第61節 ガーター高原へようこそ
RPGとか異世界ものの小説は、どうしても旅が多くなります。
そうすると、あたらしい町や村、なんなら城とか洞窟とか塔とかにでくわします。
新しい場所をマッピングして、ここは、こういくといいかなとか考えている時がとても楽しいです。
テーブルトークRPGとかだと、特にそうですね。
そして、ゲームマスターの性格の悪さを呪ったりするのです。
今日は、そんな感じのお話です。
それでは、どうぞ。
オールドガーターは海沿いの街でもあり、高台の上にある高原の街でもある。
実際に見てみないことには、なかなか説明の難しい作りだ。
貿易のために、貿易の街コソナへ向かう荷馬車が、この街を通過することはほとんどない。
そもそも、馬車が通れる道がないからだ。
コソナの町との高低差が、少なくとも500メートル以上ある。
海沿いの断崖絶壁。
それがこの街の特徴だった。
貿易の街コソナには、大きな港があるという話だった。
これは商工会の会頭から聞いた話であって、今回は用事がないので行くことはない。
コソナにある港湾の街は、ナニーコソナと呼ばれているそうだ。
ナニーコソナとゴールドコソナは、荷馬車が頻繁に行き交う、そういう関係の街だった。
ここにこそ、ラスト引くべき線路が必要そうだが、今はその時ではない。
このままでは潰れてしまうとも商工会から警告を受けたガーターの町を立て直すのが今回の課題だ。
解決策はあった。
要は、資源を確保できればいい。
もともとは、コソナ金山と、ウーバン鉱山の鉱石と石炭をフル活用していた町なのだから、元に戻せばいい。
ウーバン鉱山は、取り戻した。
だから、ここまで線路を引けばいい。
コソナ金山はあとで制圧しに行こう。
予定としてはこうだ。
1 とりあえず、オールドガーターに向かう。
2 オールドガーターの様子を見る。
3 ガーター町の町長と、新しい国になったことについて話をつける。
4 ガーター町とウーバン鉱山をなんとか線路で繋ぐ。
5 コソナ金山を制圧する。なんなら、マインウルフを回収する。
6 コソナに鉄道網を作る。
なんとも忙しいことだ。
このことについては、歩きながら話し合っていた。
しかし、途中からそれどころではなくなっていた。
かなりきつい登山だった。
海抜ほぼ0メートルのゴールドコソナから登り始めた。
そこから、見えてはいても遥かに遠いオールドガーターに向かってひたすら登っていくのだ。
無理。
途中で挫けそうになった。
所々、使っていないので木が倒れていたり、草は枯れているけれども草が生い茂っていた跡が道を塞いでいたりと、簡単ではなかった。
なんなら多少なりとも魔物まで出る始末。
少なくとも、レールを使う鉄道では無理な感じだ。
「流石のラストも、ここに鉄道を引こうとは思わないんだろ?」
「バカかマスターは。こんなところこそ、鉄道の出番じゃないか。こんな不便なところ、鉄道で結んでやれば、どれだけ経済効果があると思っているんだ?」
いや、それは正論なんだが、鉄道は傾斜に弱い。
それもかなり弱い。
こんな、ずっと階段を登っているような、そんな山道に鉄道は引けないだろ?
