか、魔族だか、よくわからない奴らなんじゃよ? やばいんじゃよ!」


 そして、駅前に置いてあったトロッコに乗ると、町長とレインと山神様やまのかみさまを乗せて、現場に急行するのであった。

新線を作っているときに、トラブルはつきものですよね。

トンネルを掘れば、水が吹き出してきたり、ガスが吹き出してきたり、土砂が吹き出してきたり。

法面工事をしていれば、雨が降って土砂崩れを起こしたりと。

ふんだりけったりだったりしますよね。

魔法のある世界で、同じようなことをしたらどうなるのか。

そんなことを裏テーマにしながら話を作りました。


トラブルは、どうしたって怒るものですが、歓迎されるものでもありませんしね。


それでは、何もトラブルがなければ、明日の12時ころに。


訂正履歴

 沈殿曹 → 沈殿池(※誤字指摘感謝いたします。)

 たちば → 立場

 排水 → 廃水(※誤字指摘感謝いたします。)

 あたなたち → あなたたち(※誤字指摘感謝いたします。)

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