表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第5章 辺境じゃないですから!
77/224

第57節 国境の街 コソナ

新しい街への冒険が、ここに始まる。

今日は、めずらしく、そういう異世界ものっぽいお話です。

多分。

それでは、どうぞ。

「作戦会議をするのです!」


 鉱山の9階層が貫通してコソナ側と繋がった翌朝、ウーバン村の領主の館で、食堂のテーブルの上に浮いているレインが言い放った。

 テーブルの上には、作戦会議用に周辺地図が広げられている。

 今回は、その地図の上に、新しく一本の線が引かれていた。


「ここから、コソナの町に向けて、どう進むのか決めるのです!」


 レインは、地図の上に降り立つと、その小さなほぼ人形と言っていい指で、地図の一点を指していた。

 そこは、先般、マインウルフ化されたウーバン村の男たちが、魔法で開けた一穴。

 ひたすら岩石切断魔法を使うことで、山を貫通してしまった。

 山の反対側には、コソナの町があった。


 そこで、この通路をどう活かすのか。

 それこそが、今回の作戦会議の中心だった。

 レインは、コソナの町に乗り込む気満々である。


 まずは、偵察からと言いたいところなのだが。


「え? とりあえず、真っ直ぐ町に進むのはダメなの?」


 嬢王陛下になられた伊藤さんが、そうレイン先生に尋ねた。


「だ、だめなのですよ? 町に入るときには、普通だと入り口で通行税を取られるのです。入り口以外から入り込むと、とっつかまるのですよ? なんなら魔族扱いされるのです。」

「精霊でもだめなの?」

「精霊として、顔が売れていないと、ただの魔族扱いなのですよ。明らかに精霊っぽいと、そうはならないのですよ。」


 つまり、正面から乗り込めていないので、町の人たちに見つかることなく、こっそりと街に入り込む必要性がある様だ。

 でも、そうすると、どこから入り込むべきか。

 土地勘がないと、無理じゃないのか?


「そうさね。まず、コソナ砦周辺は、国境警備隊がいるからね。やめとくのさね。」


 領主のパトリシアがそう答えた。


「わかった。そこは避けよう。そうすると、やや南のルートになるが。」

「南には温泉があるのです! 温泉なのです! そこに向かうのですよ!」


 温泉押しなレイン先生。


「そうさね。温泉側なら観光客も多いから、知らない人が歩いていても気づかれにくいよ。ただね、外からの人間が多い町だから、砦と同じで警備は厳しいのさね。」

「じゃあ、目隠しになる森はどういう配置になっているんだ? さっき見た感じでは、砦までずっと森だったが?」


 僕は、結局自分で森の中を突っ切る立場になるのだから、何か有益な情報はないかと、森についての情報をもらおうとした。


「あ。ああ。忘れていたのさね。あれだけの森が放置されている理由さね。開拓はしようとしていたらしいのさね。でもね、出るんだよ。」

「何が?」

「魔物が。なんなら、魔族も出るらしいのさね。王国と帝国の境目の微妙な場所をうまく狙われて、色々出るのさね。」


 ちょ、ちょっと待って。

 それって、線路引けないじゃん。


「分かった。今の話だけで十分。結論として、川沿いか、砦沿い。国境警備隊に見つかってもいいから、魔物に見つからないことを優先!」

「こうなると思っていたのですよ。結局、また、捕まるのですよ。」

「いや、やめてよ。そう言うこと言うの。まだ捕まるって決まったわけじゃないんだし。」



 と、そんなやりとりがあった後、素早く準備して、鉱山を抜けたところに僕たちはいた。

 僕と、レイン。

 そして、伊藤さんと伊藤さんの配下のマインウルフ一太郎以下6匹とゴンザレス。

 さらに、ロッコとラストとユリが着いてきていた。


 見送りは、山賊団と大岩井さんだった。


「社長。あっしもついて行きテェところなんですが、あっちの町ではちょっと、顔を出せねぇ事情がありやして。」

「いや、親分はどこでもそうでしょう?」

「うぅ。そうでさぁ。国境警備隊は容赦ねぇんですよ。殺されねぇように気をつけるこってす。」

「わかった。」


 そして、大岩井さんが問題発言。


「魔物、いっぱいいますのね。配下が増える予感しかしません。」


 おい。

 ついてこないはずなのになぜ、配下が増えるのかね?