「この傾斜、パーミルじゃなくて、パーセントとかのレベルだぞ?」
「だからこそだ! 登山鉄道とか、ケーブルカーとか、ロープウェイとか、いくらでもあるだろ?」
「ん、トロッコ?」
「あ、ああ。それは、すまないが無理だ。簡易型のロープウェイで、トロッコ型の車両を使うこともあるけど、実質無理だ。ロッコには悪いが、そこは諦めてくれ。」
そして僕は思わず突っ込んでしまった。
「いや、それをいうならラストだって、スキル的には無理なんじゃ。」
「レベルを上げる! 修行して新しい技を会得するんだ! ロッコは、トロッコだけだから無理だけど、ラストは、修行して、新しい技を!」
ラストは自称精霊騎士なのだが、結構夢見がちなところがあった。
自分の能力を過大評価することもしばしば。
「まずは、地道にレベルを上げような。」
「もちろんだ。」
「ン? マスター? ロッコは? いらない子?」
「いや、港の方で、腐るほどトロッコが必要になるはずだ。何しろ船とのやりとりがあるらしいからな。」
とりあえず、役に立ちたいという気持ちはわかった。
それは、でも、一旦帰ってからな。
山を登り切った時に、一番元気だったのはレイン先生とマインウルフ軍団だった。
レイン先生は飛んでいるだけだし、マインウルフ軍団は、何事もなかったかのように山道を踏破していった。
ロッコに至っては、途中からゴンザレス(マインウルフ姿)に乗せられていた。
伊藤さんもマインウルフに乗ろうとして、こっぴどく怒られていた。
嬢王様あつかいしろとかいろいろ抗議していたけどそれはダメだろう。
結局、今、僕の隣で大の字になって寝っ転がり、はぁはぁしている。
全然エロくないけどな。
伊藤さんの暴挙に対して、ゴンザレスが体重のことを言ってひどい目にあっていた。
それについては感知しない。
とばっちりを受けたくないから。
みんな疲れてガーターの町入り口の芝地で寝っ転がって息を整えていたら、声をかけられた。
「お前さん方、どこから来なすった。こんな何もない高原に。」
目の前にはドワーフみたいななりの、背が低く恰幅のいい爺さんが、手を後ろに組んで立っていた。
「あ、ああ。失礼。ゴールドコソナから歩いて登ってきた。休憩させてもらっている。」
「そうじゃろう。そうじゃろう。この山道は、きついからのう。すくなくとも、攻め込まれたことは今まで一度もないそうじゃ。意味がないからのう、こんな何もないところにはの?」
「職人の街と聞いて来てみたのだが、違うのか?」
「昔の話じゃ。今じゃ、ただのダメ人間の集まりじゃ。資源がなければただの偏屈集団以外の何者でもないのじゃよ。」
ああ。
なんとなくそんな感じがしていた。
ここから見える、閑散とした街並み。
見るからに荒れていた。
草は伸び放題。
壊れた家や柵はそのまま。
そして、そこらじゅうにガタがきていた。
そして、一箇所だけなぜか活気のある場所を見つけた。
おそらく、酒場だ。
ああ、飲んだくれているのか。
ダメ親父たちの基本だな。
酒に逃げるくらいしかできないよな?
でも、その酒はどこからくるのだろう?
「あの、活気のあるところは?」
「ああ、わかるじゃろ? 酒場じゃ。」
「どうやって酒を調達しているんだ? ここじゃ酒も作れないだろ?」
「酒場を経営している親父は、去年くらいからこの街に住み始めたんじゃが、どこからともなく仕入れてくるのじゃ。不思議なのじゃ。」
「いや、絶対に怪しいだろ、そいつ。その酒も十分に怪しいだろ?」
「酒に罪はない。」
すごいいい顔で遠くを見つめていた。
いや、だめ。
誤魔化されないよ?
「ちなみにあなたは?」
隣から伊藤さんが口を挟んできた。
「この町の町長をしておる。名はランジェリオンじゃ。これでも服飾職人をしておる。服飾関係は、あんまり廃坑の被害を受けておらんからのう。」
「職人の街というから、てっきり武器職人とか木材加工職人、窯芸職人ばっかりを想定していた。そうか、服飾職人もいるのかよ。どんだけ職人集めた町なんだよ。」
どう見ても異世界で鍛冶屋をやっていそうな感じなのだが服飾とは。
防具専門とかじゃないよな?
騙されていないよな?
「雑多な職人が集まると、新しいものの開発とかには便利なんじゃよ。まあ、出会ってはいけない技術と技術が合わさって、危険で奇抜なものができたりもするがのう。」
「たとえば?」
「わしの作った、魔法の効かない服なんかどうじゃ?」
まじかよ?
魔法抵抗100%ってことか?
