第60節 貿易の街 コソナ
コロナが全国的に大変なことになっています。
一番大変なことになっているのは、医療現場ですね。
医師は、学力も体力も高い人間が選抜されてなっているので、簡単には倒れませんが、今回ばかりはそうも言っていられません。
担当している病院から、クラスターが、とか報道されていますが、報道側での心配事は、国民の心配事として報じられる、新患者の受け入れ先があるのかどうか。
すでに入院している患者の移送先があるのかどうかです。
現場の医療関係者の心配はされないんですよね?
完全に防護服を着装している医療関係者でも、当然ご飯は食べますし、排便もするのですよ?
今回は、そういう、ちょっと視点を変えてみてみてはいかが?
というのがテーマのお話です。
話自体は簡単に見えますが、ちょっとうがって読んでみて下さい。
行間に、いろいろ詰め込んでみました。
それでは、どうぞ。
ゴールドコソナ入り口の門で、門番の兵士に町長の居場所を教えてもらった。
コソナの街が、ヨーコー嬢王国になったことを正式に伝えるためだ。
そして、町の人々に周知させなければならない。
税制も変わり、若干生活も変わる。
何より大きく変わるのが、国民タグと異種族との交流だ。
サッシー王国では、人頭税を取っていた割には、その管理は結構杜撰だった。
ウーバン村の村長から聞いた話では、男子に課税するとかいうので、登録上の女子が結構いるらしい。
とっても簡単な人頭税逃れだった。
でも、国民タグシステムは、それを許さない。
そもそも人頭税とらないしね。
国家の商売とかで十分に賄えるよ?
国営の鉱山と鉄道があるからね。
ここまでその仕組みでやってきて、そんなに税収はいらないと思っていたのだけれども。
ゴールドコソナの街並みを見て、考え方を揺さぶられた。
今まで見てきた中で、一番に発展している夜の街並みを見て圧倒された。
石畳の道路に、石造の家が並ぶ。
なんなら2階建てが多い。
商店も多くて、店の前には、服とか食品とか、とにかく多くの商品がディスプレイされていた。
単純に、元の世界のヨーロッパの古い街並みそのままかもしれない。
そこまでゴールドコソナは大きく発展した街だった。
メインストリートがそうなのだからと進んでいくと、道路沿いに市が開いていた。
「貿易の街」とはよく言ったものだ。
北の帝国から砦を通過してやってきた商品。
王国の南部やそれよりも遠方からの商品。
もちろん、この国での商品も集まる。
それらが市場では高値で取引されていた。
自然と人が集まり、税収もよく、建物をはじめとするインフラも整備されている。
山から温泉じゃない川も流れているようなので、水にも困らないいい街だ。
ただ、よく見てみると、衛生環境は良くなかった。
メインストリートからちょっとでも路地を入ると、とても汚く臭い。
汚物がそこらじゅうに散らかっている。
あと、ゴミの山、浮浪者の巣窟になっていた。
光あるところには、闇もまた、存在するといういい例だった。
メインストリートをそのまま道なりに進んで行くと、商店が少なくなりさらに大きな建物が増えてきた。
教会とか、冒険者ギルドとか、王国騎士団の出張所だとか、そういう施設が集まっていた。
その中心部分に、町長の仕事場、町役場的な施設が存在した。
その街で一番高い建物に着くと、入り口で兵士が待っていた。
やはり、先程の伝令に使われていた、伝令ソラメという空色の小鳥がいた。
兵士の兜に乗っていた。
念話で、ついてこいとか言っている。
もちろん、兵士の方も普通に話が通っているのでついてくるように言われた。
その先導で、役場の中を町長の部屋まで連れて行かれる。
役場の建屋、てっぺん付近に町長の執務室があった。
金色の刺繍をあしらった臙脂色のカーテンとか、金色の金具をあしらった入り口の扉とか、とにかくゴージャスな感じの部屋だった。
兵士は、此方ですと言ってドアの中に誘導した後は用済みなのか、下がって行った。
目の前には、成金趣味で宝石をたくさんつけた油ぎった男が鎮座していた。
幅の広いテーブルは、事務に使われている形跡はない。
机の上には書類の代わりに、たくさんの妖艶な美女をエロい衣装で侍らせていた。
「伝令から話は聞いているよ。君たちが新しい国の王様とその手下なんだってね。」
第一声は、耳障りのいいやさしい声だった。
内容は、どうかとも思ったが、実情を知らなければそんなものだろう。
「そうなのですよ? 町長には、街の人たちに周知徹底させて欲しいのです。」