 大岩井さんは、この現場から一緒についてこないと言う意味が違かった。

 単独行動で、というか、マインウルフとともに、手下を増やす活動に出るつもりだ。

 まじかよ。


 配下のマインウルフ(元村人男)たちは、うんざりした顔をしていた。

 でも、着いていくんだろ? お前たち。



 そして、僕たちの作戦行動が始まった。


 まず、斥候の役割をマインウルフ軍団が行う。

 必要があれば、ゴンザレスが人語で警告しに来る。


 その後は、精霊騎士(自称)を先頭にして、僕以外がついていっていた。

 最後尾に、僕とユリがいた。

 流石に大きくなったユリは、もう僕の頭にしがみついたりはしない。


 え? なに?

 ああ、あれ?

 赤スライム?


 あのいかがわしい下着は却下した。

 お前らが着けてみろと言ったら、納得してやめてくれた。

 一度だけ、伊藤さんが胸にだけつく様にして、バインバインを偽装していたが、みなに一発でばれた。


「もう、しねーよ!」


 そう言って泣きながら逃げ去ったのは、つい昨日のことだった。

 村人たちに、慰められていたのは、見なかったことにした。

 そこは、やさしさなのか。

 あと、赤スライム自身も、何とか慰めようとしていたらしいが、火に油を注ぐ結果としかならなかったのは、ここだけの話だ。


 そして、その赤スライムは、盾形状になって、僕の腕についていた。

 色!

 色が良くないよ。

 防御力すごいけど。

 物理攻撃ほぼ効かないし、攻撃避け損なっても、盾の方で動いて庇ってくれるし。


 でも、僕本体は、相変わらず攻撃力皆無なのでした。



 ゴンザレス以下マインウルフ軍団の先導の元、コソナの町に向かっていた。

 結局、森の中で迷子になるのは馬鹿らしいと言うもっともな理由から、国境付近のわかりやすいところを通ることにした。

 なぜ、わかりやすいのか。


 道があるからだ。


 国境警備隊が、1日何回か、通るのだろう。

 明らかに獣道以上の道ができていた。


 でも、それは使えない。

 だって、すぐにバレるから。


 その道から、50メートルくらい森側を進む。

 マインウルフたちが国境警備隊を見つけるたびに止まって息を潜める。

 町に近づくにつれて、その警備隊員の来る間隔が徐々に短くなってきた。


「社長。これは、これは、まずいのじゃ。前方で魔族と女が戦っておるのじゃ。助けていい関係になるのじゃ!」


 このマインエルフ、一発殴ってやりたい。

 困っている人がいるなら助けよう。

 下心丸出しというのはいただけない。

 それとも、歳を食うと、そのあたりはっちゃけてくるものなのか?


「ん。ゴンザレスは余計なことを言わなくていい。今、ラストが向かった。」


 そして、ゴンザレスのこめかみをぐりぐりするロッコ。

 ゴンザレスは、すぐにマインウルフに戻って、駆け出して行った。

 いや、逃げ出していった。



 その姿はすぐに分かった。

 金色の鎧とか、関わり合いになりたくない。

 絶対関わっちゃダメな人だ。

 しかも金髪美人。


 鎧姿なので、ナイスバディーなのかどうかは判別できないが、推定ナイスバディー。

 僕の勘では、そうだった。

 急いで助けねば。


 なぜ、そんな勘が働いたのかというと、ゴンザレスが一生懸命戦っていたからだ。

 こいつ!

 こいつが、すけべ心丸出しで頑張っているということは、絶対にいい女だ。

 間違いない。


 でも、なかなかやばい展開だった。

 相手が悪い。

 空を飛ぶ相手だった。


 強いていうなら、翼竜?