この世界じゃ、最強なんじゃないだろうか。
「どんなだ?」
「これじゃ。」
そういって、一旦近くにあった自分の家に戻ってからカバンを持ってきた。
そして、ひらくと、中には何も入っていない。
「どうじゃ?」
「いや、何も見えないんだが。」
「そうじゃろう? 見えないのが難点なんじゃよ。あと、この装備をつける時には、この装備の下には何も装備できんのじゃ。下着もじゃ。」
「だめじゃん。」
「仕方がないのじゃ。魔法の力を繊細にコントロールするのに、どうしてもこうせざるを得なかったんじゃ。じゃが、効果は100%じゃ。炎じゃろうが氷雪じゃろうが、それが魔法の力でできておるのなら、この服の表面で消滅するのじゃ。」
町長が持っているふりをしている可能性も考えて、触ってみることにした。
外側は、ファーに似た感触だ。
それが外側すべての感触で、すごいもふもふした触りごこちが気持ちいい。
ずっと、触っていたい感じだ。
内側は、シルクのような触り心地で肌触りがいい。
下着をつけないことに配慮した、とてもいい作りだった。
無駄にいい仕事しているなと感心してしまい、はっと我に返った。
「技術の高さは素直に認めよう。だが、裸族以外は着てくれないぞ? なんなら、この着心地なら裸族にも嫌われるぞ? 無駄に着心地良さそうな肌触りだしな。」
「せめてそこだけでもと、頑張ったのじゃ。」
「いや、せめて、目隠しができるようにがんばれよ。恥ずかしくて着れんわ、これ。」
「ちなみに、これ、女物なのじゃが。お主には恥ずかしくて着れんのう。」
そこじゃねーよ!
恥ずかしいポイント、ぜってーそこじゃねーし!
「町長、僕たちは町長に伝えなければならないことがあってきた。」
「なんじゃ、いきなり改まって。この服ならやらんぞ? わしの最高傑作じゃ。」
「違うんだ。レイン!」
「了解なのです。町長さんには、結構重大ニュースなのです。この町、サッシー王国の支配下から外れたのです。新しい国は、ヨーコー嬢王国なのですよ? 税制とか、かなり楽になるはずなのです。」
町長は、キョトンとしていた。
「いや、そうか。だがじゃ。前も特段、税金を徴収する以外に国は何もせんかったがのう。」
「そうなのです? 今度の国は、税金の徴収も少なくて分かりやすいのですよ?」
「なんだと?」
「ちなみに、町長さんのこの街でのお仕事は何なのです?」
「住民の管理じゃ。誰がどこに住んでいるのか確認して、税金をかける、徴収するお仕事じゃ。」
町役場の仕事は、どこでも一緒か。
人の管理と税金の徴収。
あと、町の管理。
これに、お金を注ぐかどうかは、街によって異なる。
「それでは町長さん。1時間後に新しい国の説明会をするのです。どこか広いところに全町民を集めて欲しいのです。おまけで、オークション方式で、石炭と、鉄鉱石を売りに出すのですよ?」
町長の目の色が変わった。
「なんだと? 貴様! もう一度言ってみろ!」
「1時間後に、」
「そこじゃない、おまけで、の後じゃ!」
「石炭と、鉄鉱石を売るのですよ? ここではかなり必要なはずなのです。手持ちがあるので売るのですよ。新しい国の運営資金にするのです!」
「本当にあるのか?」
「はいなのです。空間魔法なので、たくさんあるのですよ?」
そして、ちょこっとだけ取り出して見せるレイン。
「まじか! 急いで集めてくる。新しい国サイコーじゃな!」
1時間後、場所は町の入り口。
1時間と言わず、10分かからず全員が揃ってしまった。
酒場のマスター以外は。
ちなみに、酒場のマスターも渋々来たのだが、いきなりレインに存在をBANされた。
魔族だったということだ。
こんなところから、絡め手で攻め込んでくるのかよ。
おそろしいな、魔王軍は。
「それでは、説明会を始めるのです!」
大盛況だった。
見せ金ならぬ、見せ石炭と鉄鉱石。
効果抜群だった。
ちなみに、両方とも、一山取り出して見せているからだ。
そして、伊藤さんが新しい嬢王として君臨することを紹介した。
男ばかりのこの町では、ここでも喝采を浴びていた。
なんだかんだいって、ちょっと照れている伊藤さん。
頬を染めている姿が、かわいい。
いつもとくらべたらな?