「あと、国の仕組みが結構変わりますので、その説明もします。」
精霊レインが切り込み、嬢王陛下になった伊藤さんがそれに続いた。
「まあまあ、そうあせらないでください。どちらにしても今日はもう遅い時間です。まずは一席設けましたので、夕食としましょう。そこで、詳しい話も。」
そう言われて僕たちは、食堂へと案内された。
煌びやかな部屋、豪勢な食事、そして、先程の美女たちがエロい衣装のまま給仕についた。
下着とかチラチラ見えて気になってしょうがない。
せっかくの美味しいはずの食事だったけど、味が全然わからなかった。
そんな中、当然に影響を受けるはずのないレインと伊藤さんが説明をしていた。
「なるほど、わかりました。そうですね、一つだけ。というよりも、2つになりますね。」
ワイン的な赤い酒なのだろう液体の入っているワイングラスを片手にそう言ってきた。
「それさえ飲んでいただければ、この町を嬢王国の一部として認めましょう。」
「いえ、お分かりではないようなので。既に、嬢王国の一部とはなっているのです。あなたに求めているのは、その広報です。」
「ですから、私が広報しなければ、実質的には、まだここはサッシー王国のまま。国民が誰も知らないのですから。」
こちらの町長も、一筋縄では行かなさそうだった。
「条件は2つです。
1つ目はわかりやすいですが、私に町長を続けさせて欲しいということ。
もう1つは、町には街としての機能を維持するための課税権を与えて欲しいのです。」
とてもわかりやすい。
わかりやすいが故に、認め難いものでもあった。
「それで、この屋敷を維持するというのですか?」
「いえいえ、これは、私の私財を投じたものです。そもそも町の施設ですらありませんよ?」
「くっ。」
伊藤さんが悔しそうに息を噛む。
気持ちはわかる。
でも、短気はだめだ。
町長との交渉は決裂したものの、その日はその館に泊まることとなった。
翌日、朝市に連れて行ってくれると言っていた。
この町のにぎわいを、自分の成功を見て欲しいと。
割り当てられた部屋のフカフカのベットで、死んだように眠った。
移動が長かったから、結構疲れていたんだ。
完全に油断していた。
「マスター! すまない、起きてくれ。」
ラストに揺すられて起こされた。
窓を見ても、まだ、夜中だ。
でも、疲れは取れていた。
いいもの食べたからな。味は覚えていないけど。
「どうした?」
〜わたしです。でんれいソラメです。
ラストの兜の上には、伝令ソラメが乗っていた。
念話で話しかけてきた。
〜たすけてほしいのです。ボスを。
「どういうことだ? あの町長のことか?」
〜ちがいます。ソラメたちのボスはブルーバードさまです。
「そいつは何者なんだ?」
〜ちえあるとり、ブルーバードは、まものといわれてちかろうに。
そこまで念話すると、いきなり飛び立った。
窓が空いていた。
「マスター、こんな夜中にすまない。だが、あの鳥がどうしてもとうるさく突いてきてな。」
「ん。寝ていられなかった。助けるの?」
「まあ、助けてもいいが、ほんとに魔物かもしれないしな?」
とりあえず、棚上げにして、朝まで眠った。
朝市は、夜とは違う形で盛況だった。
野菜や魚がメインだった。
本当の意味での朝市みたいだ。
そして、売る方も買う方も忙しそうだ。
つまり、お金が動いていた。
経済的に、いい状況だ。
「こいつらが、こうして儲かっているのも私の施策によるもの。お金が動けば動いただけ税収も入る。そして、町のインフラに投資して、街が潤う。潤った街に人が集まり、また、お金が動くのです。」
言っていることは、まともだった。
しかし、何か釈然としない。
「町長は、何で財産を築いたのですか?」
「ウチはこれでも貴族でね。代々、この町の町長をしてきた。それだけだ。」
つまり、そういうことだった。
この、町長に取り入れば、お金が入ってくる。
そういう立場の人間がたくさんいて、そういう立場の人間からお金が入ってくる。
そのお金を使って、いろいろな人を金で動かし、金を稼ぐ。
よくある、錬金術(物理)だった。
「紹介しよう。彼がこの町の商工会の会頭、ラッファーだ。」
「ラッファーです。あなたがたがあの。今後ともよろしく。」
握手を求めてきたので、伊藤さんに譲った。
ラッファー会頭は、60前後の歳と思われるが、細身で白髪のダンディーだった。
伊藤さんが、なかなか手を離さないのでちょっと困っている。
え〜? 伊藤さんの心に、ヒットしたのかよ。
ちょっ、ちょろすぎないか?