 小型セスナ機ほどの大きさの、黒色爬虫類。

 しかも、翼があって空を飛んでいる。

 ヒットアンドアウエイで、確実に金色少女騎士(?)のHPを削っている。


 でも、よく見ると、削っているのはHPだけじゃない。

 鎧の方も削っていた。


 そして、それに気づいたのは、ゴンザレスも同時だった。


 突然、ゴンザレスとその息子たちが、観戦モードに入りやがった。

 もちろん、こいつら下心丸出しなのだから、そうなるだろう。

 鎧が少しずつ外れていくところを、特等席で観戦したいようだ。

 そして、あのゴンザレスの息子たちである。

 血は争えない様だった。


 マインウルフ軍団が戦力外になったところで、僕たちの出番になった。

 赤スライムの盾による、タンク役を僕が。

 槍による攻撃役を、ラストが。

 そして、回復薬によるサポート役をロッコが。


 この3人の立ち回りで、とりあえず、これ以上の被害が出るのを防ぐことができた。

 しかし、これでは現状維持しかできていない。

 ジリ貧だ。

 決め手にかけるのだ。


「助太刀、かたじけない。あの飛龍の狙いは私の持つ、宝玉『竜の玉』だ。申し訳ないが、私では攻撃力に欠ける。遠距離魔法が使えるものがいれば、すぐに終わるのだが。」


 そして、僕たちは、ゴンザレスたちに冷たい視線を送った。

 こいつら、揃いも揃って、遠距離攻撃魔法しか使えないはず。

 今、活躍の時だろ。

 恩を売っとけよ。


 そう思うのだが、こいつらの中では、エロい欲求の方が勝っていた様だった。

 すなわち、早く全ての鎧を外させろと。

 飛龍、何やってんだよ! 早くしろと。

 なんなら、僕たちにわからないことをいいことに、マインウルフ軍団は飛龍に声援を送っている感じだ。


 なんて残念な仲間達。

 でも、僕だって見たくないわけじゃない。

 僕の判断では、あの飛龍には、全ての鎧を外すつもりも能力もない。

 だから、すすんで前に出た。


 理由は簡単だった。

 飛龍の狙いが上半身に集中していたからだ。

 おそらく、「竜の玉」とやらは、首飾りかネックレスか何かなのだろう。

 首からぶら下げて、胸元にあると思われる。


 なぜなら、胸ばかりが集中して攻撃されていたから。


 飛龍が、よっぽど倒錯した性癖でもないかぎり、それ以外の理由が思いつかない。


 僕たちは頑張ったが、攻撃を防ぐのが精一杯だった。

 ラストの槍や剣は、飛龍の鱗には通用しなかった。

 なんなら、金属を弾く様な金属音が飛龍からは返ってきていた。

 どんな素材でできているんだよ?

 生き物なんだろ?


 ジリ貧で、こちらもギリギリ。

 金色騎士(仮)も、表情に焦りが見える。


「たいちょうー! みんなつれてきました〜!」

「ば、バカ! 死にたいのかっ! すぐに引けっ!」


 遠くの方から、女の子の声と、30人くらいの兵士が走ってきている。

 いや、人数増やしてどうにかなるもんじゃないだろ?


「やむを得ん! 『剣斬けんざん!』」


 金色の大剣から、金色の衝撃波が飛龍に向かって放たれた。

 飛龍にヒットした。

 大きくのけぞる飛龍。

 そして、飛龍は地に落ちた。


 技を放った金色騎士(仮)も、大地に倒れ伏した。

 やばい技だったらしい。

 介抱しようとしてすぐにその手を止めた。


 飛龍が飛び立ったからだ。

 ダメージはでかい様子。

 でも、空に逃げられては、効果的に攻撃できない。

 なんなら、飛龍にとっては今が最大のチャンスですらあった。


 そして、飛龍が上空高くで、こちらを、金色騎士(仮)を見やって狙いを定め、突っ込もうとしたその瞬間。



 ズドォォォォォン!



 空の上で、翼竜の頭部だけが吹っ飛んでいた。

 あ、あれ、どっかで同じ光景を見まくった記憶がある。

 ホワイトベアーだよ。


「ビクトリー! なのです!」


 飛龍の方からすごい勢いで飛んできたレインが、目の前10センチまで近づいてドヤ顔してきた。

 サムズアップ付きである。

 また、発破なさったのですね。

 新型爆弾、使わせてもらえなくて、いろいろ溜まっていたのですね。

 わかります。


「す、すごいな。おまえの仲間には、すごい魔法使いがいるのだな。あの飛龍、魔法抵抗値がおかしくて、魔法はほとんど効かないんだぞ?」


 金色騎士が、そんなことを言ってきた。

 お前! さっき遠隔魔法を、とか言っていたくせに。

 じゃあ、マインウルフ軍団が手を出さなかったのは、それを知っていたからかよ!