次にレインが、税制について説明した。
人頭税の廃止とか、所得税の廃止は理解された。
やはり、質問が出た。
税収がほとんどないだろうと。
そこで、国営企業の話をした。
ウーバン鉱山を国営で運営して、その利益が税金の代わりになると。
鉱山鉄道を運営して、その運賃が、税金の代わりになると。
あまり、納得されていなかったので、追加した。
この後、コソナ金山を制圧すると。
魔物を排除して、金山として活用すると。
もちろん国営で。
そこで、理解された。
税収多すぎじゃないかと。
そんなに金が産出されるの?
小規模、ごくごく小規模って聞いていたんだけども。
あらかたの説明が終わって、精霊3人が手分けして、国民タグを配った。
精霊が首にかけると、自動的にタグが反応して、必要事項が書き込まれる。
ちょ、高性能化していませんか?
配布した結果、この町には486人の住民がいたことがわかった。
思ったよりも少ない。
町というのだから、千人は超えていると思ったのに。
今日のメインイベントがやってきた。
「これから、石炭の入札に入るのですよ? 嬢王陛下の設定した最低価格よりも上、最高価格よりも下で値段を設定するのです。一番高く買った人に売るのですよ?」
「設定価格は?」
「公表しません! 大体、市場価格の半分から2倍までの間なのです。暴利を貪るつもりはないのですよ?」
「ひゃはー!」
会場は荒れたが、10kg単位を石炭と鉄鉱石でそれぞれ5回ずつ実施した。
入札できた人は、ほくほく顔で、確保していた。
「もっとないのかよ!」
「いい武器いっぱい作ってやるからよう、石炭くれよう!」
「ひゃっはー! これでこの町も復活するぜ!」
狂喜乱舞とはこのことだろうか。
「皆さんに相談があります。」
風紀委員として鍛えた、凛とした通る声を発せられた。
伊藤さんだよ?
「私たちは、ここからウーバン炭鉱まで、直接石炭などを運搬したいと考えています。最短ルートかそれに近い抜け道を知っている方がいれば、教えていただけませんか?」
攻め込まれたことのない地域ということは、海からのことだろう。
山側は、先日も、ミャオー町からの避難民が来たくらいだ。
あの町が落ちることは計算外なんだろうな。
「いいのかよ? ミャオー町を通らねぇルートは禁止されてんだぜ?」
「誰にですか?」
「ミャオー町にいる、ガーター辺境伯にだよ!」
「討伐しました。ですから、気にしなくて結構です。」
「まじか! これで、この町もはじまったな!」
なるほど。
商業の街とはよく言ったものだ。
あの町で、ウーバン鉱山とオールドガーターから中間マージン取りやがっていたんだな。
そうだよな。
儲かるよな、それ。
「では、直接の道が、以前は存在したのですね?」
「そうじゃ? ここと、ウーバン鉱山はのう、ほとんど標高かわらぬからの。道は曲がりくねっていおるがの? 高低差はほとんどないぞい?」
脇でおとなしくしていたラストとロッコが反応した。
「マスター! こっちが最優先だ!」
「ま、そうなるはな。」
「ん。ロッコも頑張る。」
そして、町長自ら、その廃路を説明してくれるのだった。
昨日はたくさんのPV、ありがとうございました。
後書きのコメントで気を使ってくださったのでしたら、ごめんなさいです。
あと、評価ポイント下さった方にも、感謝を。
だいぶんやる気を充填できました。
さて、長い階段を登るのはとても大変です。
でも、降りるほうがもっと大変です。
コロナ禍の中なので、東京タワーの階段部分とか、しばらくできないのでしょうけれども、階段は大変です。
その点、ロープウェイとか、ケーブルカーは優秀ですね。
いろいろなところで乗ることができますが、それでも近年は減少気味なんだとか。
それでは、階段で足がかくかくになっていなければ明日の12時頃に。(投稿予約済みですが)