「このように賑わっているように見えますが、これはちょっとしたトリック。賑わっているのはここだけです。本来なら、もっと人で溢れ、身動きも取れないような市でした。」
ラッファー会頭は、残念そうな顔をしていた。
やっと、伊藤さんも空気を読んで手を離した。
「ガーターの町はご存知ですか? 職人の街、ガーターを。」
「話は聞いています。まだ、行ったことはありませんが。」
「鉱山が全国的に廃坑になって、1年。職人の町は、すっかり寂れてしまったようです。なにしろ、原料となる鉱石や石炭が枯渇してしまったのですから。」
ここでも、影響が出ていた。
「この街にも、それほど大きくはありませんが金山があったのですよ。ガーターの町との境界付近の高い山に。こちらも、魔物に制圧されてしまい廃坑になってしまったのです。」
それで、この町は、無駄に金細工が多かったのか。
単純に成金趣味だと思っていたよ。
このダンディーは、そういう細工を身に付けていないけど。
ああ、指輪ははめているな。
これはでも、常識の範囲だろう。
「ガーターの町との交易が復活すれば、この街も元の活気を取り戻せるのですが。嬢王陛下のお力で、なんとかなりませんか?」
彼は、試していたのだろう。
新しく来た国王は、自分たちの利益になるのか。
どれほどの力を持っているのか。
商工会を束ねる立場として、知っておきたかったのだろう。
「そうですね。お困りでしょう。でも、すぐに元に戻りますよ? 私たちは、そのためにきたのですから。王国の兵士たちより、よっぽど強いですから。」
「おお、それは本当の話ですか?」
「大丈夫なのです。任せて欲しいのです。でも、町長が、新しい王国になったって広報したくないっていうのですよ? 商工会の方で広報できないのです?」
ラッファー会頭は、ちらっと町長をみた。
おそらく、裏でべっとり繋がっているはずだと思った。
「それなら、商工会の方で広報しましょう。町長は、こう見えても忙しい方。皆に広報するのはむずかしかったのでしょう。」
「おい。お前、わ」
「町長、相手は精霊ですよ? どういう存在か、知らないとでも言うのですか?」
「いや、いい。後はまかせた。」
町長は、そう言って立ち去って行った。
「ここからが本番なのですが、国が新しくなって、町長はどうなるのですか?」
まだ町長に聞こえるところで聞いてくる。
「どの国でも、町長の認証は、国王がするのです。でも、国王の代理で領主が代行することが普通なのですよ。」
「つまり、どういうことですかな?」
「国が新しくなってしばらくは、暫定的に今までのままなのです。でも、新しい国の国王が認証しているわけではないのですよ? だから、あたらしい国の国王があたらしい町長を認証したら、町長は変わってしまうのです。」
「なるほど、なるほど。」
こいつ、知っていて言わせやがったな。
つまり、伊藤さんが新しい町長を認証するだけで、あの町長は失脚する。
そういうシステムだということだ。
選挙とかそういうシステムじゃないようだ。
「ラッファー会頭。ひとつ、聞いてもいいか?」
僕は切り出した。
「ええ、なんなりと。」
「この辺りで『ブルーバード』に会わなかったか? レインの古い知り合いらしいんだが。」
ハッタリをかました。
レインはちょっとびっくりしていたが、とりあえず黙っていてくれた。
「はて、『ブルーバード』。ああ、知恵ある鳥のことですな。このあたりにいるという情報、どちらで?」
「精霊たちがな、このあたりに来ているはずなんだと、しきりに言うんだ。なんとかできないかとな?」
「ほほう。そうですか。そうですか。でも、その情報こそ、かなり高いですよ?」
「いくらだ?」
「お金は要りません。そうですね。あの町長を失脚させてくれれば。」
なんだと?
おまえら仲間じゃないのかよ?
「あの町長、以前はわれわれによくしてくれて、町を大きく発展させてくれました。感謝していますし、裏取引も多くあります。しかし、鉱山が廃坑になったあたりから、女と酒に溺れるようになってしまい、もう、働かなくなってしまったのです。」
「町の人たちは何も言わないのか?」
「失礼ながら、この町は、貿易の街。実質的には商工会で回している町です。町長が働かなくなっても、機能上は問題ありません。機能上は。」
つまり、商工会で管轄できないような問題は、放置されているということだろう。
ああ、それで表通りだけ綺麗だったのかと合点が入った。
「とりあえず、その話は後だ。その前に、ガーターの町が心配になってきた。そちらを先にしよう。この町は、商工会でもっているなら、しばらくは大丈夫なんだろう?」
「お任せください。町長とはいろいろあるでしょうが、なんとかしましょう。あと、『ブルーバード』様の情報、集めておきますから。」
「頼んだ。」
僕たちはその後、商工会の会議所に連れて行かれて、ガーターの町への道を教えてもらった。
ガーターの町は、地元では、オールドガーターと呼ばれているらしい。
元領都だったことが原因だった。
そして、僕たちは、もらった地図に書いてある、地図を見ないと道かどうか判別できないような山道を、オールドガーターに向けて進むのであった。
昨日今日と、ブックマークありがとうございました。
投稿時間変更に伴い、PVがかなり減ったので、ちょっと不安だったのですよ。
心強くでありがたいです。もうすこしがんばります。
さて、今回のお話ですが、誰が悪いのか、何が悪いのか、どうしてこうなったのかを書きませんでした。
そのあたりは、次回以降で少しづつ小出しにしますよ?
間に合わなかったからじゃ、ないんだからね?
それでは、明日も、きちんと間に合えば、12時ころに。
訂正履歴
撮って → 取って
新しくきた → 新しく来た
やさいい声 → やさしい声(※誤字指摘感謝いたします。)