 エロスに期待してじゃなかったのかよ!

 疑って悪かったよ!


 そして、金色騎士の胸当てが音を立ててひび割れ、地面に落ちた。


 おそらく、レインの爆破の余波が、最後のとどめとなったのだろう。

 余談だが、ゴンザレスたちの予想通り、ナイスバディーだった。

 インナー越しだったが、間違いない。


 そして、それをガン見していたら、伊藤さんに目隠しされてしまった。


「今のうちに何か羽織って下さい。童貞にその胸は、刺激が強すぎます!」

「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」


 レインが何かを羽織らせたのか、伊藤さんの手が外れた。

 そして、耳元でささやかれた。


「野中? 背伸びとか嘘はすぐにバレるから。気持ちはわかるけど。」


 わかるなら突っ込むなよ!

 童貞指摘すんなし!

 こんな素敵なナイスバディーのおねぇさんの前で、童貞指摘すんなし!


「あ、ああ。取り込み中すまない。助かった。礼を言おう。」


 金色騎士の周りには、先ほど救援に来ていた兵士たちが集まっていた。

 助けを呼びに行ったアホの子っぽい女の子兵士も一緒だった。


「いえ、当然のことをしたまでです。」

「アオン!」

「アオーン!」

「バフゥ!」


 きりっとした笑顔でそう伝えたのだが、言った瞬間に、マインウルフたちから激しいツッコミの嵐が入ってきた。

 でも、いい。

 一般人にはわかるまい、こいつらが人語を解することも、つっこんでいることも。


「嘘つけ! 下心丸出しだったくせに!」


 あ!


 どうしても人語でツッコミたかったゴンザレスが、マインウルフたちの中で四つ足のままマインエルフになって、しょうもないことを吠えていた。


「え? 何でこんなところにエルフが? というよりも、下心丸出しだったのか!」


 エルフよりも、下心丸出しの方が重要だったらしい。

 乙女心は難しい。


「隊長。あの、飛龍、どこに行っちゃったんですか?」


 アホの子っぽい兵士の女の子が、金色騎士(仮)に尋ねていた。

 たしかに、飛龍が落ちていたあたりにその姿はなかった。


「いかん! また復活したかもしれん!」

「ふぇ? 死体ならレインが回収したのです。」

「マスター。こいつ、内側からなら結構簡単に捌けたぞ?」


 ラストが捌いてレインが空間魔法で回収したらしい。


「なんだと。アイテムボックス持ちか。商人のキャラバンか何かなのか?」

「ま、まぁ、そんなところです。」


 咄嗟に嘘をついてしまった。

 100%嘘というわけでもないところが、微妙でもある。


「礼がしたい。町まで来てくれるか。兵士なのでな、大したもてなしはできんが、歓迎しよう!」


 そう言われて、僕たちは国境の街コソナに連行されるのだった。


 そう。

 連行されてしまっていた。

 かれらは、「国境警備隊」。

 職務に忠実だった。


 だって、マインウルフ6匹も配下にして使っていたら、人間だって思われないよね。

 魔族の疑い濃厚だよね。


 そして、コソナの砦内部にある地下牢で、その日の夜は一泊するのであった。

 男女別部屋で。

 ロッコとラストは僕にひっついて離れなかったので、それは許してもらえたらしい。

 見た目お子様なのが功を奏したようだ。


 ちなみに、途中で連行されていることに気づいて、マインウルフ軍団(ゴンザレス含む)は、いつの間にか風の様に消え去っていたことをここにお伝えしたい。



 裏切り者っ!


 もちろんレインも捕まっていなかったことは言うまでもない。

昨日か、今日か? ブックマークありがとうございました。

ブックマークした方が他にブックマークした作品が、表示されますよね、下の方に。

これが増えていくのが、とても参考になります。

同じ系統だったり、毛色の違う系統だったりと、いろいろと考えさせられます。


さて、本文のお話です。

やっぱり、捕まりますよね。

そして、捕まらないマインウルフとレイン先生。


明日は取調べからです。

作者が、取調べを受ける様なことになっていなければ、明日の12時頃に。


訂正履歴

 鉱山の9階層が貫通してコソナ側と繋がった翌朝、(冒頭加筆:日時を明確にするため)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